(本記事は、西村隆男氏の著書『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

生きている限り「リスク」はついてまわる

リスク
(画像=ampcool/Shutterstock.com)

●未来は誰にもわからない

私たちの身の周りには、さまざまなリスクがあります。予測困難な地震や火山の噴火、火災や交通事故、病気など、考え出したらきりがありません。災害や事故、病気ばかりでなく、会社の倒産や失業などで生活できなくなることもあります。

いつどこで何が起きるか、将来のことは誰にも予想がつきません。人は、そのようなリスクに備えることが必要だと考え、さまざまな保険に加入します。ひとたび事故や病気、災害に遭えば、心理的にショックを受けるばかりでなく金銭的にも大きな支出をすることになるだろうから、保険で不測の事態に備えよう、というわけです。

将来が予測困難であることを、経済の世界では不確実性と呼びます。コインを投げて裏表のどちらか出るかわかりませんが、選択は2つしかないので、当たる確率は2分の1です。サイコロを投げてどの数字が出るかわかりませんが、同様にどの数字も出る確率は6分の1ですね。しかし、人が交通事故に遭う確率は極めて低いはずですが、確実に事故は毎日あちこちで起こっています。飛行機事故となれば、もっと確率は低くなります。

ある会社の株価が半年後に上がるか下がるか、円相場が今後どうなるのか、正確に予想することは誰にもできません。株式リスクの発生と対処を購入した人にとって将来的に株価が下がることはリスクですが、これから購入しようとしている人にとっては、株価が下がれば買いの好機になります。

●リスクに対処する4つの方法

一般的にリスク(risk)という英単語を日本語にするときは、「危険」や「危険性」などと訳されます。現代では「リスク」とカタカナ表記で用いられることがほとんどです。リスクは、人間の生命、健康、財産などに、将来起こり得る、あるいは100%は避けることの難しいマイナスの事象と捉えがちです。もちろん正しい解釈ではありますが、経済学の世界では不確実性、すなわち起こり得る可能性をリスクと表現します。

起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。例えば、円で預金するかドルで預金するか想像してみてください。外貨預金はリスクのある金融商品と言われますが、貯めておいたドル預金を引き出そうとしたときに、預けた時より円高になっていたら、預金したにもかかわらず損失が出てしまうでしょう。一方、円安になっていたら、金利以上に利益が得られます。つまり外貨預金は将来が不確実な(=リスクのある)商品なのです。

将来発生する可能性のあるリスクにどう対処したらいいのでしょうか。内容によっては、リスクを100%避ける方法がないわけではありません。たとえば、車で交通事故を起こすリスクを完全に避ける唯一の方法は車に乗らない、運転をしないことです。高齢者による事故が後を絶たない昨今では、免許証を返納する高齢者が増えています。こうしたリスクのもとを断つことをリスクの回避と呼んでいます。

火災に関しては、自分が注意していても、近隣からの出火でもらい火を受けることもあります。ニュースを見ていると、毎日のように全国のどこかで火災が発生していることがわかります。交通事故は年間50万件も起きています。火災や交通事故を100%避けることは不可能でしょう。

これらのリスクを自分で抱えるには負担が大き過ぎるので、第3者にリスクを負担してもらう方法を考えます。これがリスクの移転です。この種のリスクは、他人のリスクをビジネスとして引き受ける専門の事業者に移転します。つまり保険会社です。保険会社は事故の発生率などをもとに、広く多くの人から保険料を徴収し、事故に遭った人に保険金として支払うことを事業にしています。

リスクを100%避けることはできなくても、リスクに直面する可能性をある程度まで引き下げられる場合もあります。大きな病気にかかるリスクは誰もが抱えていますが、健康診断や人間ドックを定期的に受けて健康を管理することができます。

あなたが日々使っているパソコンやスマホは、ウイルスの侵入でデータが破壊されることもあるので、ウイルス対策は欠かせませんよね。ウイルス対策ソフトを頻繁に更新すれば、致命的な被害は防げるかもしれません。このように、リスクを少しでも抑えることをリスクの低減と呼びます。

最後に、リスクがあっても構わない、すべて自分で引き受けるという場合があります。リスクの発生率や生活・社会への影響が比較的低いケースです。たとえば、万が一交通事故の加害者になったときの損害賠償に備えて自動車保険に入ることは当然だとしても、車両保険に加入しない人は少なくありません。

