シンカー:経済成長がほぼ外需依存だった過去と比較し、現在は外需の寄与はほとんどなく、大規模な経済対策で内需の底割れを防げは、生産活動への下押し圧力を小さくすることができるだろう。大規模な経済対策の効果が雇用と内需を支えている間に、新型コロナウィルスの問題が終息に向かえば、内需拡大の力で年後半の生産活動がV字回復することは十分に可能だろう。実質GDP成長率の寄与度でみれば、V字型の景気回復となるのは内需で、輸出が回復しても輸入も内需のリバウンドを反映して増加するため、外需にはそれほど期待できないだろう。どれほど政府が財政を大胆に拡大させ内需を刺激することができるのかが、景気の回復の形が緩慢なU字型か早いV字型かを決することになるだろう。もともと平時にこれだけのしっかりとした財政拡大をして、家計を支援していれば、内需は強く拡大し、デフレからはとうの昔に完全脱却していたはずである。政府の歳出と歳入の差のワニ口の話は、企業の過剰貯蓄という総需要を破壊する力がある間は有害な議論であり、口が閉じてしまえば、総需要の加速度的な縮小で新型コロナウィルス問題がなくても恐慌になってしまっていただろう。ワニ口の大きさを示す財政赤字は、企業の貯蓄と完全に逆相関になっていることで、企業の貯蓄が異常なプラスの状態で総需要を破壊する力がある間は、ワニ口の議論は経済の健全な成長や家計の富の蓄積には有害であることを示す。新型コロナウィルス問題によって歳出が増加し、もはやワニ口の体をなしていないことを嘆く意見があるが、そもそもそのワニ口の論点自体がデフレ経済という内需を支えることが急務な異常な環境の下では皮相的なものであったことを認識すべきだろう。実際には、ワニ口の開きが足らず、企業の総需要を破壊する力を財政支出の不足で補いきれず、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力、家計に所得が回る力、即ちリフレサイクルを示すネットの資金需要が消滅した状態を放置していた緊縮的な財政政策が、景気拡大が続く中でもなかなか2%の物価目標を達成できなかった主原因であったと、そろそろ総括すべき時だろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

3月の鉱工業生産指数は前月比-3.7%と、2か月連続の低下になった。

2月には実質輸入が同-8.7%と大きく落ち込んだ。

新型コロナウィルス問題などにより中国を中心に生産活動が停滞し、サプライチェーンの問題が発生したことを示していた。

日本の2月の生産は同-0.3%と、部品の在庫などを取り崩し落ち込みは小さいかったが、3月には在庫が底をつき、生産活動が停滞したとみられる。

中国の生産は予想より早く回復しているようで、3月の実質輸入は同+13.5%と大きくリバウンドした。

部品の在庫も手当され、4月には生産が持ち直すはずであった。

しかし、新型コロナウィルス問題は欧米に波及し、日本でも非常事態宣言がだされるなど、経済活動は大きく下押されている。

3月の実質輸出は同-3.4%となり、グローバルに経済活動が止まり、輸出需要はまだかなり弱い。

需要の減少により生産在庫を抱えるリスクを減じるため、日本の生産活動には引き続き下押し圧力がかかるとみられる。

1-3月期の在庫指数は前期比+2.3%と大きく増加している。

特に、グローバルな需要の減少は自動車産業の生産を下押すとみられる。

4月の経済産業省予測指数は同+6.8%から同+1.4%と大きく下方修正された。

誤差修正後は同-1.3%であり、実際はもっと大きめの低下となる可能性が高い。

経済産業省の鉱工業生産の判断は、「一進一退ながら弱含み」から「低下している」に下方修正された。

新型コロナウィルス問題により消費需要は大きく減少したが、東日本大震災のように生産設備に大きな物理的ダメージがあったわけではなく、物流は維持されている。

AI・IoT・ロボティクス、ビッグデータ、5Gを含む技術革新、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発など、生産活動を長期的に支える動きには変化はないとみられる。

米中貿易紛争の余波と新型コロナウィルスの問題も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、安定した供給体制に対するプレミアム上昇で、日本国内での生産活動が選好される可能性がある。

日本の輸出と生産も一時的に大きな下押し圧力がかかっているが、2008年のリーマンショック後よりはその影響は長期的なものにならない可能性はまだある。

経済成長がほぼ外需依存だった過去と比較し、現在は外需の寄与はほとんどなく、大規模な経済対策で内需の底割れを防げは、生産活動への下押し圧力を小さくすることができるからだ。

大規模な経済対策の効果が雇用と内需を支えている間に、新型コロナウィルスの問題が終息に向かえば、内需拡大の力で年後半の生産活動がV字回復することは十分に可能だろう。

政府・日銀の流動性対策と企業支援が強力に実行されるとともに、民間金融機関の活動も活性化し、信用サイクルが腰折れずに、企業の耐久力が維持され、失業率の上昇は大きくなく、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながらず、景気は回復のないL字型は回避されるだろう。

新型コロナウィルス問題の終息後にペントアップ需要の発現とともに経済活動がリバウンドするだろう。

そして、追加の経済対策が出るなどして財政拡大の効果も更に強く出ればV字型の景気回復となり、日本経済は元のデフレ脱却への道に戻れることになるだろう。

実質GDP成長率の寄与度でみれば、V字型の景気回復となるのは内需で、輸出が回復しても輸入も内需のリバウンドを反映して増加するため、外需にはそれほど期待できないだろう。

日銀は、「上限を設けず必要な金額」の国債買入れを行う方針を明確にし、ポリシーミックスの強化をより意識させるようにしている。

日銀のスタンスを背景に、どれほど政府が財政を大胆に拡大させ内需を刺激することができるのかが、景気の回復の形が緩慢なU字型か早いV字型かを決することになるだろう。

もともと平時にこれだけのしっかりとした財政拡大をして、家計を支援していれば、内需は強く拡大し、デフレからはとうの昔に完全脱却していたはずである。

政府の歳出と歳入の差のワニ口の話は、企業の過剰貯蓄という総需要を破壊する力がある間は有害な議論であり、口が閉じてしまえば、総需要の加速度的な縮小で新型コロナウィルス問題がなくても恐慌になってしまっていただろう。

ワニ口の大きさを示す財政赤字は、企業の貯蓄と完全に逆相関になっていることで、企業の貯蓄が異常なプラスの状態で総需要を破壊する力がある間は、ワニ口の議論は経済の健全な成長や家計の富の蓄積には有害であることを示す。

新型コロナウィルス問題によって歳出が増加し、もはやワニ口の体をなしていないことを嘆く意見があるが、そもそもそのワニ口の論点自体がデフレ経済という内需を支えることが急務な異常な環境の下では皮相的なものであったことを認識すべきだろう。

実際には、ワニ口の開きが足らず、企業の総需要を破壊する力を財政支出の不足で補いきれず、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力、家計に所得が回る力、即ちリフレサイクルを示すネットの資金需要(資金の借り手である企業と政府の貯蓄率の合計)が消滅した状態を放置していた緊縮的な財政政策が、景気拡大が続く中でもなかなか2%の物価目標を達成できなかった主原因であったと、そろそろ総括すべき時だろう。

図)実質GDP成長率寄与度

実質GDP成長率寄与度
(画像=内閣府、SG)

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司