シンカー:日本においても新型コロナウイルスによる在宅勤務が増加しているようだ。一方で、外国人投資家と比較すると日本における在宅勤務体制が十分に整っておらず、日本人が円債の取引を控えているといった声も聞かれる。そのような状況が継続すれば、外国人の動向によるマーケットへの影響が大きくなる可能性があるだろう。現在、中央銀行の積極的な対応もあって一時期と比べると市場は落ち着きを取り戻してきており、残りは政府による対応に期待が高まっている。日本も含めて、各国は財政拡大方針をすでに打ち出してきた。特に日本においては、すでに発行増額が決定されたものの、前倒し債の資金も十分でないとみられる中、経済活動の停滞による税収減なども踏まえて、さらに追加発行の可能性がある。グローバルに国債増発が意識される中で、マーケット動向を注意深く見守る必要があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

外国人による円債投資が再び活発化?

足元の対内証券投資では、中長期債が2週連続の売り越しから買い越しに転じている。ドル不足懸念も一段落したことから、外国人によるドルの流動性確保の動きも落ち着き、円資産に資金が再び流入し始めたようだ。未だ、ヘッジコストを考慮すると、ドルを保有する外国人からみた円債投資は魅力的な状態が続いている。ただ、新型コロナウイルスによる不透明感が継続する中、ヘッジコストの不確実性などもあり、さらに事態が落ち着くまでは積極的な動きは取られない可能性があるだろう。一方、海外と比較して日本国内では在宅勤務体制がまだ整っていないこともあり、国内の取引が少なくなっている現状があるようだ。日本国内の取引が少ない状態が継続すれば、外国人によるトレードのインパクトが大きくなる状態が続くのかもしれない。

対内証券投資(ネット、兆円)

対内証券投資(ネット、兆円)
(画像=財務省、SG)

前倒し債の取り崩しによるやりくりは限界か?

今回発表された補正予算に伴う国債発行計画の見直しでは、建設国債が2兆3290億円、特例国債が14兆4767億円、財投債が9兆4000億円の合計26兆2057億円の国債発行増額となった。消化方式別にみてみると、合計26兆2057億円のうち、カレンダーベースの増額が18兆2000億円、第二非価格競争入札が1兆26億円、年度間調整が7兆31億円となっている。年度間調整には前倒債の発行や出納整理期間発行を通じた調整分が含まれており、43兆円の前倒債の残高を一部取り崩す形になったようだ。前倒債を発行する理由は、毎年度の国債発行を平準化するためや、急な財政需要の増減に対して国債市場へ大きな影響をもたらすことなく対応するためとされている。前倒債発行で調達された資金は主に翌年度以降に使用する目的であるため、償還で資金が必要になるまで剰余金として日銀の政府預金に原則的に預けられることになっている。ただ、日銀のバランスシートでは4月10日時点で政府預金は22兆円程度となっており、本来存在するはずの前倒債の発行残高を大幅に下回っていることが分かる。これらの残高は確定している償還資金として使われるため、政府はその財源が必要になるまで、特別会計間や財政投融資にその資金を貸し付けており、財投債と同様の役割を果たしているようだ。よって、既に貸し出しに使用されている前倒債の資金は、他の財源が必要になったから直ちに取り崩せる状況にないと言えるだろう。また、国債発行額を抑えるために前倒債を切り崩し続けることは将来的なバッファーを失うことにつながる。このような判断により、ついにカレンダーベースの増額に政府が踏み切ったのだろう。一方で、市場の反応は落ち着いており、需給のゆるみへの懸念も強まっていないことは、市場がさらなる増発を吸収する余地がある可能性を示している。新型コロナウイルスの終息を見据えると、経済の立ち直りをサポートするためのさらなる財政パッケージは不可欠であり、さらに経済活動が大幅に縮小する見通しであることから政府の税収も大幅に減少するだろう。今回の補正予算では税収減を補う追加国債発行は含まれておらず、さらなる国債の追加発行を避けることは難しくなっていると言える。マーケットは国債の供給増加とイールドカーブのスティープ化に備える必要があるかもしれない。

スワップ市場もさらなる国債発行の増額を意識?

米国ではスワップスプレッドがマイナス化することが常態化しており、日本においても特に超長期でマイナスに転じることがおこっている。通常、金融機関の信用リスクを含むスワップ金利は国債利回りよりも高くなる(スワップスプレッドはプラスになる)と考えられる。米国においては規制によって国債保有が難しくなり、スワップの方が選好されるようになったことがマイナスのスワップスプレッドの背景の一つであると言われているようだ。実際、新型コロナウイルスを受けて市場の混乱を緩和するためにFedがSLR規制の緩和を発表した後、スワップスプレッドのマイナス幅は縮小が続いている。一方で、日本においては昨年末から超長期のスワップスプレッドのマイナス幅拡大が続き、3月中旬には新型コロナウイルスによるリスクオフや市場の混乱とキャッシュ化の動きなどが、スワップスプレッドの変動に寄与した。ただ、現在もスワップスプレッドは大幅なマイナス水準にあるものの、3月中旬の水準と比べると巻き戻しがみられる。これまで、生保などは日銀の国債買い入れの影響や、世界的な低金利化の進展で超長期の運用が難しくなっていることから、スワップで代替する動き進めていた。だが今後、国債の追加発行の観測が強まれば、国債利回りに対してはマイルドな上昇圧力になるとともに、日銀の買い入れによる需給の過度な引き締まりの懸念も解消され、スワップと比較した日本国債運用の魅力が高まる可能性があるだろう。そうなれば、スワップスレッドのマイナス幅は縮小していくのかもしれない。

円金利スワップスプレッド(bp)

円金利スワップスプレッド(bp)
(画像=Bloomberg, SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司