2020年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比0.2%減(1)と、前期の同6.7%増から急低下し、市場予想(2)(同2.9%増)を大きく下回る結果となった(図表1)。

フィリピンGDP
(画像=PIXTA)

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の悪化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比0.2%増(前期:同5.7%増)と急低下した。民間消費の内訳を見ると、保健(同11.5%増)が加速、食料・飲料(同4.7%増)と通信(同5.7%増)が底堅く推移したものの、レストラン・ホテル(同15.4%減)と交通(同8.9%減)が大きく減少、住宅・水道光熱(同2.9%増)が鈍化した。

政府消費は同7.1%増となり、前期の同17.0%増から低下したが、高めの伸びを維持した。

総固定資本形成は同4.3%減と、前期の同5.8%増から低下した。建設投資が同3.4%減(前期:同11.4%増)、設備投資が同7.7%減(前期:同6.5%減)と、それぞれ減少した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の半分を占める輸送用機器(同2.2%増)が小幅ながら増加した一方、一般工業機械(同19.2%減)と特定産業機械(同17.8%減)がそれぞれ大幅減となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.9%ポイントとなり、前期の+0.4%ポイントから拡大した。まず輸出は同3.0%減(前期:同0.3%増)となり、7年ぶりに減少した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同4.3%減(前期:同3.2%増)がマイナスに転じると共に、財輸出が同1.8%減(前期:同1.6%減)と低迷した。また輸入は同9.0%減(前期:同0.7%減)とマイナス幅が拡大した。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、幅広い産業で成長率が低下した(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同1.4%増(前期: 同8.1%増)と大きく低下した。運輸・倉庫業(同10.7%減)と宿泊・飲食業(15.3%減)が急減したほか、卸売・小売(同1.1%増)や専門・ビジネスサービス業(同0.7%増)、不動産業(同2.2%増)が大きく鈍化した。一方、情報・通信業(同5.7%増)と金融・保険業(同9.6%増)、保健衛生・社会活動(同9.2%増)については堅調に増加した。

第二次産業は同3.0%減(前期: 同6.0%増)と低下した。まず製造業(同3.6%減)はコンピュータ・電子機器や石油製品を中心に落ち込んだほか、建設業(同1.8%減)と鉱業・採石業(同5.2%減)もマイナスとなった。一方で電気・ガス・水道(同5.3%増)は底堅い伸びを維持した。

第一次産業は前年同期比0.4%減(前期:同0.8%増)と低下した。コメ(同1.9%減)やバナナ(同3.5%減)などの作物は今年1月のタール火山の噴火の影響を受けて総じて不調だったほか、漁業・養殖業(同5.2%減)は主要な漁場が禁漁期に入った影響で減少した。

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(1)2020年5月7日、フィリピン統計庁(PSA)が2020年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
(2)Bloomberg調査

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は過去8年連続で年間+6%以上の高成長で推移してきたが、2020年1-3月期の成長率は前年比0.2%減と落ち込んだ。同国のマイナス成長はアジア通貨危機後の1998年以来である。

1-3月期のマイナス成長は、新型コロナウイルスの感染拡大にタール火山噴火の影響が加わって内需が縮小したためだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は3月中旬からマニラ首都圏を含むルソン島全域で厳格な外出・移動制限を実施しており、経済活動が停滞した。また今年1月に首都マニラ南方にあるタール火山が噴火して、近隣の工業団地などに被害が出たことも景気の下押し要因になった。GDPの7割を占める民間消費は+6%前後の高成長で推移していたが、1-3月期はゼロ成長と失速、また総固定資本形成は2012年以降、最大の減少幅(同4.3%減)となった。

景気下支えに向けては、フィリピン政府は既に低所得層向けに2,000億ペソ(約4,200億円)の現金給付を始めており、今後はインフラプロジェクトを再開することにより経済を復活させることを目指している。またフィリピン中銀は今年に入り、4月の緊急利下げを含めて累計1.25%の利下げを実施しているほか、銀行の預金準備率を2%引き下げている(図表3)。

しかし、4-6月期は更なる経済成長の悪化が予想される。ルソン島の外出・移動制限措置は5月1日から感染者の少ない地域で制限が緩和されたが、マニラ首都圏や周辺州では5月15日まで延長されている。またフィリピン中部のセブ市では3月27日、南部ダバオ市では4月4日からそれぞれ外出・移動制限措置が実施されている。これらの活動制限措置により、フィリピンは爆発的な感染拡大こそ回避できているが、5月の新型コロナウイルスの新規感染者は平均250人/日以上のペースで増えており、いまだウイルス感染のピークは見えていない状況にある(3)(図表4)。フィリピン政府は5月15日から徐々に経済活動を再開させる計画だが、再流行のリスクを伴うだけに制限解除は非常に緩やかなものとなりそうだ。こうした制限措置による経済活動への打撃は7-9月期まで続き、本格的な景気回復は10-12月期から始まるものとみられる。2020年通年のプラス成長の達成は難しいだろう。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)フィリピンにおける新型コロナ感染者は累計10,343人、死者685人(5月7日時点)。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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