自治体への寄付を通じて税金の優遇を受けながら各地の特産品が味わえることなどから、人気を集めている「ふるさと納税」。返礼品に魅力を感じて寄付先を選ぶ人も多いが、ここへきて「社会貢献」が1つのキーワードになりつつある。新型コロナウイルス感染拡大の影響で打撃を受けた事業者を支援する返礼品や、後継者の養成につながる返礼品が人気を呼んでいるのだ。こうしたふるさと納税の新たなトレンドを紹介しよう。

提供:銀座英國屋
(画像提供:銀座英國屋)

脱・返礼率競争で「社会貢献」が浮上

そもそもふるさと納税とは、自分が選んだ自治体に寄付をすることで、税金の控除が受けられる制度。わずか2000円の自己負担で寄付した自治体から特産品を受け取れることで人気を呼んだ。これまでは返礼率(還元率)で寄付先を選ぶ人も多く、それが返礼品の豪華さを競う過度な競争につながった。しかし昨年、返礼率の上限が3割以下に統一されたこともあり、希少性や利便性など、別の視点から選ぶ傾向が見られる。

その中で注目されるのが、「社会貢献」という視点だ。以前から地震や台風などの自然災害の際、被災自治体へ迅速にお金を届ける手段として活用されてきたが、さまざまな社会課題解決につなげるケースも増えている。

例えば、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一斉休校による給食停止や観光・外出自粛などにより大きな打撃を受けた事業者を支援する返礼品が3月初旬から続々登場。各自治体が行き場を失った食材や将来的に使えるホテル宿泊券などを返礼品として提供したところ、大きな反響を呼び、多額の寄付が集まっている。

縫製工房の若手職人養成に活用

「ふるさとチョイス」より
(「ふるさとチョイス」より)

また、後継者不足に悩む業界において、ふるさと納税の返礼品を職人養成につなげようというケースも注目を集めている。東京・銀座で高級紳士服オーダーの老舗として80年の歴史を持つ「銀座英國屋」では、縫製を担当する子会社・エイワの工房がある埼玉県北本市の返礼品として、スーツやコートなどのオーダー服補助券(5000円~20万円)の提供を2017年12月から開始した。すると、わずか1ヵ月足らずで67件、約1400万円の寄付が集まった。

「返礼品の多くは食品なので、『冷蔵庫や冷凍庫のキャパシティ以上は申し込めないため、寄付可能額の上限まで使えず、余ってしまった』という話をお客さまからよく伺っていました。そこで、オーダー券を返礼品として提供できないかと北本市にご相談したんです」と話すのは、銀座英國屋とエイワの代表取締役社長を務める小林英毅さん。

「フルオーダー業界では世界的に、深刻な縫製技術者の高齢化が問題になっています。その中で弊社では若手育成や技術継承を目指して分業制や待遇向上を進め、今や社員の半数を20~30代が占める世界でもまれな縫製工房です。そうした状況を、ふるさと納税を通して多くの人に知っていただき、応援していただければと思ったのがきっかけです」(小林さん)

市の寄付総額の99.4%を占めるまでに!

翌2018年には903件、約1億2107万円の寄付が集まり、北本市の寄付総額約1億2773万円の94.8%を占めた。さらに、2019年には「5年間有効」という利点をアピールした結果、1640件、約2億5183万円と倍増し、同99.4%にまで達した。

小林社長は「ここまで反響があるとは思っていませんでした。始める前は『年間1~2件来ればいいかな』と社内で話していたので、うれしい誤算でした(笑)。ならすと60万~100万円ですが、中には一人で2000万円寄付された人もいます。初めて当店を利用される人も多いうえ、普段お世話になっている地元にも恩返しができてうれしいです」と手応えを語る。

さらに、「ふるさと納税経由のご注文によって若手の育成体制が強化でき、その結果、『縫製技術者を確保できず、縫えないため、注文を受けられない』という全国のテーラー店を支えるための縫製請負サービスも拡大できました。今後はご自分用だけでなく、ギフト用にも活用していただきたいですね」と期待を寄せる。

北本市のふるさと納税担当者は、「返礼品はこれまで食品のみでしたが、オーダー券導入後の2年余りで寄付総額が約15倍に増えました。市民の外部への寄付による流出もあって財政的に厳しい状況だったので、大変ありがたいです。寄付金は子育て支援やまちづくりなどに大切に使わせていただいています。この品をきっかけに北本市を知り、『一度訪れたい』などと興味を持ってくださる人も多いようです。市の魅力発信や交流人口の増加につながればうれしいですね」と話す。

このほか、火災で焼失した首里城の再建(沖縄県那覇市)や子どもの難病支援(佐賀県NPO支援)など、ふるさと納税を通じて地域課題解決を目指す、自治体主導のクラウドファンディングも注目されており、こうした取り組みは今後も各地で増えていくだろう。自分が払った税金(寄付)がどう使われるかを見届けるとともに、社会貢献を実感できるいい機会になるのではないだろうか。

※記事の内容は2020年5月8日現在のもので、その後、寄付金額や内容量が変更されたり、申し込み終了になったりすることがあります。自治体ホームぺージや各ポータルサイトなどで最新情報をご確認ください。