シンカー: 米国と中国の通商交渉で「フェイズ1」合意の兆しが出て、英国とEUは英国のEU離脱で合意したことにより、景気拡大に対する下方リスクの低下したとみられていた。だが、それは新型コロナウイルス(COVID-19)の登場に吹き飛ばされ、帳消しでは済まなかった。景気見通し(特に短期見通し)は数週間で大きく変化している。新型コロナウイルス(COVID-19)禍が地理的に急速に広がったことが、影響を受ける国だけではなく今や世界経済全体の下方リスクとなった。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●SG世界経済見通し(3/11):新型コロナウイルス流行下の世界景気

新しいリスク要因の登場で、景気見通しは悪化

弊社の11月世界経済見通し(GEO:Global Economic Outlook)の主なテーマは、景気拡大に対する下方リスクの低下であった。その後、目立っていた2種類のリスクはさらに後退した。米国と中国の通商交渉では「フェイズ1」合意の兆しが出て、英国とEUは英国のEU離脱で合意した。しかし、弊社は景気見通し(特に中国)を暫定的に上方修正したが、それは新型コロナウイルス(COVID-19)の登場に吹き飛ばされ、帳消しでは済まなかった。このため景気見通し(特に短期見通し)は数週間で変化した。2020年第1四半期(Q1)の中国では、経済活動への打撃が深刻になるとみられる。弊社は概算の第一弾として、2020年Q1の中国GDP成長率予測を、約2pp引下げ前年同期比4.0%とする。その結果、世界のGDP成長率の弊社予測も従来より低水準となった。ただし米国を0.2pp上方修正したため、下方修正幅は0.1ppに過ぎない。とはいえ今回の予測は、(注目する)対象を動かすことが目的、という感じが通常よりも遥かに強い。新型コロナウイルス(COVID-19)禍が地理的に急速に広がったことが、影響を受ける国だけではなく世界経済全体の下方リスクとなった。(本稿執筆の時点での)主なリスクは、ホットスポット数カ所での「エピデミック」が「パンデミック」、即ちコロナウイルス禍の世界的な発生に転じることだ。その可能性はここ数日で明らかに上昇しており、弊社はそれを受けてパンデミック化するリスクを25%に引上げた。これが実現すると、2020年の世界GDP成長率はたやすく0.25 - 0.75pp低下することになる。

米国と中国の合意は部分的、貿易戦争は終わっていない

米国と中国の「フェイズ1」通商合意によって、世界にかかっていた厚く黒い雲が去ったが、あくまで一部に過ぎない。米国が中国からの輸入に課す関税の大部分(約3分の2)は残っている。このことは貿易を引続き抑制するだろう。同時に弊社は、米中間の合意は完全に問題だとみている。これは、自由貿易から管理貿易に決然とシフトするものだが、合意した目標が守られていたのか、また中国向け輸出の減少に直面するであろう国の経済を傷つけるのではないか、という議論が自然と起こるだろう。一方で、世界貿易は2019年にかけて安定化が続いたが、新型コロナウイルス(COVID-19)が2020年初めに貿易伸び率を押下げた。問題なのは、(貿易への影響が)どれだけ大きくなるか、どれだけ長引くかだけである。ウイルスは国際的に広がるため、インパクトがさらに深刻化・長期化する可能性が、従来に比べると大幅に高くなっている。

世界景気は急減速へ、通年の成長率予測は不完全なガイドに

通年の世界全体のGDP成長率に関して弊社は、現地通貨ベースではさらに減速するが、PPP(購買力平価)ベースでは3.0%で安定すると見込んでいる。しかし第4四半期の前年同期比伸び率は、大幅に低下するだろう。特に米国(2020年中頃のリセッションを引続き弊社が見込む)とユーロ圏が該当する。新興国は、全体では2019年より景気拡大が加速すると見込まれる。弊社は、米国がリセッション入りすることでFRBが緩和モードに戻り、他の中央銀行も大半がそれに追随すると考えている。とはいえ、新型コロナウイルス対策としての政策金利引下げは、(中国と、場合によっては韓国を除き)短期的には大きな効果が出ないと弊社はみている。財政政策の方が、遥かに適切かつ効果的だとみられる。

〈目次〉

SG アンカーテーマ
新しいリスク要因の登場で、景気見通しは悪化
米国と中国の合意は部分的、貿易戦争は終わっていない
世界景気は急減速へ、通年の成長率予測は不完全なガイドに
新しいリスク要因の登場で、景気見通しは悪化
貿易戦争とブレグジットのリスクは後退したが、今度は新型コロナウイルスが問題に
米国と中国の合意は部分的、貿易戦争は終わっていない
世界景気は急減速へ、通年の成長率予測は不完全なガイドに
米国経済…これまで強かったが、2020年中のリセッション入りへ
中国経済…COVID-19 の爪痕が残ることに
ユーロ圏…景気が短期的には回復するが、2020 年通年でみると勢いが弱まる
英国 - 未知の領域に入るが、財政面の強い後押しが見込まれる
日本…内需の行方は引続き楽観視できる
アジア太平洋…すべての国の図式が全く異なる
中南米…貿易の下支えは不足、景気加速は内需頼み
SG 予測 - 政策金利
マクロ経済面のリスク…低下したうえ、上下が従来よりも均衡
SG 予測 - 実質 GDP・消費者物価指数(CPI)
SG 予測 vs コンセンサス - GDP 成長率
SG 予測 vs コンセンサス - インフレ率
SG 予測 - 失業率と経常収支
SG 予測 - 10 年物国債利回り
SG 予測 - 為替
国際商品市場の見通し
選挙スケジュール
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会田卓司