シンカー:企業の貯蓄行動という総需要を破壊する力を前提として、適度な経済成長率の維持とデフレ防止のために最低限必要な財政赤字は?3.1%(GDP比)となる。これに対して、これまでの緊縮財政の結果に加え、消費税率引き上げもあり、2019年10?12月期の財政収支は?1.9%であった。最低限必要な財政赤字よりも、1.2%程度も小さくなってしまっていた。消費税率引き上げを含め、これだけ財政政策が緊縮になっていれば、経済の体力を消耗させ、新型コロナウィルスなどの予期せぬショックへの抵抗力を弱くしてしまっていたのは理解できる。新型コロナウィルス問題などによる短期的な需要の減退があまりに大きく、企業のリストラなどの後ろ向きの行動が再発してしまえば、企業貯蓄率が再上昇するとともに総需要を破壊する力が強くなってしまう。日本経済は深刻な景気後退となり、再びデフレの闇に飲み込まれアベノミクスのデフレ完全脱却の試みが失敗となってしまうリスクとなる。そうなると、終息後のリバウンドが小さいばかりか、将来有望な企業までも倒産させてしまい、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下してしまうリスクとなろう。新型コロナウィルス問題が短期的ではなく長期的にも日本経済の成長の足かせとなってしまうだろう。新型コロナウィルス問題の終息後の景気リバウンド力を強くするためにも、1月と4月に続き第三弾の更なる経済対策を実施する必要があるだろう。高齢化の中で社会保障システムを維持するため、消費税の役割としてこれまで信じ込まれてきた安定財源と世代間公平負担の二つの通念は、ミクロ・会計の思い込み(イデオロギー)であることがマクロの考察では明らかになってきた。日本経済は、長く苦しんできた内需の低迷とデフレから脱却しようと懸命に努力し、そして今後は新型コロナウィルス問題の下押しからのリバウンド力が必要となっている。内需の大きな柱である消費を増やすことが重要で、その消費にペナルティを課すような消費税は重荷となってしまうことは明らかだ。更なる経済対策では、消費税率引き下げも実施すべきではないだろうか。新型コロナウィルス問題による自粛期間は、消費刺激のためというより家計の所得の流出を止めることになる。消費税率引き下げが政治的に困難なのであれば、その分の所得を給付金として家計に返還すべきだろう。
税収などを通じた財政の景気自動安定化機能により、企業活動と景気の強さを表す代理変数である企業貯蓄率(マイナスが強い)と財政収支は逆相関の関係にあることが確認できる(資金循環統計ベース、金融危機後の1999年からのデータ)。
財政収支(GDP比%)= - 0.82 - 0.83企業貯蓄率(GDP比%)+残差、R2=0.60
企業のデレバレッジが完全に止まり、総需要を破壊する力がなくなり、デフレ完全脱却となる企業貯蓄率は0%であると考えられる。
適度な経済成長率の維持とデフレ防止のためには、プラスの企業貯蓄率による総需要を破壊する力を財政支出でオフセットしなければいけない。
企業貯蓄率のプラスの幅に対して、最低限として同程度は財政収支は赤字でなければならないと考えられる。
企業貯蓄率が0%の時、景気循環要因の財政収支は0%であるとする。
そのように仮定すると、景気循環要因の財政収支(GDP比%)は企業貯蓄率に - 0.83を掛けたものとなる。
企業貯蓄率が高ければ、民間貯蓄が潤沢であり、財政ファイナンスも容易となるため、財政収支の赤字は大きくても安定的となる。
更に、大きな財政赤字は需要を追加し、経済活動の縮小を防止するために必要である。
そして、日銀が経済活動の拡大にともなう成長通貨を一定量供給する必要があるとする。
かつて日銀は国債買い切りオペをそのような名目で行っていた。
その分の国債発行、すなわち財政赤字が常時必要であり、推計の定数の分である - 0.82%とする。
2019年10 - 12月期の企業貯蓄率は+2.7%とまだ異常なプラスであり、総需要を破壊する力が残っている。
景気循環要因の財政収支は+2.7%に - 0.83を掛けて - 2.3%となる。
これに成長通貨要因の財政収支である - 0.82%を足せば、適度な経済成長率の維持とデフレ防止のために最低限必要な財政赤字は - 3.1%となる。
これに対して、これまでの緊縮財政の結果に加え、消費税率引き上げもあり、実際の財政収支は - 1.9%であった。
最低限必要な財政赤字よりも、1.2%程度も小さくなってしまっていた。
消費税率引き上げを含め、これだけ財政政策が緊縮になっていれば、経済の体力を消耗させ、新型コロナウィルスなどの予期せぬショックへの対応力を弱くしてしまっていたのは理解できる。
この過去の緊縮すぎた部分は、1月に国会を通過した前回の経済対策と今回の経済対策でなんとか修正することができたと思われる。
国債発行総額が同程度増加しているからだ。
しかし、2020年1 - 3月期以降は、新型コロナウィルスの問題などにより、企業活動は著しく鈍化している可能性が高い。
新型コロナウィルス問題などによる短期的な需要の減退があまりに大きく、企業のリストラなどの後ろ向きの行動が再発してしまえば、企業貯蓄率が再上昇するとともに総需要を破壊する力が強くなってしまう。
日本経済は深刻な景気後退となり、再びデフレの闇に飲み込まれアベノミクスのデフレ完全脱却の試みが失敗となってしまうリスクとなる。
そうなると、終息後のリバウンドが小さいばかりか、将来有望な企業までも倒産させてしまい、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下してしまうリスクとなろう。
新型コロナウィルス問題が短期的ではなく長期的にも日本経済の成長の足かせとなってしまうだろう。
新型コロナウィルス問題の終息後の景気リバウンド力を強くするためにも、1月と4月に続き第三弾の更なる経済対策を実施する必要があるだろう。
高齢化の中で社会保障システムを維持するため、消費税の役割としてこれまで信じ込まれてきた安定財源と世代間公平負担の二つの通念は、ミクロ・会計の思い込み(イデオロギー)であることがマクロの考察では明らかになってきた。
日本経済は、長く苦しんできた内需の低迷とデフレから脱却しようと懸命に努力し、そして今後は新型コロナウィルス問題の下押しからのリバウンド力が必要となっている。
内需の大きな柱である消費を増やすことが重要で、その消費にペナルティを課すような消費税は重荷となってしまうことは明らかだ。
更なる経済対策では、消費税率引き下げも実施すべきではないだろうか。
新型コロナウィルス問題による自粛期間は、消費刺激のためというより家計の所得の流出を止めることになる。
消費税率引き下げが政治的に困難なのであれば、その分の所得を給付金として家計に返還すべきだろう。
図)企業貯蓄率と財政収支のカウンターシクリカル(年データ、1999年から)
図)財政収支の分解
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司