車両保険は、自分の不注意で車を壁にぶつけた場合などを対象としているので、運転に自信がある人や、保険料を節約したい人は加入しないのです。こうしたリスクを自身の責任として自ら抱え込むことをリスクの保有と呼びます。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

●金融商品を購入するときの注意書き

投資信託や外貨預金、外貨建ての保険商品などの金融商品を購入しようとすると、次のような注意書きが添えられています。

「投資信託は株式、公社債など値動きのある商品に投資するため投資元本や利息の保証はありません。運用の損益はすべて購入されたお客様に帰属します。投資信託説明書(目論見書)をご確認ください」

ここで述べられている金融商品のリスクとは何でしょう?増やす目的で預けていた資金が、当初預けたときの金額よりも減ってしまう可能性について、ここでは述べられています。いわゆる元本割れと呼ばれるものです。つまり、この注意書きは「元本割れのリスクは自己責任で保有してもらいます」という断り書きです。

資産を運用するのは、簡単ではありません。普通預金や定期預金のように、預けた資金を確実に手元に引き出すことができて元本割れを起こさない金融商品もありますが、なんらかのリスクが伴う金融商品が大半です。元本割れを起こさない金融商品がよいと思っても、なかには外貨で元本を保証するという商品もあります。どのようなリスクがあるのか、申し込む前に注意書きまで十分理解することが大切です。

●金融商品のリスクには何がある?

金融商品を利用する場合に、どんなリスクがあるのかを整理してみることにしましょう。さまざまなリスクがありますが、ある金融商品を選択することによるリスクについて、あらかじめしっかりと把握しておくことは欠かせません。まず、それぞれの金融商品についてくる主なリスクを個別のリスクとして表にまとめました。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

これら以外にも、金融商品を選択した場合はもちろん、金融商品の選択の有無にかかわらず、私たちの生活に打撃を与える可能性のあるリスクもあります。次の表は、社会経済的リスクを示したものです。投資をするときには、それぞれの個別の金融商品についてくるリスクだけでなく、世界の経済動向や国際情勢にまつわるリスクについても考える必要があります。

仮に、100万円をこつこつ貯金していても、日本でインフレ(物価上昇)が起これば、100万円というお金の価値自体が下がり、実質目減りしてしまうことになります。100万円が貯まったら車を買おうと思っていたのに、貯金目標額を達成しても目当ての車を買えなくなるのです。もし、そのうち50万円を外貨で保有していたら、その50万円は日本のインフレの影響を免れることができた可能性もあります。もちろん、外貨を保有していた国がさらなるインフレであった場合には、もっと目減りしてしまいますが……。

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(画像=『経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書』より)

●ハイリターンなものはハイリスク!

リスクという言葉はよく、リターンと同時に使用されます。「ハイリスク・ハイリターンの商品」といった表現を聞いたことがあるでしょう。はじめから損失を出したいと思って資金を運用する人はいません。リターン、すなわちできるだけ多くの利益が得られることを期待して、それぞれの金融商品を購入するはずです。

しかし、リターンが大きいものほどリスクが高いのが一般的です。ローリスク・ハイリターンをうたう商品には注意したほうがいいでしょう。なかにはハイリスク・ローリターンの商品、さらにはハイリスク・ノーリターンの投資する価値のない商品まで存在しています。リスクのある金融商品で運用するときは、数年以内に必要となる資金を運用に充てないようにしましょう。ライフプランを見据えて、万一の損失を覚悟した上で、余裕資金で運用することが大事です。

経済的自由への道は、世界のお金の授業が教えてくれる──人生の選択肢が広がるパーソナルファイナンスの教科書
西村隆男(にしむら・たかお)
横浜国立大学名誉教授。経済学博士。財団法人消費者教育支援センター主任研究員、横浜国立大学助教授、アイオワ州立大学客員研究員などを経て、2000年より横浜国立大学教育人間科学部教授、東京学芸大学連合大学院博士課程教授(兼務)。2017年定年退官、現在は横浜国立大学名誉教授。専門は金融教育、パーソナルファイナンス、消費者教育。消費者教育推進会議会長、日本消費者教育学会会長などを歴任。現在、文科省消費者教育推進委員会委員長、金融経済教育推進会議委員、金融広報中央委員会委員などを務め、全世代にわたる国民の金融リテラシー向上を目指した活動を続けている。

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