シンカー:財政収支は、成長通貨供給、景気循環的財政収支、そして構造的財政収支に分解することができることになる。構造的財政収支には、消費税を含む社会保障関連など、景気要因以外の政策が含まれると考えられる。高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出が手におえない状況になってしまっているのであれば、この構造的財政収支の赤字幅は拡大傾向にあるはずだ。構造的財政収支を推計すると、金融危機後の1999年から現在まで、東日本大震災の影響を除けば、GDP対比プラスマイナス3%以内の安定的なレンジに収まっていることが分かる。高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出に対する警戒感は過度であることが証明される。日本の財政運営はかなり安定していて、放漫財政という指摘は現実ではない。しかも、2019年の構造的な財政収支は既に+1.1%(GDP比)と、黒字化している。放漫財政でないことが証明されるばかりではなく、適度な経済成長率の維持とデフレ防止のためには、財政政策が緊縮すぎであることが証明できてしまう。新型コロナウィルス危機を前にした難局では、構造的財政収支の赤字がGDP対比-3%まで拡大してもよいはずだ。景気循環的財政収支の赤字も増えるので、財政収支全体の赤字はもっと大きくなるが、企業貯蓄の増加があるため、財政ファイナンスは問題とならない。1月と4月の経済対策に続く第三弾として、更なる国民一律の給付金の拡大と企業の休業補償を大胆に実施する余裕は十分にある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

税収などを通じた財政の景気自動安定化機能により、企業活動と景気の強さを表す代理変数である企業貯蓄率(マイナスが強い)と財政収支は逆相関の関係にあることが確認できる(資金循環統計ベース、金融危機後の1999年からのデータ)。

財政収支(GDP比%)=-0.82-0.83企業貯蓄率(GDP比%)+残差、R2=0.60

企業のデレバレッジが完全に止まり、総需要を破壊する力がなくなり、デフレ完全脱却となる企業貯蓄率は0%であると考えられる。

適度な経済成長率の維持とデフレ防止のためには、プラスの企業貯蓄率による総需要を破壊する力を財政支出でオフセットしなければいけない。

企業貯蓄率のプラスの幅に対して、最低限として同程度は財政収支は赤字でなければならないと考えられる。

企業貯蓄率が0%の時、景気循環要因の財政収支は0%であるとする。

そのように仮定すると、景気循環要因の財政収支(GDP比%)は企業貯蓄率に?0.83を掛けたものとなる。

企業貯蓄率が高ければ、民間貯蓄が潤沢であり、財政ファイナンスも容易となるため、財政収支の赤字は大きくても安定的となる。

更に、大きな財政赤字は需要を追加し、経済活動の縮小を防止するために必要である。

そして、日銀が経済活動の拡大にともなう成長通貨を一定量供給する必要があるとする。

かつて日銀は国債買い切りオペをそのような名目で行っていた。

その分の国債発行、すなわち財政赤字が常時必要であり、推計の定数の分である?0.82%とする。

この二つ、景気循環要因と成長通貨供給で説明できない残差が、構造的財政収支ということになる。

財政収支は、成長通貨供給、景気循環的財政収支、そして構造的財政収支に分解することができることになる。

財政収支=成長通貨供給+景気循環的財政収支+構造的財政収支

構造的財政収支には、消費税を含む社会保障関連など、景気要因以外の政策が含まれると考えられる。

高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出が手におえない状況になってしまっているのであれば、この構造的財政収支の赤字幅は拡大傾向にあるはずだ。

構造的財政収支を推計すると、金融危機後の1999年から現在まで、東日本大震災の影響を除けば、GDP対比プラスマイナス3%以内の安定的なレンジに収まっていることが分かる。

高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出に対する警戒感は過度であることが証明される。

日本の財政運営はかなり安定していて、放漫財政という指摘は現実ではない。

しかも、2019年の構造的財政収支は既に+1.1%(GDP比)と、黒字化している。

放漫財政でないことが証明されるばかりではなく、適度な経済成長率の維持とデフレ防止のためには、財政政策が緊縮すぎであることが証明できてしまう。

新型コロナウィルス問題などによる短期的な需要の減退があまりに大きく、企業のリストラなどの後ろ向きの行動が再発してしまえば、企業貯蓄率が再上昇するとともに総需要を破壊する力が強くなってしまう。

日本経済は深刻な景気後退となり、再びデフレの闇に飲み込まれアベノミクスのデフレ完全脱却の試みが失敗となってしまうリスクとなる。

そうなると、終息後のリバウンドが小さいばかりか、将来有望な企業までも倒産させてしまい、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下してしまうリスクとなろう。

新型コロナウィルスの問題が短期的ではなく長期的にも日本経済の成長の足かせとなってしまうだろう。

新型コロナウィルス問題の終息後の景気リバウンド力を強くするためにも、1月と4月に続き第三弾の更なる経済対策を実施する必要があるだろう。

新型コロナウィルス危機を前にした難局では、構造的財政収支の赤字がGDP対比?3%まで拡大してもよいはずだ。

景気循環的財政収支の赤字も増えるので、財政収支全体の赤字はもっと大きくなるが、企業貯蓄の増加があるため、財政ファイナンスは問題とならない。

第三弾として、更なる国民一律の給付金の拡大と企業の休業補償を大胆に実施する余裕は十分にある。

図)企業貯蓄率と財政収支のカウンターシクリカル(年データ、1999年から)

企業貯蓄率と財政収支のカウンターシクリカル(年データ、1999年から)
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)財政収支の分解

財政収支の分解
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司