シンカー: 先週金曜日に発表された4月の米国非農業部門雇用者数は予想ほどは悪化しなかったが、歴史的に見てこれだけの短期間で非農業部門で-22000K(前回-870K)の雇用が失われ、失業率が14.7%(前回4.4%)まで上昇したことは衝撃的だった。5月の雇用統計では更なる悪化が待ち受けていると見られるが、徐々に経済活動再開に向けた取り組みも出てきている。ただ、依然として経済活動を再開することによる第二次感染拡大への懸念を払しょくすることはできず、今後どのように経済活動を行っていくか手探りの状態は続くと見られる。早い段階で経済活動を再開し始めた中国では、密集を避ける措置を取りながらもメーデー連休を利用した観光がある程度の回復を見せ、さらに自宅生活を充実させるための出費も増加しているようだ。コロナ後のニューノーマルを探す動きの中で、中国の先例が参考になるとともに、日本においてもそういった再開に向けた指針を作っていく必要があるだろう。そして、経済活動が再開しても、以前のような水準まで回復するためには、金融政策と財政政策の支援が引き続き必要であろう。拙速な政策引き締めが行われれば、景気の二番底のリスクが大きくなるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・経済指標・クイックコメント集

●米NFP (5/8): -20500k (予想-22000k / 前回-701K→-870k)

●米失業率(5/8): 14.7% (予想16.0% / 前回4.4%)

●米平均時給 (5/8): MoM 4.7% (予想0.4% / 前回0.4%) / YoY 7.9% (予想3.3% / 前回3.1%→3.3%)

・4月の非農業部門雇用者数は-20500k、失業率は14.7%と予想されていたほど悪化しなかった。
・最も打撃を受けた部門は娯楽・ホスピタリティー部門で、-7700kの減少(内飲食業が-5500k)となっている。
・教育・医療保健部門でも-2500kの下落がみられ、コロナウイルスに直接関係しない医療関係の分野で雇用者数が減少したと見られる。
・平均時給の伸びは大幅に加速し、比較的賃金が低い飲食といった産業で雇用がなくなったことが時給を平均で見た時の伸びにつながったようだ。
・5月の雇用統計では更なる悪化が予想されているが、同時に6月には多くの週で経済活動再開に向けた動きが始まっていくとみられる。
・ただ、感染の第二次拡大への懸念などから、経済活動が以前の状況に戻るには多くの時間を要することは必至だ。

●独鉱工業生産 (5/7): 前月比-9.2% (予想 -7.4% / 前回0.3%)

・3月のドイツ鉱工業生産は前月比-9.2%とコンセンサスよりも弱い結果となり、前月の同0.3%から悪化した。
・建設を除いて全セクターで生産は低下し、特に自動車では前月比-30%以上の大幅なマイナスを記録、エネルギーも大きく影響を受けた。
・3月の中旬ごろから、企業が操業停止といった措置を取り始め、サプライチェーンが分断されたとみられる。
・4月の景況感指数はさらなる悪化を示しており、今後発表される製造業部門の生産はさらなる落ち込みを示す可能性が高い。

●米GDP (4/29): 前期比年率-4.8% (-4.0% / 前回2.1%)・個人消費 (1Q ): -7.6% (予想-3.6% / 前回1.8%)

・米国の1QGDP成長率は前期比年率-4.8%と予想を上回って下落し、2014年以降初めてマイナスを記録。
・これまで成長をけん引してきた個人消費が前期比年率-7.6%となったのに加えて、設備投資、輸出、民間在庫変動もマイナスに寄与した。
・米国で移動制限といった措置が取られ始めたのは3月中旬ごろになってからだが、その短期間のうちに個人消費は急激に悪化したとみられる。
・新型コロナウイルス問題が長期化するにつれて、来期のGDPはこれ以上に悪化することは必至といえる。
・感染拡大状況、治療薬/ワクチンの開発や、ロックダウンの解除時期など不確実要素が多い中、感染が収束した際の持ち直しのためには政府のサポートがこれまで以上に重要になっている。

●仏Markit製造業PMI (4/23): 31.5 (予想37.0 / 前回43.2)・サービス業PMI (Apr): 10.4 (予想24.5 / 前回27.4)・総合PMI (Apr): 11.2 (予想24.5 / 前回28.9)

●独Markit製造業PMI (4/23): 34.4 (予想39.0 / 前回45.4)・サービス業PMI (Apr): 15.9 (予想28.0 / 前回31.7)・総合PMI (Apr): 17.1 (予想28.5 / 前回35.0)

●ユーロ圏Markit製造業PMI (4/23): 33.6 (予想38.0 / 前回44.5)・サービス業PMI (Apr): 11.7 (予想22.8 / 前回26.4)・総合PMI (Apr): 13.5 (予想25.0 / 前回29.7)

・4月のユーロ圏サービス業PMIは11.7、総合PMIも13.5と前回の金融危機を大幅に上回る過去最低値を記録した。
・一部の製造業はロックダウン中でも操業の継続が認められていたことがPMIの悪化に歯止めをかけていたとみられるが、ロックダウン措置が拡大されるにつれ、4月のPMIは低下。
・ドイツでは製造業の割合が多いことが、フランスなど観光も含むサービス業の割合が多い国と比べて影響を受けにくくなっているとみられる。
・今回発表されたフランスの結果を踏まえると、イタリア、スペインなどサービス業はさらなる悪化が予想される。

