シンカー:年初は、堅調な内需と年後半の海外景気の持ち直し、そして12月に公表されたGDP対比2.5%程度の経済対策と東京オリンピックの効果もあり、2020年の実質GDP成長率予想は+0.9%と、1%程度の潜在水準なみとなっていた。それから、新型コロナウィルス問題の拡大により、2ppt程度も下方修正され、成長率予想は - 1%と、東日本大震災があった2011年( - 0.1%)以来のマイナス成長となることが確実となっている。新型コロナウィルス問題の終息後に、非常事態宣言によりスタートが鈍るとみられる経済の字回復の動きを促進するため、消費刺激策などを含む最低限としてGDP比1%程度の財政措置の追加経済対策が行われるだろう。4 - 6月期に新型コロナウィルス問題がグローバルに終息に向かうことを仮定すれば、財政・金融のポリシーミックスの効果もあり、7 - 9月期から日本の経済活動はペントアップ需要をともなって強くリバウンドし、東京オリンピックが開催される2021年の実質GDP成長率は+2.0%とV字回復となるだろう。雇用の大幅な調整と企業のデレバレッジの再燃がなく、5月上旬までに非常事態宣言が解除され、5月末までには中国との貿易関係が十分に機能し始め、6月末までに生産活動が底打ちを始め、それまでに年初からの二つの大規模な経済対策の効果がしっかり出るとともに、その後にV字回復を促進する新たな経済対策が出ることが条件だろう。V字回復への動きを確実にするには、緊急事態宣言が家計と企業の不安心理が拡大してしまうリスクの中、企業のデレバレッジを含め、新型コロナウィルス問題の終息後のリバウンドを妨げるリスクとなる追加的な需要の減退と供給の喪失を防止するため、家計への一律の大規模な現金給付と企業への十分な休業補償を含めて追加経済対策の規模を大幅に拡大することが理想だろう。政策当局が単純に経済対策全体の規模を誇張しても、国民にとって重要なのは実際の生活維持のためにどれだけ効果があるのかということであり、財政赤字拡大を躊躇して吝嗇に見えてしまうような政策態度を少しでも感じれば、十分に評価は上がらないとみられる。異次元に異次元を重ねる財政拡大で、東日本大震災という国難があってもそれ以降の復興の動きにより実質GDPはほとんど縮小しなかったことを国民に思い起こさせ、来年の東京オリンピック開催を目標に前向きにする必要があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2020年の実質GDP成長率予想の年初からの変化でこれまでの日本経済の動きを確認する。

年初は、堅調な内需と年後半の海外景気の持ち直し、そして12月に公表されたGDP対比2.5%程度の経済対策と東京オリンピックの効果もあり、2020年の実質GDP成長率予想は+0.9%と、1%程度の潜在水準なみとなっていた。

1月下旬の旧正月に新型コロナウィルスの問題が中国で広がり、日本のインバウンド需要の減少が成長率を0.2ppt押し下げるとみられ、実質GDP成長率予想は+0.7%へ引き下げられた。

まずは新型コロナウィルス問題の影響はインバウンド需要を中心に考えられていた。

政府がウィルス抑制策として3月上旬から学校閉鎖やイベントなどの自粛を要請したことで、内需への下押しが、成長率を0.3ppt押し下げるとみられ、実質GDP成長率予想は+0.4%へ引き下げられた。

新型コロナウィルス問題の影響が、インバウンド需要だけではなく、内需を直接的に下押すようになったと考えられた。

その後、新型コロナウィルス問題はアジアにとどまらずグローバルに急激に拡大し、更なる下押し圧力が予想される一方で、GDP対比1%程度の新たな経済対策が予想されるようになった。

上下のインパクトを総合し、成長率を0.2ppt押し下げるとみられ、実質GDP成長率予想は+0.2%へ引き下げられた。

新型コロナウィルス問題のグローバル化と深刻化に、財政政策の拡大でどれだけ下押し圧力を抑制できるのかという形になった。

3月下旬に東京オリンピックの1年延期が決定され、成長率を0.6ppt程度押し下げられるとみられ、実質GDP成長率予想は - 0.5%へ引き下げられた。

新型コロナウィルス問題が早期に終息し、オリンピックの開催で心機一転となる見通しが崩れ、2020年の実質GDP成長率が東日本大震災があった2011年( - 0.1%)以来のマイナスとなることが確実となり、家計と企業の心理の悪化に拍車がかかった。

