要約
日本経済はデフレ完全脱却までの中長期的トレンドの半ばにいる。信用サイクルと設備投資サイクルの強さがデフレ完全脱却への動きを支えている。企業活動の活性化と財政政策の拡大でネットの資金需要が復活し、それをマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も強くなり、マネーが循環・拡大する力としてのリフレサイクルも強くなるだろう。新型コロナウィルスの影響が大きいが、政府・日銀の経済政策などに支えられて、20220年はプラス成長を維持するだろう。財政拡大によるネットの資金需要の復活が前提条件だ。グローバルな景気回復が堅調となる2021年には実質GDP成長率が潜在成長率をしっかり上回ることで、デフレ完全脱却となるだろう。外需の成長寄与度はほとんどなく、内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。
新型コロナウィルス問題による中国成長率見通しの大幅な下方修正に加え、政府のウィルス抑制策が経済活動を一時的に下押すため、2020年の実質GDP成長率を年初時点の+0.9%から+0.2 %へ下方修正した。消費税率引き上げと新型コロナウィルスの景気下押し圧力は、2011年の東日本大震災の50%程度にもなると考える。一方、まさにこれから、既に国会を通過している経済対策(GDP比2.5%程度の財政措置)の効果が出てくることになる。更に、2020年度の政府予算が国会を通過した後、政府は新たな大規模な経済対策(最低限GDP比1.5%以上の財政措置)の実施をすぐに決定するだろう。消費税率引き上げの失敗に続き、財政拡大が過少で経済が混迷した場合、政策当局への国民の信頼が失墜する恐れがあるため、しっかりとした経済対策が実施されるだろう。
新型コロナウィルスの影響が4 - 6月期から終息に向かっていくことを前提にすれば、ペントアップ需要の発現と政策効果を含むV字型の景気回復が見込まれる。海外景気の更なる鈍化を完全に補うことを目安に、数度の経済対策で財政政策は「異次元な」拡大を続けるだろう。新型コロナウィルスの影響が長引けば、東京オリンピックの延期が2020年の成長率を0.6%程度押し下げるリスクとなる。マイナス成長となる可能性がかなり高まるため、政府の極めて大規模な追加経済対策を誘発するだろう。
成長 - 外需から内需主導の自立的な形に進化しつつある
好調な雇用・所得環境に支えられ、企業の新たな商品・サービスの投入もあり、消費はしっかりと回復していくだろう。企業の設備投資サイクルは堅調だ。2021年度までにデフレ完全脱却を目指す安倍政権の財政政策は経済対策の実施で拡大に転じた。一方、10 - 12月期が消費税率引き上げ、自然災害、暖冬などの複合的な下押し圧力により大幅な縮小になった。新型コロナウィルス問題による中国成長率見通しの大幅な下方修正に加え、政府のウィルス抑制策が経済活動を一時的に下押すため、2020年の実質GDP成長率予想を年初の+0.9%から+0.2%へ下方修正した。政府は数度の経済対策で海外景気の鈍化を補おうとするだろう。4 - 6月期にウィルス問題が終息に向かえば、成長率はペントアップ需要で強くリバウンドするだろう。原油安も支えだ。グローバルに景気が明確に回復する2021年には成長率は潜在成長率を大幅に上回る+1.6%に加速し、デフレ完全脱却となるだろう。外需の成長寄与度はほとんどなく、消費と設備投資が両輪となる内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。
図)GDPの内訳
労働 - 強い信用サイクルに支えられ好調
生産・在庫サイクルより信用サイクルの影響を強く受けている。日銀短観中小企業貸出態度DIは、信用サイクルとして、雇用の拡大を牽引するサービス業の動向を表し、失業率に明確に先行する。DIは強力な金融緩和などでバブル崩壊後の圧倒的な高水準に到達し、信用サイクルは既に天井を打ち破った。DIは高水準を維持し、失業率は2%程度に低下を続け、賃金上昇が強くなることを示している。投資活動などで資金需要が復活し、企業貯蓄率がマイナスに転じ、デフレ完全脱却となろう。日銀の超低金利政策の副作用は、金融機関の収益基盤の弱体化によって信用サイクルが崩れなければ、大きくはないと判断できる。
図)日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率
企業 - 設備投資サイクルがようやく上振れた
異常なプラスの企業貯蓄率が示す企業のデレバレッジとリストラが総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因となってきた。アベノミクスによる内需の回復、労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発などにより、企業貯蓄率はマイナスに向けた低下トレンドに入るだろう。設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比率はバブル崩壊後初めて16%の天井を打ち破り、企業の成長・インフレ期待が上振れ始めた。(10 - 12月期に16%を下回ったのは消費税率引き上げによる一時的な現象だろう。)企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が始まるだろう。外需の弱さに対して、企業活動の活性化により内需は強く、貯蓄・投資バランスとして、国際経常収支の黒字額を抑制してくだろう。
図)設備投資サイクル
潜在成長率:雇用から資本へのバトンタッチ
潜在成長率はアベノミクス前の+0.8%程度から+1.0%程度へ上昇した。政策や円安による短期的回復だけではなく、構造的回復が進行しつつある。労働投入量の寄与度が - 0.1%から+0.3%へ改善し、アベノミクスの成長戦略の柱である女性・高齢者・若年層の雇用拡大が進行し、少子高齢化による長期低迷からの脱却を示す。深刻な雇用不足感による効率化・省力化の必要性、コスト削減が限界になる中で過去最高水準の売上高経常利益率を維持するために新商品・サービスの開発で売上を増加させる必要性が企業の投資行動を刺激し、資本投入量の押し上げが更に強くなるだろう。最終的に、投資活動とイノベーションで全要素生産性が大きく押し上げられれば、人口減少でも成長を続けることができるようになる。
図)潜在成長率
表)日本経済見通し
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司