日本は65歳以上の人口の割合が世界一高い、超高齢社会である。少子化によって今後現役世代が減っていくため、将来受給する年金を心配する人は多い。そこで今回は、日本の年金制度はなくなるのか、なくならないとしても年金額はいくらになるのかを解説し、併せて老後に備える方法を紹介する。
目次
- そもそも年金の仕組みとは――保険料収入、積立金、国庫負担
- 年金はなくなるのか――制度崩壊の可能性は低い
- 老後2,000万円問題とは 老後は自助努力+年金
- 年金制度はなくならないが楽観は禁物 自助努力による備えを
そもそも年金の仕組みとは――全負担を現役世代が負っているものではない
少子高齢化が進み、2000年は65歳以上の高齢者1人に対する20歳から64歳までの労働人口が3.4人だったが、2050年には65歳以上の高齢者1人に対し労働人口が1.3人に減ると言われている。「そんな人数で高齢者を支えられるはずがない」と、年金制度がなくなる心配をする人もいるだろう。
しかし現在の年金制度は、高齢者をすべて現役世代が支えているような単純なものではない。まず、知識として年金の仕組みを整理していこう。
公的年金の財源は保険料収入、積立金、国庫負担の3本柱
公的年金の財源は、①保険料収入、②積立金、③国庫負担の3つだ。この財源を固定し、その範囲で年金額を決めることでバランスを保っている。各項目について見ていこう。
①保険料収入
保険料収入は、現役世代が納める国民年金保険料や厚生年金保険料で、公的年金の主な財源になる。年金制度に詳しくない人は、年金の財源は現役世代の保険料だけと思っているかもしれない。
②積立金
①の保険料のうち、年金の支払いに充てられなかったものを年金積立金として積み立てている。つまり、現在は保険料収入と国庫負担で年金が支払われており、余った額は運用されて将来の年金の財源となるのだ。厚生労働省が発表した「平成30年度年金積立金の運用状況について」によると、2018年度の積立金の残高は166兆5,000億円であり、日本の国家予算よりも大きい。
③国庫負担
税金から支払われるお金で、国庫負担は年金の財源の約2割を占める。税金は現役世代や企業だけでなく、消費税などを通して受給者である高齢者も納めている。つまり、日本の公的年金は日本社会に属する人全員で支えている制度と言える。
日本の年金制度は賦課方式と積立方式を採用
自分が支払ってきた保険料に対して、将来いくら年金をもらえるのかという計算が行われることがあるが、そもそも今支払っている保険料は将来のための貯蓄ではない。これは、日本の年金制度が「賦課方式」だからだ。
賦課方式とは、高齢者への年金支給のために必要な財源を、その時々の保険料収入から用意する方式である。高齢になった両親の生活費を子どもが援助することがあるが、年金制度はそれを社会全体で援助する制度と言えるだろう。つまり、現在の現役世代が高齢になった時は、それまで彼らが支払ってきた保険料からではなく、子どもなど若い世代が納めた保険料から年金を受け取ることになるのだ。
年金がなくなると心配する人がいるのは、労働人口1.3人で1人の高齢者を支えなければならなくなると考える人が多いからだ。それならば、各自で自分の将来のためにお金を積み立てる方式にしたほうがいいのではないかと思うだろう。
賦課方式に対し、現役時代に積み立てた積立金を運用し、それを将来自分が受け取る方式は積立方式と呼ばれる。積立方式では、自分が支払ってきた保険料がそのまま自分の老後の資金になるのでシンプルだが、この方法には難点がある。それは、インフレに弱いことだ。
インフレが起こり、例えば1ヵ月の食費が5万円だったところ、30年後は同じ献立でも月に50万円かかるようになっていたらどうだろう。現役時代に毎月コツコツお金を貯めていても、物価が10倍に上がっているのだから、とても足りないはずだ。
30年後にそれだけインフレが進んでいれば、現役世代の給与水準も上がっているはずなので、そこから保険料を納めてもらう賦課方式のほうが、インフレに対応しやすい。
もちろん、賦課方式だけでは現役世代の負担は大きくなるが、年金の仕組みで紹介したように、日本の年金制度は一部積立方式も採用しており、単純に少子高齢化という問題だけで維持できなくなるものではないのである。
年金はなくなるのか?――制度崩壊の可能性は低い
それでも少子高齢化が進むことは間違いないので、いずれ年金制度はなくなるのではないかと思うかもしれない。年金自体はなくならなくても、年金額があまりに少額であれば意味がない。具体的に、将来の年金はどの程度頼りになるのだろうか。
年金制度が崩壊する可能性は低い
年金の財源が保険料だけでなく、税金や積立金であることは説明した。積立金はなくなることがあっても、保険料は現役世代がいる限りなくなることはない。また税金は日本に人がいる限りなくならないため、年金制度自体が崩壊する可能性は低い。
問題は、財源が少なくなって年金制度の価値がなくなることだ。極端な話、将来もらえる年金が1ヵ月5,000円になれば、誰も年金制度が必要とは思わないだろう。
将来の年金額はどれくらい減るのか—―年金受給額は最悪の場合は現役世代の3割程度に
厚生労働省は4年に1度、「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」という資料で将来の年金額の予想を公表している。2019年に発表された財政検証結果から将来の年金額を見てみよう。
この資料によると、経済が順調に成長するケースから経済成長と労働参加が進まないケースまで、6種類のシミュレーションがなされている。ここでは、最も経済が成長するケースと最も悲観的なケースを紹介しよう。
表1. 政府の年金予想のうち、最も経済が成長するケース
