(本記事は、西村隆男氏の著書『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

ダイヤモンドが高いのはなぜ?──希少性

ダイヤモンド
(画像=Kwangmoozaa/Shutterstock.com)

●ダイヤモンドと石ころの違いは?

子どものころ、遠足に出かけた道すがら、湖や河原できれいな石ころを拾って持ち帰った経験はありませんか?もちろんお金を支払うことなく持ち帰ったはずです。しかし、宝飾店のショーケースに並ぶダイヤモンドの数々は、なんと高額な商品なのでしょう。同じ石なのに!

なぜ、小石とダイヤモンドの価値はこんなにも違うのでしょうか?どちらも同じ自然界に存在しているものなのに、河原や湖岸の小石は無数にあり、ダイヤモンドは極めて少量しか採掘されません。こうした、資源には限りがあること、とくに少ない状況にあることを経済学の用語では希少性と呼びます。そして経済学とは、希少な資源をどう配分していくかを考える学問です。

ダイヤモンドに高額の値段をつけて売るのは、採掘し、磨き、流通させることに多額の費用がかかっているという理由もありますが、「その値段を出してでも手に入れたい」と思う人に配分しようとする経済の原理によるものです。

同じような例は、旅行会社が出している国内旅行や海外旅行のパンフレットにも見られます。ホテルや旅館の収容力(部屋数・部屋の広さなど)や、列車や飛行機の座席数は限られています。これも希少な資源です。これらをうまく配分するために、休日料金やシーズン料金をもうけて調整を図っています。最も高い料金は、お盆とお正月、それにゴールデンウィークです。

最近は秋のシルバーウィークというのもありますね。そうした多くの人が休暇を取ることができて、旅行できる時期は価格を高めに設定して、「その価格でもいい」と言う人に買ってもらうことになります。一方で閑散期には閑古鳥が鳴く旅館も多いので、繁忙期に価格を上げて閑散期にはぐっと下げることで、年間の売り上げを平準化しているとも考えられます。

無数に走る道路についても考えてみます。私道でない限り、すべての道路は誰もが自由に走ることができます。朝夕のラッシュ時には、都市圏の道路はどこも出勤や帰宅する車で混雑します。道路渋滞です。

資源を利用しようとする人にその資源をうまく配分することこそ経済学が解決すべき課題なので、混雑時には一定区間の通行料を200円にするといった通行税を定めて、利用しようとする車の量を調整しようと考えます。アメリカや北欧では、こうした通行税を課した道路をあちこちで見つけることができます。

●お金もまさに希少資源!

空気は無限にある資源ですが、水も電気も希少資源ですし、私たちの生活の大前提となるお金、これもまた限られた資源です。もし、世の中に有り余るほどのお金がばらまかれていたら、その価値は薄れてしまいます。希少な資源だからこそ、お金には価値があるのです。私たちは給与や所得の範囲内で、生活費や交際費、家族旅行の楽しみに使うお金など、上手にお金を配分しなければなりません。しかも、すべての人に公平に与えられた1日24時間、週に168時間という、これまた限られた時間という資源を、より有効に使う工夫が必要となります。

ライフプランニング(人生設計)やアセットマネジメント(資産の運用や管理)はまさに、限りあるお金と時間を最大限有効に使って、より幸せな毎日を送るためのスキルにほかなりません。

●大都市圏の地価は高い

どこに住もうか考えたとき、物件や土地の値段は重要な判断基準になるでしょう。一般的に東京や大阪の中心に近いほど家賃や地価が高く、不動産価格は都心から同心円状に少しずつ低くなっていきます。土地もまた代表的な限りある資源です。

日本の国土面積は、山々を入れても約37万平方キロメートルしかありません。アメリカ全土と比べたら26分の1に過ぎません。都心に勤務先があるなら、交通の便や周囲の環境、間取り、築年数といった要素を考えて、賃貸マンションなどを探すでしょう。駅に近くて、安くて、環境がよくて、部屋も広く、比較的新しい……という条件をすべて満たす物件は、まず皆無です。だからこそ、初めに所得から住居費にどれくらい充てられるのか資源配分を考え、次にそれらの条件に優先順位をつけるしかありません。

都心や都市近郊の不動産価格が高いのは、基本的には土地の値段(地価)が反映されているからですが、リフォームするなど物件に付加価値をつけて(つまり希少性を高めて)販売することもよくあることです。

リフォームでは、床暖房やオール電化、IHキッチンなどを目玉にして販売することは少なくありません。こうした付加価値はまぎれもなく、ほかとの差別化であると同時に希少性の高さを前面に出した例であり、高い価格で物件が売れるようにするためのものです。文字どおり「希少物件」という用語も不動産業界ではよく使用されています。

とくに分譲マンションや分譲住宅は一度購入したら、家族構成に大きな変化があったり転勤が決まったりといった特別な事情がない限り、簡単には売買されません。ですから、人気の地域で中古物件が出ると、「希少物件」として販売することになります。

希少性は、ビジネスの世界でも価値を大きく高める要素として考えられています。「この店でしか手に入らない商品」「いましか体験できないサービス」の噂を聞きつけて、全国から集まった人が行列をつくる光景をあなたも見たことがあるでしょう。

ある選択をして失う利益は?──機会費用とトレードオフ

●二兎追えないときは、どちらを選ぶ?

