(本記事は、西村隆男氏の著書『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

お金の運用は長期視点で!──ポートフォリオマネジメント

資産配分
(画像=bleakstar/Shutterstock.com)

人生には何かとお金がかかります。すでにお話ししたように、結婚資金、住宅購入資金、出産費用、教育資金、自動車の購入費、家族旅行の費用、老後資金など人生にかかる費用を計算するために、これからの自分の人生をイメージしてみることがライフプランニングの第一歩となります。

人生に必要なお金のなかでも、子どもの教育費用、住宅取得費、老後費用は人生の3大費用と呼ばれ、とくに考えておかなければいけないものです。ちなみに、幼稚園から大学までの教育費用の平均額は1人あたりおよそ1000万円、住宅の平均取得費用は3800万円、老後生活費用は夫婦二人世帯で8000万円(年金を含む)というデータがあります。

多くの人にとってこれらは大金なので、一朝一夕で用意できるものではないでしょう。近年の超低金利の時代に、預貯金しているだけでは資産はほとんど増えません。そのため、長期的な展望を持って、できる限り早いタイミングで、余裕を持った資金計画を立てる必要があります。

そこで、お金を増やす方法として「投資をしましょう」という話になります。しかし、「これで儲かる」とうたう怪しい金融商品やサービス、金融機関がお金を集めるためのセールストークがちまたにあふれ、一体何が正しいのか、誰を信じればいいのかわからない……という人もいるでしょう。

そこでお伝えしたいのが、ポートフォリオマネジメントという考え方です。

●「ポートフォリオ」って何?

ポートフォリオ(portfolio)とは、直訳すれば書類入れカバンです。そう書くとおかしく聞こえるかもしれませんが、カバンの内部が蛇腹のようにいくつかに分かれていて、書類を分類整理して持ち運びできるものです。茶色っぽい厚紙でできたものを文房具店などで見かけたことはありませんか?詳しく説明し過ぎましたが、いつでも出し入れできる柔軟性がうけ、欧米のビジネス界で古くから活躍してきたツールです。

金融の世界では、資産を特定の金融商品に偏って配分することなく分散して持つことでリスクを回避し、バランスよく資産を運用することを「ポートフォリオ」と表現します。ファイナンシャルプランナーなどの専門家もよく使用している言葉です。「ポートフォリオ」は主にビジネスや金融の世界で使用されることの多い言葉ですが、最近では教育現場でも「生徒一人ひとりにあった学習のポートフォリオを作成する」といった表現が用いられることもあります。

●重要なのは「何に投資をするか」ではない

財産三分法とは、「資産は現金・株式・不動産の3つに分けて持ちなさい」という昔からよく言われている教えです。将来のリスクを考慮して資産形成をおこなう分散投資の考え方の基本です。いまなら、(1)預貯金、(2)株式や債券などの金融商品、(3)不動産ということになるでしょう。

もっとも、株式や債券を中心とした金融商品はきわめて多様な商品が出回っています。株式や債券のほか、投資信託も種類が多く、加えて保険料を積み立てたり一時払いしたりする投資型の保険商品まであるので、それらのなかから自分にぴったり合った商品を選択するのは大変な作業です。

ただ、少なくともひとつの選択肢にすべてを委ねることなく、複数の資産に振り分けておくことでリスクを分散し、資産価値が大幅に減少してしまう事態を避けて、できる限り資産価値の増加を目指すことが大切であることは言うまでもありません。財産三分法はいまでも通用する考え方ですが、今日のパーソナルファイナンスではアセットアロケーション(asset allocation)という専門用語で置き換えられます。「アセット」は「資産」、「アロケーション」は「配分」という意味です。

資産には、実物資産と金融資産があります。実物資産とは、価値ある現物の資産としての金やプラチナといった貴金属、戸建て住宅やマンションといった不動産などを指します。金融資産には前述のとおり預貯金をはじめ、株式や債券、投資信託、保険などがあります。

繰り返しになりますが、より重要なのは「何に投資するか」ではなく、「どのように資産を配分するか」です。

ポートフォリオマネジメントは、資産配分を考え、それぞれの年齢や家族構成、ライフプランに最適な資産運用を目指すことです。一般的には、年齢が上がるほどお金が必要になるときまでの時間が短く、リスク許容度は下がるとされています。ですから、それに応じてポートフォリオの中身もリスクの少ない商品に組み替えていくことになります。家族構成についても、いつ教育費などの出費があるかによってポートフォリオを最適にする必要があるでしょう。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

