(本記事は、西村隆男氏の著書『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
人生っていくらかかるの?──ライフプランニング
結婚式の費用の平均は300~400万円、子どもの教育費は保育園・幼稚園から大学卒業までに一人1000万円、ゆとりある老後のために退職時には3000~5000万円などという記事を新聞や雑誌でよく見かけるようになりました。人生とはなんとお金のかかるものなのでしょう。
もっと費用のかかる住宅のコストが入っていないと思う人もいるかもしれませんが、住宅はマンションや戸建て住宅を購入したとすれば、それ自体が資産価値を生み出します。住宅ローンは働き盛り世代にとって家計最大の負担費目ですが、資産として流通市場でその時点での一定の売却価値を持つものです。
一方、収入を考えてみるときには生涯賃金という考え方があります。
厚生労働省が毎年調査をおこなっている賃金構造基本統計調査の数値をもとに生涯賃金などを算定して公表する「ユースフル労働統計」の2019年版*によると、卒業後60歳の定年まで勤めあげたとしたときの生涯賃金は、大学・大学院卒の男性が2億7000万円、女性が2億2000万円、高専・短大卒の男性が2億2000万円、女性が1億8000万円、高卒になると男性が2億1000万円、女性が1億5000万円となっています。
ちなみに、これらの金額は退職金を含んでいません。また、この統計資料には企業規模別の数値も出ています。興味がある方はインターネットで検索してみてください。
私たちは2億5000万円ものお金を約40年かけて稼ぎ、それを毎日の食事はもとより、子どもの教育や住宅購入、たまに行く旅行などに費やして生きていることになります。そこで考えてみたいのは、いつのどの時期に、何にどれほどの費用をかけていくか、予想される収入をそれぞれの目標や計画によってどのように分配していくかです。これがライフプランニングです。
ライフプランニングのステップは、(1)正確な収入を把握する、(2)負債の利用を考える、(3)バランスシートで家計を評価する、(4)キャッシュフロー表で計画を立てるというものです。それでは、ステップごとに解説します。
*独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計」2019年
●正確な収入を知っていますか?
ライフプランニングは、収入を正確に把握することから始めます。所得とは、働いて得た収入(給与所得)、事業から得た収入(事業所得)、持っている資産が生み出す収入(不動産所得・利子所得・配当所得)のことです。働いて得た給与は、毎月現金で支払うことが労働基準法で事業主に義務づけられています。
給与は、明細書にもよりますが、基本給や残業手当、通勤手当などの各種手当を含めた総支給額が示されています。そこから税金や社会保険料、会社で特別に積み立てられているものなどが引かれて、最終的な手取り額となります。それぞれ明示されている項目と金額を確認しておきましょう。
日本の所得税は、所得が高いほど税率も高い累進課税制度をとっています。所得税は前年にどれくらい所得があったかによって税率が決まります。住民税も前年の所得に応じて課税されています。入社1年目は前年の所得がなく住民税がかからないので、支払う税金は少なくなります。しかし、入社2年目の4月からは住民税が引かれるため、手取り給与が1年目より少なくなるのが一般的です。
社会保険料は、病気になったときに病院へ支払う治療費や薬局に支払う薬代といった医療費を捻出するための短期保険料(掛け金)と、老後の生活のベースとなる年金の積み立てに当たる長期保険料(掛け金)から成ります。
給与の総支給額から税金や社会保険料などを差し引いたものは、「可処分所得」と呼ばれ、自分で自由に使えるお金となります。会社や個人によっては、財形貯蓄や社内預金、持株会の出資金、自身の判断でかけている確定拠出年金の保険料のほか、組合費など会社独自で設定した項目が天引きされていることもあるでしょう。
自分の年収をしっかりと把握しておくことは、ライフプランニングの基本です。年2回賞与のある会社では、それも含めて自分の年収がいくらなのか、総支給額と手取り額の両方を把握しておきましょう。
●負債を利用すべきか?
