シンカー: 現時点では、アロケーション・アロケーションをディフェンシブ一辺倒に変更することは推奨しない。政策当局がこぞって対応に乗り出していることは明らかであり、当面はそれがリスク資産の長期的な弱気相場の到来を防ぐと思われる。3月3日のG7声明は景気浮揚のための協調的・同時的行動へのコミットメントを示唆している。財政政策の軽視と金融政策への過度な依存は、需要と物価上昇率の低迷からの脱却の足かせとなり、金融市場のゆがみの拡大、そして政治への不満による利益誘導を求めるポピュリズムにもつながってきてしまったようだ。財政政策の役割の重要性に対する認識はひろがってきているようだが、まだ政策当局は企業の資金需要が旺盛な中で財政赤字が金利高騰のリスクとなるこれまでの古い常識から脱しきれていないようだ。しかし、新型コロナウィルス問題が深刻になる中で、景気刺激策として、とうとう古い常識が打ち破られ、財政政策の緩和に本腰を入れることになるだろう。金融政策も緩和姿勢が維持され、ポリシーミックスの動きとなろう。4?6月期までに新型コロナウィルス問題が終息に向かうことを前提とすれば、その後の景気・マーケットの回復は景気刺激効果が大きいとみられる政策ミックスもあり強くなる可能性は高い。G10ソブリン債の実質利回りが現在大幅なマイナス圏にあり、米国の株式リスクプレミアムが6.4%に達していること(つまり株式は債券に比べて超割安)は、株式の資産価格に大きな上昇余地があることを示す。もちろん、新型コロナウィルス問題の長期化というダウンサイドへの備えは重要であるが、V字型の回復に対するアップサイドへの備えも同じく重要であろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●マルチ・アセット・ポートフォリオ: パニックに陥ることなくバランスを保つべし

全体的スタンス:現時点では、弊社はバランス型アロケーションを変更することは推奨しない。政策当局がこぞって対応に乗り出していることは明らかであり、当面はそれがリスク資産の長期的な弱気相場の到来を防ぐと思われる。弊社は今年初め、コロナウイルスの広がりに伴い株式市場が10%調整すれば政策当局の介入を促すのに十分だろうと述べた(2020年1月29日付のCONVICTION THINKING参照)。案の定、3月3日のG7声明(LINK)は景気浮揚のための協調的・同時的行動へのコミットメントを示唆している。中国本土での新規感染者数の抑制は印象的であり、弊社は現在、同地域での2Q以降のV字型回復を予想している。G10ソブリン債の実質利回りが現在大幅なマイナス圏にあり(イタリアを除く)、米国の株式リスクプレミアムが6.4%に達していること(つまり株式は債券に比べて超割安)は株式にある程度のエクスポージャーを維持する理由である。弊社のクオンツモデルは、たとえ1年間の株式ボラティリティが(現在の約20%から)25%に上昇しても株式へのエクスポージャーを55%とすべきだと示唆している。そして弊社は実際のエクスポージャーを「僅か」45%としており、これは債券へのエクスポージャー(45%)と釣り合っている。ある程度の期待(トータル)リターンを確保するため株式へのエクスポージャーを上記の水準に維持するにあたり、弊社はアクティブなポートフォリオプロテクションに大きく重点を置いており、以下を通じてそれを実現している:(1)ソブリン債(主に米国とイタリア)に比べて社債の組入比率を非常に小さく抑える;(2)米ドルの不可避的な大幅下落からポートフォリオを守る非常に高度な為替分散(ユーロ、円、およびポンドへのエクスポージャーを通常よりも高めている);(3)コモディティへのエクスポージャーの大部分を金に割り当てる。

●米国経済(3/4): FRBが緊急利下げ実施、利下げ追加も見込まれる

FRBは本日(3日)、定例FOMC以外での動きをみせFFレート誘導目標を50BP引下げた。弊社は追加利下げもあると見込んでおり、それは3月18日の定例FOMCで実施されるとみている。米国経済は、新型コロナウイルスにまだ大きく反応していないが、(反応が明らかになるのも)時間の問題だと弊社は考えている。この段階になると、FRBには利下げ圧力がかかるだろう。

●債券市場(3/9):窮余の策も期待できず

絶望的な「コロナウイルス」の時代が窮余の策を求めている。米連邦準備制度理事会(FRB)による50BPの緊急利下げを受けて、今週は欧州中央銀行(ECB)が注目の的になり、経済情勢の悪化で金融緩和圧力が高まっている。しかし、大きな行動を起こす余地は限られるとみられ、向こう数カ月間、ECBはより的を絞った対応を選択したうえで、極めてハト派的なレトリックを組み合わせてくるかもしれない。アジア以外でも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されており、デュレーション・ロングの投資スタンスが望まれる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司