●3大要素のバランスを考える

ポートフォリオマネジメントでまず考えるべきなのは、自分にとって最適な資産のバランスです。それを考えるためには、流動性、安全性、収益性という3つの要素の検討が欠かせません。これらは資産運用の3大要素と呼ばれています。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

流動性は、いつでも自身の資金として引き出すことができて、自由に使用できることを示す特性です。すぐに現金化できるという意味で、換金性とも呼ばれます。

安全性は、資産の価値が変動して運用する前に比べて大きく減少するといったことが少ないこと、いわゆる安定した運用方法であることを指します。変動幅が小さいものほど安全性が高いと言えます。

収益性は、運用する前に比べて資産の価値が増加し、利益を得られることを示す特性です。利回りそのものを指すといってもよいでしょう。

これらの3大要素をすべて兼ね備えた資産は、残念ながらありません。預貯金は流動性や安全性は高いものの、収益性は限りなくゼロに近いほどに極めて低いのが現実です。株式は、ほぼ毎日売買できることから流動性があり、株価が上昇する可能性があったり確実に配当収入が得られたりすることから収益性も期待できますが、一方で安全性はといえば、会社の業績や経済情勢による株価の暴落などもありえるので不安要素が残ります。

このように、それぞれの資産によってこれら3大要素のレベルが異なってきます。一般に、安全性を重視すれば収益性は下がります。したがって、運用するときにはライフプランに合わせ、重視する要素を慎重に判断し、資産を分散してバランスをとる発想が必要になるのです。

金融資産に関して3大要素の観点から大まかに比較してみると、おおよそ次のような表になるでしょう。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

自身でライフプランニングをするときは、子どもの教育資金やマイホーム購入の準備資金、あるいは老後資金として、どれだけの額がいつ必要になるのかを考えて、投資のタイミングや金融商品を選択していく必要があります。

仮に、子どもの教育資金として数年以内に大きな金額が必要とわかっている場合、これから資産を流動性の低い資産に振り分けることはおすすめできません。不動産といった流動性の低いものに投資した場合、必要なときにすぐその不動産を売却してお金を得ることは難しい可能性があるからです。

また、社会に出て間もないころは投資に回せるお金も少ないでしょうから、安全性の高い資産にばかり配分していても、大きく増やすことはできません。そのため、若いころは多少リスクを取って収益性が高い資産に多めに振り分けることになるでしょう。しかし、高齢になりリスク許容度が低くなるにつれ、安全性の高い資産の比率を上げていくのが一般的です。

●利回りを予測する

3大要素のバランスを考え、それらの要素を持ったどの金融商品に資産を振り分けるか目星をつけたあとは、それぞれの金融商品の利回りを予測します。

利回りについては、3章でもお話ししました。金利と混同しやすい用語ですが、金利は額面金額に対して毎年受け取ることのできる利子または利息の割合、利回りは投資額に対する利子も含めた1年ごとの収益の割合のことでしたね。

ポートフォリオを組む上で、利回りの計算は大事です。実際に、自分のポートフォリオに組み込む金融商品を選ぶときには高い金利にばかり目が向きがちですが、その商品を購入するための費用や手数料を加味して検討する必要があるからです。

ここでは国債を例にして、利回りを計算してみましょう。国債(年利2%の固定金利)を100万円で購入し、5年後に97万円で売却したとして、利回りを計算してみます。

はじめに、5年間に受け取る利子と売却による損益は以下のようになります。

受取利息 1,000,000円×0.02×5年  =100,000円
売却損益 1,000,000円-970,000円 = 30,000円(売却損)

したがって、5年間の損益は次のように計算できます。

100,000円-30,000円=70,000円

結果、収益の年平均利回りは、次のようになります。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

つまり、この国債は年利2%と表示されたものですが、5年で売却した結果、実質的には1.4%の利回りだったことがわかります(ここでは税金を考慮していません)。

株式の利回りはチャートから、投資信託では過去の分配金や基準額の推移から利回りを予測し、なるべく利回りの大きいものをポートフォリオに組み込むようにします。

●いつ買うかが問題だ

ポートフォリオマネジメントのポイントは、分散することです。「1つのかごに卵を盛るな」という格言があります。欧米のパーソナルファイナンスのテキストによく出てくる表現で、落としたら全部割れて使い物にならなくなるから、いくつかのかごに分けて保管せよという意味です。まさに、リスクを最小に抑えるための工夫で、分散投資の重要性を象徴するものです。

実は分散投資には、投資先や金融商品を複数に分ける資産分散と投資タイミングを分ける時間分散の2種類があります。資産を分けることについてはこれまで何度もお話ししてきましたが、ポートフォリオマネジメントのステップとしてここでお話しするのは、時間分散の考え方です。

