新型インフルエンザ特措法に基づき、7都府県を対象とした緊急事態宣言が4月7日に発出された。これを受け、東京都では即座に法的根拠に基づく外出自粛要請を出したものの、施設や店舗の使用制限要請は若干遅れている(東京都、4月9日現在)。報道ベースでしか知る由はないが、対象となる施設・店舗をどの範囲にするかで、国と都の間で意見の相違があるとのことである。
一両日中には調整が終了すると思われるので、過度に心配する必要はないと思われるが、何が論点になっているかを法令の定め方から読み解いてみたい。
まず、条文を確認したい。知事は「学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者…に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる」(特措法第45条第2項)。すなわち、知事は、政令で定める施設に、利用停止のほか、政令で定める措置を講ずる要請をするというように、具体的な内容はほとんど政令に委任されている。
意見の相違があるものとして、報道で取り上げられているのは、理容室・美容室、ホームセンターといったところだ。理容室は政令で具体的に指定されている(施行令第11条第12項)。ただ、施行令で対象にしているのは、建物の床面積が1000m2を超えるものに限られている(施行令第11条柱書)。ちなみに筆者は1000m2を超える理容室を見たことはない。
ただし、厚生労働大臣が学識経験者の意見を聞いたうえで公示をした場合は、1000m2以下の施設にも、必要な要請を行うことができる(施行令第11条第1項第14号、第2項)。したがって、小規模理容室を要請の対象とするためには、都だけで出せるのではなく、国(厚生労働大臣)の決定が必要となる。
美容室は施行令には例示されていないものの、施行令では「理髪店…これらに類するサービス業を営む店舗」とされているので、知事が出すかどうかを決定することができそうである。ただ、理容室と美容室を別扱いにするには合理的な説明が求められるだろう。
政府や都は繰り返し、三密を避けることを要請してきた。三密は大勢の人が一か所に集まることもそうであるが、小規模の店舗においても、複数人が距離を置かずに長時間とどまることでも発生することを考えれば、理容室等に何らかの要請を行うことは避けられないと思われる。
ただし、知事が行える必要な要請とは、法律本文で定められている施設閉鎖だけではない。入場者の整理、感染者の入店拒否、手指の消毒、施設の消毒、マスクの着用などといった要請を行うこともできる(施行令第12条)。小規模な理容室は完全予約制にして、マスク着用、施設や道具の定期的消毒の対応徹底の要請をするといったことも検討してよいだろう。
ホームセンターは物品販売業であり、かつ1000m2を超える場合も多いので、その場合は、行政からの要請の対象となる(施行令第11条第7号)。しかし、同号かっこ書きで「厚生労働大臣の定める」「生活に欠かせない物品」を販売するものは除外されるので、要請対象外とすることも考えられる。つまり要請対象とするかどうか、要請内容をどうするかは、事実上国と都の調整が必要となる。仮に、ホームセンターを要請対象とするときには、閉鎖要請ではなく、入店者数の制限やソーシャルディスタンス確保などを要請するといったことも考えられよう。
法令で読みにくいのが、たとえば居酒屋である。居酒屋は酒類を提供することを売りにしているが、要請対象とならない食事提供を主とする飲食店と決定的な違いはないように思う。施行令で書いているのは、「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設」(施行令第11条第1項第11号)であり、居酒屋は遊興施設といえるのか、という問題となると思われる。しかし、すでに多くの居酒屋は自主的に休業しているようである。三密回避という意味ではやむをえまい。
上述の通り、1000m2を超える理髪店を要請対象とするといった、空振りに近い規定が存置されてきたのは、これまで日本が幸運にも「有事」に直面してこなかったつけが回ってきたともいえる。頭で考えていたことが実地になると役に立たないことがあるのは仕方がない。とにかくこの一か月クラスターを作らないという観点から、施行令改正を行うことも視野に検討を行っていただきたいと考える。
松澤登 (まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任
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