いま、ワンコイン(500円)でおにぎりとから揚げを購入するとしましょう。おにぎりは1個100円、から揚げは1個50円です。500円を使い切るとして、おにぎりを諦めれば、から揚げは最大10個買えます。一方、から揚げを諦めれば、おにぎりを最大5個買えます。もちろん、両方を手に入れたいとすれば、どちらか一方しか買わないことはありえない選択です。あなたは、次のグラフの線上から組み合わせを選ぶことになります。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

この斜めの線は、予算制約線と呼ばれます。

おにぎりを1個増やそうとすれば、から揚げを2個諦めなければなりません。このとき失った費用(後述しますが、これを機会費用といいます)は、から揚げ2個分の100円です。

Aさんの選択はおにぎり4個とから揚げ2個の組み合わせ、Bさんの選択はおにぎり2個とから揚げ6個の組み合わせだとします。

このように、制約のなかで何かを選択するためにほかの何かを諦めなければならない状況をトレードオフといいます。トレードオフは、二律背反と呼ばれることもあります。

大学に進学するか、大学を諦めて就職するか。大学生が2社から内定をもらったとして、A社にするか、B社にするか。大阪まで向かうのに、新幹線で行くか、飛行機で行くか。バレーの試合が始まって、サーブをとるか、レシーブをとるか……。私たちは毎日トレードオフに直面していると言っても過言ではありません。どちらかの選択をした場合のメリットとデメリットを考えて、最終的な判断を日々下しているのです。

たとえば、家族で休みを合わせて久々に旅行に出かけようと考えています。国内旅行にするか海外旅行にするか、国内旅行でも北海道がいいのか沖縄がいいのか、思い切って海外旅行に行くにしても、台湾にするか香港にするか、悩みは尽きません。ある選択をするには、ほかの選択を諦めなければなりません。このトレードオフの状況には、家族会議でなんとか決着をつけるしかありませんね。限りあるお金や時間という資源を何に投入するか、まさに資源配分の課題です。

できる限りお金も時間も有効に使いたいと考えます。ある選択をすることは、ほかの選択をしないことになります。

●かしこい選択をするには?

ある選択をしたときに、選ばなかった他方の選択肢を選んでいた場合に得られたであろう最大利益(ある選択をすることで失った最大利益)のことを、経済学では機会費用(opportunity cost)と呼びます。

たとえば、きちんと授業に出席している大学生が、もし授業に出席せずに11時から19時までファミレスで時給1000円のアルバイトをしていたとすると、授業に出席することで8000円の利益が失われることになります。つまり、機会費用は8000円です。しかし、アルバイトをすれば授業で学ぶ機会は失われることになります。きちんと授業に出席して学問を習得した結果、将来稼ぐ年収が300万円ほどアップしたとしたら、アルバイトをして失った機会費用はどれほどでしょう?

ほかの例を挙げてみます。時給2000円のパート従業員が、休暇をとって郷里の母親の見舞いに行くために飛行機のチケットを予約していました。しかし、機材の都合で出発時刻が1時間遅れることになり、空港内のカフェで400円のコーヒーを飲んで時間をつぶしました。このときの機会費用はいくらでしょうか?出発までの間パート先で働けたことを考えると、失った1時間分の2000円に、遅れなければ支払うことのなかったコーヒー代400円を加えて、2400円が正解です。

ある時間をもし別のことに使っていたら、本来得られたはずだった利益はいくらか?この機会費用の考え方は、時間やお金といった有限の資源をかしこく使う方法を考えるときに、欠かせないものです。

たとえば、「車が欲しい」と思ったとき、車にかかるお金(車両の購入費・駐車場代・車検費用・ガソリン代など)を投資に回していたら?しかし、車を買ったことで、買い物に行くときの電車賃や時間は大幅に節約できるかもしれません。どちらが得なのか、機会費用の考え方で比較してみるといいでしょう。

経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書
西村隆男(にしむら・たかお)
横浜国立大学名誉教授。経済学博士。財団法人消費者教育支援センター主任研究員、横浜国立大学助教授、アイオワ州立大学客員研究員などを経て、2000年より横浜国立大学教育人間科学部教授、東京学芸大学連合大学院博士課程教授(兼務)。2017年定年退官、現在は横浜国立大学名誉教授。専門は金融教育、パーソナルファイナンス、消費者教育。消費者教育推進会議会長、日本消費者教育学会会長などを歴任。現在、文科省消費者教育推進委員会委員長、金融経済教育推進会議委員、金融広報中央委員会委員などを務め、全世代にわたる国民の金融リテラシー向上を目指した活動を続けている。

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