投資の基本は、安く買い、高く売って利益を上げることですが、誰もそのタイミングを読み当てることはできません。そのため、一度にすべての資金を投資商品へ回すことなく、時間をずらして資金を投入することを時間分散と呼びます。株式や外国通貨は毎日相場が変動するので、タイミングをずらして少しずつ購入していく方法をとることで、損益の平準化を図ることができるわけです。

具体的な方法として、ドルコスト平均法で説明しましょう。ドルコスト平均法とは、たとえば毎月決まった日に一定の購入価格で金融商品の購入を続け、支出を平準化させる購入方法です。長期的にコツコツ積み立てていく資産形成の手法として知られています。毎月1万円ずつ金を購入していくといった投資の仕方をしている人は、ドルコスト平均法を使っていることになります。ドルコスト平均法は最終的に、投資対象である金融商品の平均取得金額を引き下げる効果があります。具体的に見てみましょう。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

上の表を見ると、1月から8月の間のドルが最安値だった時点(1ドル=104.5円のとき)で全額の8万円分ドルを購入した場合は765.5ドルが手に入り、最高値時点(1ドル=108.4円のとき)で購入した場合は738ドルしか手に入りません。一方、ドルコスト平均法を使って毎月1万円ずつ8ヵ月間ドルを購入し続けた場合は、その間の751ドルが手に入ることになります。

「それなら最安値のときに全額投資したい」と思うかもしれませんが、いつが最安値なのかは判断がつきませんから、タイミングを分散するのは合理的です。毎月一定額ずつ購入を継続することで、円高のときはドルを多く購入でき、円安のときは反対にドルを少なく購入できます。トータルでは、あるタイミングで一気に購入するよりも平均取得金額を低く抑えることになるのです。

ただし、実際に外貨を購入するときには金融機関に為替手数料を支払うことになるので、そのコストを差し引いて考える必要があります。

ポートフォリオマネジメントは、(1)3要素のバランスを考え、(2)それぞれの利回りを予測して金融商品を選び、(3)買うタイミングを決めたら、あとは実行するだけです。

投資に王道は存在しません。必ず収益を上げられる金融商品の選び方なんてないのです。もしあれば、誰しもがその王道を選択するでしょう。ライフプランに合わせたポートフォリオマネジメントをおこない、半年ごとに運用状況を確認し、必要に応じて見直すことも大切です。まさに出し入れ自由なポートフォリオなのですから。

●銀行や証券会社が倒産したら?

預け入れたお金が減ることなく、超低金利とはいえわずかでも利子をつけて手元に引き出せるという安全性においては、預貯金に優る金融商品はありません。預貯金は、預け入れたお金が保証される元本保証の金融商品です。

ただ、銀行は長引く低金利を背景に経営環境が厳しくなっており、いずれ預金者から口座維持手数料を取るようになるとも言われています。もしこのシステムが導入されると、銀行に預けることで手数料分だけ元本が減ることになります。

また、もしお金を預け入れている銀行が倒産したら、あなたのお金はどうなるのでしょうか?銀行が潰れることはあまり想像できないかもしれませんが、実際、過去に倒産した例はいくつかありました。

銀行が倒産した場合は、預金者1人当たり一定額までの預金額を国が保障する預金保険制度があります。現在の預金保険制度で保障される金額は、元本が1000万円までとなっています。ただし、預金とはいっても、これまでも何度か出てきた外貨預金は保護の対象外となるので注意が必要です。

証券会社が破綻した場合はどうでしょう。投資者から預かった資産は分別管理することが法律で定められているので、破たんしても資産は返還されることになっています。もし返還されない場合でも、投資者保護基金による補償制度によって、原則として一人あたり1000万円を上限として補償されます。ただし、言うまでもありませんが、株式の値下がりなどによる投資者の損失を補償するものではありません。

経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書
西村隆男(にしむら・たかお)
横浜国立大学名誉教授。経済学博士。財団法人消費者教育支援センター主任研究員、横浜国立大学助教授、アイオワ州立大学客員研究員などを経て、2000年より横浜国立大学教育人間科学部教授、東京学芸大学連合大学院博士課程教授(兼務)。2017年定年退官、現在は横浜国立大学名誉教授。専門は金融教育、パーソナルファイナンス、消費者教育。消費者教育推進会議会長、日本消費者教育学会会長などを歴任。現在、文科省消費者教育推進委員会委員長、金融経済教育推進会議委員、金融広報中央委員会委員などを務め、全世代にわたる国民の金融リテラシー向上を目指した活動を続けている。

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