会社が新しく事業を始めるときや事業を拡張しようとするとき、その資金を調達するために金融機関から融資を受けたり株式を発行したりします。
個人でも、より快適な生活を実現しようと新たな家電製品を購入したり、車を買い替えたりすることはよくあることです。そのとき、クレジットやローンといった負債を利用するという方法があります。必要な資金が貯まるまで購入しないという選択もできますが、その商品を活用することで得られるベネフィットを考えると、負債を利用してでも商品を早く入手したほうがいいと判断することもあるでしょう。
高額な商品であるほど、負債の利用を考えることになります。人生で最も大きな買い物は住宅でしょう。マンションや戸建ての中古物件であっても、大都市圏やその近郊であれば、最低2000~3000万円はするものです。高額な物件になるほど、住宅ローンを利用しなければ入手するのは難しくなります。
しかし、住宅は不動産として資産価値のある商品です。購入したときには負債がたくさん残っていますが、売却すれば一定の価値となる特異な商品なのです。さらに、建物の部分は時間の経過とともに価値が減っていきますが、土地は経済状況によっては資産価値が高まることもありえます。
仮に、共働きの夫婦が5年後の住宅取得を目標にして、毎年100万円を住宅資金として貯めるとしましょう。家賃を払いながら貯金をするのは大変ですが、毎月5万円の積立預金をして、ボーナス時には20万円をプラスして、5年で500万円を貯めたとします。
3000万円の物件を頭金500万円で購入すると、不足する2500万円は住宅ローンを利用することになります。借入れるときの年齢にもよりますが、定年する前には完済しているのがベストであることも考慮して返済計画を立てます。
もちろん、毎月の返済額が生活を圧迫するようなら、もっと安い物件の購入を検討するか、購入時期を遅らせて頭金を増やすしかありません。次の表は、2500万円の住宅ローンを年利2%で借りたとき、返済期間が25年・30年・35年の場合で、住宅ローン会社に支払う金額がどのくらい違うのかを比較しています。
この例では、「いま住んでいる賃貸物件の家賃が10万円なので、毎月9万円少々の返済であればなんとかなる」と思うなら30年返済、さらにもう少し頑張れるなら25年返済がベターです。
知っておきたいことは、返済の途中で少しでも家計に余裕ができたと感じたら、繰り上げ返済ができることです。返済期間が短くなれば、それだけ利息として住宅ローン会社に支払うお金も少なくて済みます。
●バランスシートで家計を評価する
先ほどの例で、住宅ローンを借入れる前の家計の状態を、コーポレートファイナンスでよく使用するバランスシート(貸借対照表)になぞらえて表にしてみます。
バランスシートでは左に資産、右に負債と純資産を書き、「資産=負債+純資産」となります。すべての資産のうち、負債と純資産がどれくらいを占めているのかがひと目でわかり、簡単に財政状態を把握できるようになっています。
ローンを利用して住宅を購入した後は、次のように家計のバランスシートが大きく変化しました。不動産購入に伴い、税や手数料などで150万円の現金支出があったとします。
そして5年後には、次のようになったとします。
資産の総額が多くても、負債が多ければ純資産は小さくなることが一目でわかります。住宅ローンの繰り上げ返済などを利用して負債を減らしていけば、純資産は大きくなっていきます。総資産が大きくても負債が多ければ、健全な資産管理ができているとは言えません。純資産を見極めることが大切です。
不動産を購入した場合、会計上は土地と建物に分かれます。分譲マンションのような場合は、土地の所有権は区分所有といって、住居部分の面積に応じた持分で示されることになります。
ライフプランニングでは、ある時点における資産全体と負債全体の把握はとても重要になります。先の例で作成した資産や負債を整理する表は家計のバランスシートといい、コーポレートファイナンスのバランスシートをパーソナルファイナンスに応用したものです。
家計のバランスシートを作成してみて、純資産がマイナスになっていたり、純資産が前回作成したときに比べて減っていたりする場合には、お金の使い方を見直す必要があるといえます。
●キャッシュフロー表で未来の計画を立てる
「老後のことまで考えましょう」と言っても、みなさんにはまだ想像がつかないかもしれません。しかし、目標や計画を立てておくことは、決して無駄ではありません。必ずしも計画どおりにはいかないにしても、指針があるとないとでは大きな違いがあります。
ライフプランニングをするとき、ファイナンシャルプランナーはよくキャッシュフロー表を作成してみることをすすめます。キャッシュフロー表は、1年ごとのお金の動きを累積的に把握するためのもので、老後の生活も含めた90歳くらいまでの表を作成するのが一般的です。「人生100年時代」といわれる昨今ですから、大きなライフイベントをキャッシュフロー表に組み込んでみて、安定した老後資金を確保できそうか、長期的な視点でライフプランニングすることは欠かせません。
しかし、突然90歳までの表を作成するというのは少々ハードルが高いので、まずは5ヵ年計画を立ててみましょう。シングルの方は、5年以内に結婚すると仮定して考えてみるといいでしょう。結婚する・しないは本人の自由ですが、結婚や出産といったライフイベントは家計に大きく影響するので、前もってシミュレーションしておくと後々困りません。結婚すれば結婚式費用、出産すれば出産費用のほか、子どもの保育費や教育費などもかかってきます。ほかにも、住宅購入や海外旅行など大きな支出を伴うイベントを自由に想定して、計画を立てます。
5ヵ年計画ではなく、長期的なライフプランニングにも挑戦してみたいという方は、5ヵ年計画用のキャッシュフロー表をもとに20年分くらいの表を作成してみてもいいでしょう。
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