新型コロナウイルスの感染拡大が国内企業物価を押し下げ

企業物価指数
(画像=PIXTA)

3月12日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、20年2月の国内企業物価指数は前年比0.8%(1月:同1.5%)と、4ヵ月連続の前年比プラスとなったが、事前の市場予想(QUICK集計:前年比1.0%、当社予想も同1.0%)を下回る結果となった。消費税を除いた2月の国内企業物価指数は、前年比▲0.8%(1月:同0.0%)となり、2か月ぶりに前年比マイナスに転じた。なお、企業物価指数は19年10月に実施された消費税率引き上げによって1.6%pt押し上げられている。

原油価格の下落により、石油・石炭製品(消費税を含むベース)が前年比▲0.3%(1月:同7.0%)と再びマイナスとなり、前年比寄与度は ▲0.02%pt(1月:0.44%pt)と前月から▲0.5%pt近く寄与度を縮小させたことや、既往の原油安が遅れて反映される電力・都市ガス・水道が前年比▲6.8%(1月:同▲5.5%)とマイナス幅を拡大させたことが企業物価指数の上昇幅縮小の要因となった。

国内企業物価指数は前月比では▲0.4%(1月:同0.1%)と6ヵ月ぶりの下落となった。前月比で内訳をみると、ガソリン(1月:前月比1.8%→2月:同▲5.0%)、灯油(1月:同3.3%→2月:同▲9.1%)、軽油(1月:同3.4%→2月:同▲9.0%)などがマイナスに転じたことにより、石油・石炭製品が前月比▲4.8%(1月:同2.7%)の大幅下落となった。また、新型コロナウイルスの影響で銅価格が下落したことを受けて、非鉄金属が前月比▲1.5%(1月:同0.9%)と4ヵ月ぶりのマイナスに転じた。

企業物価指数
(画像=ニッセイ基礎研究所)

輸入物価は3ヵ月ぶりの下落

20年2月の輸入物価指数(1)は、契約通貨ベースでは前月比▲0.2%(1月:同0.5%)と3ヵ月ぶりのマイナスとなった。一方、2月のドル円相場は前月比0.5%の円安水準となったことから、円ベースでは前月比0.1%(1月:同0.6%)とプラスを維持した。

企業物価指数
(画像=ニッセイ基礎研究所)

契約通貨ベースで輸入物価指数の内訳をみると、原油が前月比▲0.5%と下落に転じたほか、世界的な輸送用燃料需要の後退によりジェット燃料油・灯油が前月比▲4.3%と大きく下落したものの、液化石油ガス(同7.0%)などが上昇し、石油・石炭・天然ガスは前月比0.7%(1月:同2.9%)とプラスを維持した。一方、新型コロナウイルスによる中国需要の落ち込みが懸念され、鉄鉱石(前月比▲19.0%)やニッケル地金(同▲10.2%)が大幅マイナスとなるなど、金属・同製品が前月比▲3.7%(1月:同1.3%)と7ヵ月ぶりに下落に転じたことが輸入物価の下押し材料となった。

為替レートは、新型コロナウイルスの感染拡大による先行き不安から大幅な円高が進んでいるほか、原油価格(ドバイ)はOPECプラスの協調減産の交渉決裂やサウジアラビアが増産姿勢を打ち出したことで急落している。3月の輸入物価指数は石油・石炭・天然ガスが下落に転じることにより前月比でマイナス幅を拡大させるだろう。

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(1)輸入物価指数は、消費税を除くベースで作成されている

素原材料が再び下落

20年2月の需要段階別指数(国内品+輸入品)(2)をみると、素原材料が前年比▲1.8%(1月:同0.7%)、中間財が前年比▲1.0%(1月:同▲0.5%)、最終財が前年比▲0.8%(1月:同▲0.2%)となり、素原材料は2ヵ月ぶりに下落に転じた。今後は国際市況の悪化を反映して素原材料のマイナス幅が拡大し、中間財、最終財の価格に波及する可能性がある。

企業物価指数
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、消費者物価(生鮮食品を除く総合)と関連性の高い消費財は前年比▲0.8%(1月:同0.0%)と再びマイナスに転じた。

新型コロナウイルスの感染拡大により国際商品市況は大きく悪化しているほか、減産交渉の決裂により原油価格は大幅に下落している。また、消費増税後の国内需要の弱さを反映し、国内企業物価は今後も弱い動きが続く公算が大きい。3月の国内企業物価は消費税率引き上げ分を含めても前年比で下落に転じる可能性もあるだろう。

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(2)需要段階別指数は、消費税を除くベースで作成されている

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藤原光汰(ふじわら こうた)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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