年度 | 2019年度 | 2024年度 | 2040年度 | 2046年度 | 2060年度 |
夫婦の 公的年金額 |
22万円 | 22万3,000円 | 25万円 | 26万3,000円 | 32万7,000円 |
現役男子の 手取り収入 |
35万7,000円 | 36万7,000円 | 46万1,000円 | 50万6,000円 | 62万9,000円 |
所得代替率 | 61.7% | 60.9% | 54.3% | 51.9% | 51.9% |
夫婦の公的年金額とは、夫の厚生年金の受給額と夫婦の国民年金(基礎年金)の合計額のことである。経済が順調に成長した場合、公的年金額も現役世代の手取り収入も増加する。この表で注目したいのが、所得代替率だ。
所得代替率とは、現役世代の収入に対して公的年金がどれぐらいもらえるのかという割合で、「夫婦の公的年金額÷現役男子の手取り収入」で算出される。2019年度の所得代替率は61.7%で、年金だけで現役世代の収入の61%は確保できることを意味する。
経済が順調に成長しても、所得代替率は5年後には60.9%、21年後には54.3%、41年後には51.9%になる。2019年の現役世代の収入を基準にすると、21年後は年金額が約19万3,850円(35万7,000円の54.3%)、41年後には18万5,300円に減っていくことになる。
表2. 政府の年金予想のうち、最も悲観的なケース
年度 | 2019年度 | 2024年度 | 2040年度 | 2043年度 | 2052年度 |
夫婦の 公的年金額 |
22万円 | 21万7,000円 | 19万9,000円 | 19万6,000円 | 18万8,000円 |
現役男子の 手取り収入 |
35万7,000円 | 36万1,000円 | 38万8,000円 | 39万3,000円 | 40万7,000円 |
所得代替率 | 61.7% | 60.0% | 51.3% | 50.0% | 46.1% |
次に、最も悲観的な予測を見てみよう。この試算では、2043年に所得代替率は50%になる。つまり、年金受給額は現役世代の手取り収入の半分になるということだ。2052年には、年金の仕組みで説明した3つの年金財源のうち積立金がなくなり、完全な賦課方式になる。最も悪い経済状況が続けば、2052年以降に保険料収入と国庫負担でまかなえる給付水準は、所得代替率で36~38%とされている。
このケースでは、21年後には年金が約18万3,000円(35万7,000円の51.3%)、33年後には16万4,600円になる。
老後2,000万円問題とは 老後は自助努力+年金
2019年に「老後資金に2,000万円必要」というフレーズが話題になったが、老後資金2,000万円問題とは結局何だったのだろうか。また老後にどのように備えるべきかについて説明しよう。
老後に生活するには約2,000万円が必要?
「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが2019年6月に発表した。これによると、夫65才以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯を表す高齢夫婦無職世帯では、1ヵ月の収入20万9,198円に対して支出が26万3,718円であり、1ヵ月あたり約5万5,000円が不足するという。
この不足が毎月発生すれば、20年で5万5,000円×12ヵ月×20年=1,320万円、30年で5万5,000円×12ヵ月×30年=1,980万円が必要になる。これが「老後に2,000万円必要」と言われた根拠だ。
しかし、同報告書では65歳時点における夫婦世帯の金融資産が平均2,252万円であること、この数値は平均であくまで個人の状況によって異なることなども示されている。つまり、老後への準備はそれぞれの環境における自助努力が重要なのだ。
老後に備える自助努力――「iDeCo(イデコ)」や「つみたてNISA」
昨今は、老後資金に備えるための制度が整いつつある。たとえば、2017年に加入資格が広がり、原則として20歳以上60歳未満であれば誰でも加入できるようになったiDeCoや、2018年に始まったつみたてNISAなどだ。
これらは、どちらも積立方式だ。一般の証券口座で投資を行う場合に比べて税金面で優遇されるため、長期での老後資金の形成に最適な制度である。ただし、どちらも強制的に加入している公的年金とは違い、自分で加入手続きをして自分で運用方針を決めなければならない。
前述のとおり、将来年金支給額は減少する可能性が高いが、この2つの制度のように自助努力による老後資金準備のための環境は徐々に整いつつある。
平均寿命が伸びている今、退職時まで培ってきた知識や経験を生かして老後も働くという人が増える可能性もある。収入を得る期間を延ばすのは、老後の備えとして有効だ。たとえ年収200万円程度であっても、5年働けば1,000万円のプラスになる。
ただし老齢厚生年金の受給者は、その基本月額と給料の額に応じて年金が一部、または全額停止になる可能性があるので、在職老齢年金制度に関して下調べしておこう。
年金制度はなくならないが楽観は禁物 自助努力による備えを
日本の年金制度には3つの財源があるので、年金がなくなることはないが、将来受給額は減っていく可能性が高い。しかし、将来の年金水準がどの程度になるかがわかっていれば、老後に備えることはできる。公的年金は減っていくが、自助努力による老後資金形成のための制度は整いつつある。これらの制度をうまく利用して、計画的に老後資金を準備することが大切だ。
文・松岡紀史(ライツワードFP事務所代表)/MONEY TIMES
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