シンカー:国民に「社会保障システムの維持のため、安定財源は必要だと思いますか?」と聞けば、ほとんどが「必要である」と答えるであろう。しかし、「景気の好況と不況の規模を大きくしても(不安定化させても)、安定財源は必要だと思いますか?」と聞けば、「必要である」と答えることにちゅうちょするであろう。消費税は景気動向にあまり左右あれない安定財源であるばかりに、その税収の割合を大きくすることは、財政の景気自動安定化装置の力を削ぎ、景気の振幅を大きくしてしまうことになる。税収の振れを小さくすることは、景気の振れを逆に大きくするトレードオフが存在する。昨年後半からは自然災害が多発し、極度の暖冬も経済活動の下押しとなってきた。そして、新型コロナウィルスの影響などで、自粛ムードが大きくなり経済活動が下押されるため、総需要を支える財政政策の役割が大きくなっている。強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却で家計の体力が回復する前に、昨年10月に消費税率を引き上げてしまい、様々なショックに耐えうる日本経済の体力を削いでしまった。消費税率引き上げの問題は、その直接的な景気下押し圧力より、経済の体力を消耗させ、予期せぬショックへの対応力を弱体化させることだろう。消費税率引き上げによる安定財源の確保で、景気自動安定化装置の役割を減じてしまったことと合わせて、自然災害、暖冬、新型コロナウィルスなどの複合的な景気下押し圧力の悪影響が大きくなってしまっている可能性がある。すぐにでも消費税率を引き下げ、家計の実質所得を支え、財政の景気自動安定化装置を強くすることは理に適っている。早急な景気刺激効果は財政支出の方が大きいかもしれないが、消費税率引き下げは短期的な刺激効果の大小ではなく日本経済の体力そのものを回復させるもので、新型コロナウィルス問題があってもでもデフレ完全脱却への動きを止めないためにとても重要である。そして、日銀の金融緩和政策のように、強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却までは消費税率を引き上げないとし、「時間軸効果」によって消費者心理を支えるべきだろう。3月16日に日銀は緊急会合で金融緩和政策の拡充を行った。安倍首相は3月14日の記者会見で「一気呵成にこれまでにない発想で、思い切った措置を講じる」と述べているが、ポリシーミックとしての金融緩和効果を拡大する意味でも「異次元」の財政拡大が必要な時だろう。
1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を追加的に破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。
企業活動の弱さによる内需低迷とデフレの長期化は、税収の減少などを通して、財政収支も悪化させてきたと考えられる。
日銀資金循環統計がさかのぼれる1981年から企業貯蓄率と財政収支を同一のチャートで確認すると、ほぼ完全にカウンターシクリカル(逆相関)の動きになっていることがわかる。
どちらかが上がるとどちらかが下がる関係にある。
景気の振幅の原因となる企業活動の強弱を示す企業貯蓄率(上昇=景気悪化、低下=景気回復)が、財政収支に大きな影響を与えている可能性がある。
景気が悪くなると税収が落ちることにより、自動的に財政が緩和的になり景気を支える力が生まれる。
失業保険や生活保護などのセーフティーネットが稼動することも支えとなる。
景気が良くなると税収が増えることにより、自動的に財政が引き締め的になり景気を抑制する力が生まれる。
即ち、財政の景気自動安定化装置が作動する。
政治家が景気の状況を敏感にとらえ、財政支出を極めてうまく調整してきたとは考えられないため、強いカウンターシクリカルの動きは、この税収の振れを通した景気自動安定化装置が威力を発揮したのだろう。
景気の振れに左右されやすい所得税と法人税などの直接税が中心の税体系であったため、税収の振れは大きいが、逆に財政の景気自動安定化装置が強いとも考えられる。
もちろん、景気が悪いときに財政による景気対策が打たれることによる影響もあろう。
もし財政健全化のため税収を安定化させることに注力し、この財政の自動安定化装置の役割を減じてしまえば、企業活動が弱く企業貯蓄率が上昇した分、総需要が破壊され、雇用・所得環境の悪化を通して、家計の貯蓄率が低下し、家計の富が奪われることになってしまう。
税収の振れを小さくすることは、景気の振れを逆に大きくするトレードオフが存在する。
消費税は景気動向に関わらずほぼ一定の税収が見込めるため、安定財源と言われる。
財政の安定化のため、より安定的な財源を確保すべきであるという意見は耳に心地がよい。
しかし、その裏にある景気の振れが大きくなるリスクが説明されることはあまりない。
国民に「社会保障システムの維持のため、安定財源は必要だと思いますか?」と聞けば、ほとんどが「必要である」と答えるであろう。
しかし、「景気の好況と不況の規模を大きくしても(不安定化させても)、安定財源は必要だと思いますか?」と聞けば、「必要である」と答えることにちゅうちょするであろう。
昨年後半からは自然災害が多発し、極度の暖冬も経済活動の下押しとなってきた。
そして、新型コロナウィルスの影響などで、自粛ムードが大きくなり経済活動が下押されるため、総需要を支える財政政策の役割が大きくなっている。
強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却で家計の体力が回復する前に、昨年10月に消費税率を引き上げてしまい、様々なショックに耐えうる日本経済の体力を削いでしまった。
消費税率引き上げの問題は、その直接的な景気下押し圧力より、経済の体力を消耗させ、予期せぬショックへの対応力を弱体化させることだろう。
消費税率引き上げによる安定財源の確保で、景気自動安定化装置の役割を減じてしまったことと合わせて、自然災害、暖冬、新型コロナウィルスなどの複合的な景気下押し圧力の悪影響が大きくなってしまっている可能性がある。
すぐにでも消費税率を引き下げ、家計の実質所得を支え、財政の景気自動安定化装置を強くすることは理に適っている。
早急な景気刺激効果は財政支出の方が大きいかもしれないが、消費税率引き下げは短期的な刺激効果の大小ではなく日本経済の体力そのものを回復させるもので、新型コロナウィルス問題があってもでもデフレ完全脱却への動きを止めないためにとても重要である。
そして、日銀の金融緩和政策のように、強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却までは消費税率を引き上げないとし、「時間軸効果」によって消費者心理を支えるべきだろう。
3月16日に日銀は緊急会合で金融緩和政策の拡充を行った。
安倍首相は3月14日の記者会見で「一気呵成にこれまでにない発想で、思い切った措置を講じる」と述べているが、ポリシーミックとしての金融緩和効果を拡大する意味でも「異次元」の財政拡大が必要な時だろう。
図)ネットの資金需要
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司