●独ZEW景況感指数 (4/20): 現況-91.5 (予想-77.5 / 前回-43.1) / 期待28.2 (予想-42.0 / 前回-49.5)

・4月のZEW景況感指数は現況が-91.5と予想を大きく上回って低下したが、期待は大きく上振れプラス圏に回復。
・サブプライムローン危機時の2009年4月、5月と似た指数の動きになっている。
・当局の積極的な対応などもあり、新型コロナ問題終息についての希望が見えてきたと受け止められているようだ。
・ただ、ZEWのWambach所長は、2020年より前に経済成長が新型コロナ以前の状況に戻ることはないだろうとしている。

●米NY連銀製造業景況感指数 (4/15): -78.2 (予想-35.0 / 前回-21.5)

・4月のNY連銀製造業景況感指数は、現況が過去最低のー78.2(prev: -21.5)と、過去の金融危機で記録した-34.3を大きく塗り替えた。
・集計期間は4月2日から4月10日となっており、ロックダウンといった措置が製造業の活動に深刻な影響を与えていることを改めて示している。
・内訳では、新規受注が-66.3(prev: -9.3)、出荷-68.1(prev: -1.7)、雇用-53.8(prev: -1.5)などいずれも大幅に低下。
・入荷遅延は上昇しており、工場などが操業停止に直面する中、サプライチェーンの混乱は続いているようだ。
・一方で、期待については48.6(prev: 37.9)と小幅に改善したものの、新規受注や出荷、雇用などの先行きは悪化している。
・ただ、わずかではあるもののこれらの指数はプラス圏にとどまっており、企業は6か月の先行きでは持ち直しがみられることを期待しているようだ。

グローバル・政治/金融政策・クイックコメント集

●ECBは3か月でPSPPが比例性原則を満たすと示す必要に迫られる(5/7)

ドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht: BverfG)が5月5に下した判断は、ECBの “Whatever it takes”に代表されるコミットメントに疑問を投げかけるものだった。BverfGは、ドイツ国内の公的機関がECBの決定したPSPPを実行する際、比例性原則(the principle of proportionality)が満たされているかを検証・立証しなかったことを問題視している。この判決では、ECBが3か月以内にPSPPによって目指す金融政策が、経済・財政政策への影響とつりあわないものではない(比例性原則に反していない)ことを示さなければ、ドイツ連邦銀行のPSPP参加を認めず、ドイツ連邦銀行がすでに購入し、保有している債券を他のユーロ加盟国と調整しながら長期的戦略に基づいて売却しなければならないとした。すでにECBや欧州委員会は、PSPPを擁護する声明を発表しているが、今後3かでECBがどのような対応に出るかが注目される。新型コロナウイルスという緊急事態に、もしECBが十分に行動できないことが示されれば、金融政策の信頼性が損われる恐れがあるだろう。

●ECBがジャンク債を担保として受け入れることを決定(4/23)

ECBは22日夜テレビ会合を行い、格下げの影響を抑えるためにさらなる担保要件の緩和を決定した。この決定は、4月7日に発表されていた担保要件の緩和を強化するもので、2021年9月までジャンク級(BB)の資産がECBのオペレーションにおける担保として認められる。対象は、2020年4月7日までBBB-(投資適格の下限)の格付けを受けていた資産で、ABS(資産担保証券)については、現時点でA-の格付けを持つ資産が格下げされた場合にBB+まで担保として受け入れるとしている(詳細はEurosystem credit assessment framework)。それ以降の同じ発行者による新規発行も担保として認められることになっている。今回の措置は、新型コロナウイルス問題を背景とした格下げに対するプロシクリカルな影響を和らげる効果があり、さらにここ最近高まっていたイタリア格下げ懸念に対処する狙いがあると見られる。ECBはこの一時的な措置について、TLTRO-IIIの返済が始まる2021年9月までを期限としているようだ。

●LCH が€STRへのディスカウントレート変更を延期(4/20)

4/17にLCHはEONIAから€STRへのディスカウントレート変更を5週間延期し、7/27とすることを発表した(当初6/22予定)。新型コロナウイルスにより金融機関がリモートワークへの移行を迫られ、オペレーションの変更などから当初のスケジュールに遅れが生じていたことが背景にある。4/7に行われたECBのRFR(Risk Free Rate)ワーキンググループでは、新型コロナウイルスの対応としてディスカウントレートの変更延期について話し合われたものの、コンセンサスが得られていない状態だった。今後、EurexとCMEもLCHと同じように、€STRへのディスカウントレート変更を延期する対応をとるとみられる。これにより、6月からのディスカウントレート変更を前提としてプライシングされたスワップの評価に影響が出るといったことが考えられる。

●IMF世界経済見通し(4/15)

火曜日に発表されたIMFの世界経済見通し(WEO)では、新型コロナウイルスの影響により、2020年の世界経済の実質成長率が-3.0%に落ち込むと予想されている。前回1月時点の予想では+3.3%となっていた。IMFチーフエコノミストのギタ・ゴピナート氏(Gita Gopinath)は、世界経済の見通しは1月時点から“劇的に変化”し、12年前の金融危機の影響を小さく見せてしまうほどだとしている。2021年の世界経済の実質成長率は+5.8%と財政面の支援などから正常化が見込まれるが、リバウンド強さがどれくらいになるかは不透明で、経済成長は新型コロナウイルス以前のトレンドを下回るだろうと予測している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司