シンカー:4-6月期内に新型コロナウィルス問題が終息に向かうと仮定する。その後は、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていなければ、ペントアップが出る形で、需要は早くV字型に回復する可能性がある。コア消費者物価指数は前年同月比で一時的にマイナスとなる可能性はあるが、政府・日銀は2%の物価上昇率目標を維持し、財政・金融政策の緩和姿勢を堅持することで、V字回復を利用して物価上昇モーメンタムを取り戻そうとするだろう。日銀短観中小企業貸出態度DIが表す信用サイクルは、雇用の拡大を牽引するサービス業などの動向を表し、失業率に明確に先行するため、政府・日銀の政策で腰折れを防止することが重要である。DIはまだ若干の低下で耐えているが、信用サイクルが腰折れてしまえば、景気の形はL字型で底を這い、回復がなくなるリスクとなる。来週の日銀金融政策決定会合(27日のみの開催に短縮)では、現行の緩和政策のフレームワークに変更はないが、3月のETF、社債・CPの買入れ増額と企業金融支援特別オペの導入に続き、企業の資金繰り支援などの緩和政策の強化を図るだろう。信用サイクルの腰折れリスクを減じるため、企業の資金調達環境を更に円滑にする必要があり、社債とCPの利回りの上昇がみられるため、社債・CPの買入れ枠を更に増額し、買入れと特別オペの条件(格付けや対象など)を緩和する小規模な緩和手段の調整をする可能性がある。中小企業の信用保証や給付金を含めた政府の財政拡大もあり、信用サイクルは何とか腰折れをせずにいくことができるだろう。更に、財政拡大と金融緩和のポリシーミックスの影響で、需要の回復とともに、マネーが拡大する力が強くなることで、物価上昇には加速感がでてくる可能性がある。政府は、1月と4月の大規模な経済対策に加え、秋までには家計と企業の更なる支援に加え、新型コロナウィルス問題終息後のV字回復を促進する追加経済対策を実施するだろう。日銀の国債買入れペースは80兆円のめどを大きく下回る15兆円程度でかなり余裕がある状況だが、逆に財政が更に拡大する中で長期金利を0%の目標に誘導するために必要であれば、めどを大きく上回る買入れも事実上可能である。景気拡大が続く中でもなかなか2%の物価目標を達成できなかったのは財政緊縮が主原因であり、財政が拡大に転じたことによるポリーミックスは新型コロナウィルス問題終息後の物価上昇を加速させることになるだろう。堅調な消費需要を背景に、過度な円高不安で押し下げられてきた期待インフレ率の上昇をともないながら、物価は来年後半には1%程度まで上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。新型コロナウィルス問題終息後に元のデフレ完全脱却への道に戻るためには、雇用・所得環境が破壊されないように、家計と企業を財政政策で支えることが重要である。新型コロナウィルス問題に対処するための財政拡大の反動で、終息後に負債残高の増加を懸念してた早急な黒字を目指す財政緊縮が行われれば、デフレ完全脱却に失敗するだけではなく、またデフレの闇にに飲み込まれるリスクとなるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

3月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年度月日+0.4%と、3月の同+0.6%から上昇幅が縮小した。

まずは、原油価格急落の影響が3月から本格的に現れた。

3月のエネルギー価格は同-1.7%と、2月の同-0.2%から下落幅が大きく拡大した。

政府がウィルス抑制策として3月上旬から学校閉鎖やイベントなどの自粛を要請したことで、需要の減退が物価に下押し圧力をかけたようだ。

コストの上昇と、これまでの雇用・所得環境の改善を背景にした物価の上昇幅の拡大があったが、消費税率引き上げと新型コロナウィルスによる需要の減退の影響もあり、コア消費者物価指数は年央にはマイナスに転じるとみられる。

現在の原油価格の急落の影響の裏がでる来年前半まで、コア消費者物価指数がプラスには戻れないだろう。

一方、新型コロナウィルスの蔓延は、グローバルに需要の停滞だけではなく、サプライチェーンの棄損につながっているようだ。

安定した供給体制に対するプレミアム上昇や、危機管理の在庫手当てもみられる。

新型コロナウィルス問題での外出自粛下では、価格引き上げで喚起される需要増加の見込みは小さく、売上額維持のため価格引き下げをためらう企業もあるだろう。

そのような価格下支え効果があれば、コアコア消費者物価指数の前年同月比の上昇幅は0%前後までの縮小にとどまるかもしれない。

3月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)も同+0.6%と、2月から変化はなく、需要が弱かった割に堅調であった。