3月末になると、新型コロナウィルス問題は欧米で更に深刻となり、都市のロックダウンで経済活動が止まってしまうことになり、欧米の成長率見通しが大幅に引き下げれるようになった。

一方、家計と企業の心理の悪化に拍車がかかったことで、日本の政策当局にも危機感が広がり、3月半ばの日銀の金融緩和の決定に続き、ポリシーミックスによる財政拡大が議論されるようになり、経済対策の想定がGDP対比2%程度まで拡大した。

上下のインパクトを総合し、成長率を0.5ppt押し下げるとみられ、実質GDP成長率予想は - 1.0%へ引き下げられた。

新型コロナウィルス問題の拡大により、年初から2ppt程度も下方修正されたことになる。

政府は4月7日に新たな財政措置29兆円程度(GDP比5.5%程度)の経済対策を閣議決定した。

財政措置として、それまで予想していた2%程度(GDP比%)を大幅に上回った。

一方、政府は7日に首都圏、大阪府、兵庫県、福岡県に対して、1か月程度の期間で、新型コロナウィルス抑制のための緊急事態宣言を出した。

都市が封鎖されるロックダウンとは違うものの、経済活動が一部で止まることになる。

家賃などの固定支出の削減は大きくなく、変動支出を中心として1か月程度の期間で民間内需が10%程度(年率120%程度)抑制され、対象の経済圏の規模が全国の50%程度と仮定すると、成長率を0.5%程度押し下げることになろう。

経済対策の規模は上振れたようにみえるが、家計や中小企業への給付金に強い制限があり、企業への休業補償や雇用維持策も十分でなく、国民と企業の不安を大幅に緩和することが難しく、支出の機会も減っているとみられることを考えると、規模に対して効果は比較的小さくなり、よくても緊急事態宣言の下押し圧力をオフセットする程度にとどまるとみられる。

4 - 6月期に新型コロナウィルス問題が終息することを前提としても、2020年の実質GDP成長率は - 1%程度の縮小となってしまうだろう。

グローバルな新型コロナウィルス問題が更に長期化したり、非常事態宣言後の経済の停滞が家計と企業の不安を更に拡大させれば、実質GDP成長率予測には下方修正のリスクとなる。

まずは、新型コロナウィルス問題の終息後に、非常事態宣言によりスタートが鈍るとみられる経済の字回復の動きを促進するため、消費刺激策などを含む最低限としてGDP比1%程度の財政措置の追加経済対策が行われるだろう。

4 - 6月期に新型コロナウィルス問題がグローバルに終息に向かうことを仮定すれば、財政・金融のポリシーミックスの効果もあり、7 - 9月期から日本の経済活動はペントアップ需要をともなって強くリバウンドし、東京オリンピックが開催される2021年の実質GDP成長率は+2.0%とV字回復となるだろう。

雇用の大幅な調整と企業のデレバレッジの再燃がなく、5月上旬までに非常事態宣言が解除され、5月末までには中国との貿易関係が十分に機能し始め、6月末までに生産活動が底打ちを始め、それまでに年初からの二つの大規模な経済対策の効果がしっかり出るとともに、その後にV字回復を促進する新たな経済対策が出ることが条件だろう。

V字回復への動きを確実にするには、緊急事態宣言が家計と企業の不安心理が拡大してしまうリスクの中、企業のデレバレッジを含め、新型コロナウィルス問題の終息後のリバウンドを妨げるリスクとなる追加的な需要の減退と供給の喪失を防止するため、家計への一律の大規模な現金給付と企業への十分な休業補償を含めて追加経済対策の規模を大幅に拡大することが理想だろう。

政策当局が単純に経済対策全体の規模を誇張しても、国民にとって重要なのは実際の生活維持のためにどれだけ効果があるのかということであり、財政赤字拡大を躊躇して吝嗇に見えてしまうような政策態度が少しでも感じれば、十分に評価は上がらないとみられる。

異次元に異次元を重ねる財政拡大で、東日本大震災という国難があってもそれ以降の復興の動きにより実質GDPはほとんど縮小しなかったことを国民に思い起こさせ、来年の東京オリンピック開催を目標に前向きにする必要があるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司