シンカー:景気がL字型の回復のないものになるのか、U字型やV字型の回復のあるものになるのかを左右するのは信用サイクルだと考えられる。政府・日銀の流動性対策と企業支援が強力に実行され、信用サイクルが腰折れなければ、企業の耐久力が維持され、失業率の上昇は大きくなく、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながらず、景気が回復のないL字型となる経済活動の長期低迷は免れることができるだろう。3・4月の連続の金融緩和政策の強化の決定、そして中小企業への更なる流動性対策の検討で、信用サイクルを防衛するため、日銀は全力を尽くす方針を明らかにした。信用サイクルは腰折れずに景気のL字型は回避され、新型コロナウィルス問題の終息後にペントアップ需要の発現とともに経済活動がリバウンドするだろう。そして、追加の経済対策が出るなどして財政拡大の効果も更に強く出ればV字型の景気回復となり、日本経済は元のデフレ脱却への道に戻れることになるだろう。日銀は、「上限を設けず必要な金額」の国債買入れを行う方針を明確にし、ポリシーミックスの強化をより意識させるようにしている。日銀のスタンスを背景に、どれほど政府が財政を大胆に拡大させることができるのかが、景気の回復が緩慢なU字型か早いV字型かを決することになるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

3月の失業率は2.5%と、2月の2.4%から上昇した。

3月から政府は新型コロナウィルスの影響を抑制するため、経済活動の自粛を要請した。

自粛ムードが大きくなり経済活動が下押されたため、就業者が減少し、失業率はリバウンドした。

ただ、感染の不安などから、労働市場から退出する労働者が増加し、失業率の上昇はまだ小幅ですんでいる。

3月の有効求人倍率は、退出した労働者を含めた求職者(前月比-2.1%)の減少に対して、事業の止まった企業を含めた求人数(同-5.9%)の方が減少が大きく、1.39倍となり、2月の1.45倍から低下した。

4-6月期の内に新型コロナウィルス問題が終息に向かうと仮定する。

その後は、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていなければ、ペントアップ需要が出る形で、景気はV字型に回復する可能性がある。

コア消費者物価指数は前年同月比で一時的にマイナスとなる可能性はあるが、政府・日銀は2%の物価上昇率目標を維持し、財政・金融政策の緩和姿勢を堅持することで、V字回復を利用して物価上昇モーメンタムを取り戻そうとするだろう。

日本経済は信用サイクルの好転の影響を強く受け、デフレ完全脱却に向かう景気拡大の力となってきた。

日銀短観中小企業貸出態度DIが表す信用サイクルは、雇用の拡大を牽引するサービス業などの動向を表し、失業率に明確に先行するため、政府・日銀の政策で腰折れを防止することが重要である。

1-3月期の日銀短観では、DIはバブル崩壊後の最高水準である+20前後をなんとか維持し、信用サイクルがまだ堅調であることを示した。

DIはまだ若干の低下で耐えているが、信用サイクルが腰折れてしまえば、企業の耐久力が失われ、失業率の急上昇とともに、雇用・所得の破壊となり、景気はL字型で底を這い、回復がなくなるリスクとなる。

取引先の資金繰りが厳しいと考えれば、貸し倒れのリスクがあるため、当然ながら企業は取引の現金決済を要求するだろう。

企業間信用の縮小が、事業の縮小、そして雇用の削減につながってしまうリスクである。

景気がL字型の回復のないものになるのか、U字型やV字型の回復のあるものになるのかを左右するのは信用サイクルだと考えられる。

日銀は、「企業の資金繰りが悪化するなど企業金融面で緩和度合いが低下している」と警戒感を示している。

その結果、日銀は、3月の金融政策決定会合でETF、社債・CPの買入れ増額と新型コロナウィルス対応金融支援特別オペの導入に続き、4月にも企業の資金繰り支援や資金調達金利低下策など緩和政策の強化を図った。

堅調な信用サイクルの継続には、健全な金融機関の経営の持続が必要であり、このオペの利用残高に相当する当座預金残高の金利を0%から0.1%へ引き上げ、収益構造を支えることにしている。

更に、政府の経済対策における資金繰り支援制度の効果を高め、中小企業の資金繰りを支援するため、金融機関への新たな資金供給手段を早急に検討することを示し、信用サイクルの防衛に日銀は全力を尽くす方針を明らかにした。

政府・日銀の流動性対策と企業支援が強力に実行され、信用サイクルが腰折れなければ、景気がL字型となる経済活動の長期低迷は免れることができるだろう。

その通信簿は7月1日に公表となる日銀短観中小企業貸出態度DIで、大きな悪化がないかが注目される。

信用サイクルが腰折れずに、企業の耐久力が維持され、失業率の上昇は大きくなく、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながらず、景気は回復のないL字型は回避されるだろう。

新型コロナウィルス問題の終息後にペントアップ需要の発現とともに経済活動がリバウンドするだろう。

そして、追加の経済対策が出るなどして財政拡大の効果も更に強く出ればV字型の景気回復となり、日本経済は元のデフレ脱却への道に戻れることになるだろう。

日銀は、「上限を設けず必要な金額」の国債買入れを行う方針を明確にし、ポリシーミックスの強化をより意識させるようにしている。

日銀のスタンスを背景に、どれほど政府が財政を大胆に拡大させることができるのかが、景気の回復の形が緩慢なU字型か早いV字型かを決することになるだろう。

図)日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率

日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率
(画像=日銀、総務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司