4-6月期内に新型コロナウィルス問題が終息に向かうと仮定する。

その後は、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていなければ、ペントアップが出る形で、需要は早くV字型に回復する可能性がある。

コア消費者物価指数は前年同月比で一時的にマイナスとなる可能性はあるが、政府・日銀は2%の物価上昇率目標を維持し、財政・金融政策の緩和姿勢を堅持することで、V字回復を利用して物価上昇モーメンタムを取り戻そうとするだろう。

日銀短観中小企業貸出態度DIが表す信用サイクルは、雇用の拡大を牽引するサービス業などの動向を表し、失業率に明確に先行するため、政府・日銀の政策で腰折れを防止することが重要である。

DIはまだ若干の低下で耐えているが、信用サイクルが腰折れてしまえば、景気の形はL字型で底を這い、回復がなくなるリスクとなる。

来週の日銀金融政策決定会合(27日のみの開催に短縮)では、現行の緩和政策のフレームワークに変更はないが、3月のETF、社債・CPの買入れ増額と企業金融支援特別オペの導入に続き、企業の資金繰り支援などの緩和政策の強化を図るだろう。

信用サイクルの腰折れリスクを減じるため、企業の資金調達環境を更に円滑にする必要があり、社債とCPの利回りの上昇がみられるため、社債・CPの買入れ枠を更に増額し、買入れと特別オペの条件(格付けや対象など)を緩和する小規模な緩和手段の調整をする可能性もあるだろう。

中小企業の資金繰り支援の一環として、日銀が大胆であれば、2006年の量的金融緩和解除と同時に廃止した手形買入れを再開する可能性がある。

中小企業の信用保証や給付金を含めた政府の財政拡大もあり、信用サイクルは何とか腰折れをせずにいくことができるだろう。

更に、新型コロナウィルス問題が深刻な中で物価が一時的に弱いことは実質所得を押し上げ、需要と景気の底割れを防ぐ力となる。

サプライチェーンを含めた供給の回復は、米中貿易紛争の余波も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、需要よりも遅い可能性がある。

そうなると、供給対比での需要の強さが生まれ、グローバルの物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。

一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略が広がるとみられる。

更に、財政拡大と金融緩和のポリシーミックスの影響で、需要の回復とともに、マネーが拡大する力が強くなることで、物価上昇には加速感がでてくる可能性がある。

政府は、1月と4月の大規模な経済対策に加え、秋までには家計と企業の更なる支援に加え、新型コロナウィルス問題終息後のV字回復を促進する追加経済対策を実施するだろう。

日銀の国債買入れペースは80兆円のめどを大きく下回る15兆円程度でかなり余裕がある状況だが、逆に財政が更に拡大する中で長期金利を0%の目標に誘導するために必要であれば、めでを大きく上回る買入れも事実上可能である。

景気拡大が続く中でもなかなか2%の物価目標を達成できなかったのは財政緊縮が主原因であり、財政が拡大に転じたことによるポリーミックスは新型コロナウィルス問題終息後の物価上昇を加速させることになるだろう。

グローバルなリスク・オンに戻れば、企業の想定より円安の水準に戻るだろう。

堅調な消費需要を背景に、過度な円高不安で押し下げられてきた期待インフレ率の上昇をともないながら、物価は来年後半には1%程度まで上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。

新型コロナウィルス問題終息後に元のデフレ完全脱却への道に戻るためには、雇用・所得環境が破壊されないように、家計と企業を財政政策で支えることが重要である。

新型コロナウィルス問題に対処するための財政拡大の反動で、終息後に負債残高の増加を懸念してた早急な黒字を目指す財政緊縮が行われれば、デフレ完全脱却に失敗するだけではなく、またデフレの闇にに飲み込まれるリスクとなるだろう。

図)日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率

日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率
(画像=日銀、総務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司