2020年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比0.7%増(1)と前期の同3.6%増から低下したが、Bloomberg調査の市場予想(同▲1.0%増)を上回る結果となった。
1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に外需の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。
GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比6.7%増(前期:同8.1%増)と低下した。また政府消費は前年同期比5.0%増(前期:同1.2%増)と上昇した。
総固定資本形成は同4.6%減(前期:同0.7%減)と低下した。建設投資が同4.0%減(前期:同0.1%増)、設備投資が同6.2%減(前期:同2.6%減)と、それぞれマイナス幅が拡大した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同2.3%減(前期:同4.3%増)と減少、公共部門が同11.3%減(前期:同8.0%減)と低迷して10期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲3.2%ポイントとなり、前期の▲0.9%ポイントから大幅に悪化した。輸出が同7.1%減(前期:同3.4%減)と更に減少、輸入は同2.5%減(前期:同2.4%減)と低迷した。
供給側を見ると、主に幅広い産業で生産が鈍化した(図表2)。
第一次産業は同8.7%減(前期:同5.7%減)と悪化した。パーム油(同22.0%減)と林業(同23.5%減)、漁業(同10.6%減)が前期から更に減少幅を拡大したほか、天然ゴム(同18.2%減)が5期ぶりのマイナスとなった。
第二次産業をみると、まず製造業は同1.5%増(前期:同3.0%増)と減速。2013年以来の低成長を記録した。内訳を見ると、主力の電気・電子、光学機器(同3.8%増)と石油製品(同3.7%増)、化学製品(同2.3%増)がそれぞれ上昇、食品加工(同8.3%増)が堅調を維持したものの、動植物性油脂(同16.4%減)や輸送用機器(同1.8%減)など幅広い産業が伸び悩んだ。また建設業が同7.9%減(前期:同1.0%増)と大きく低下したほか、鉱業が同2.0%減(前期:同3.4%減)となり、原油生産の落ち込みを受けて3期連続で減少した。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比3.1%増(前期:同6.2%増)と低下した。情報・通信(同6.7%増)や金融・保険(同4.9%増)、政府サービス(同4.3%増)など成長を支えた業種もあるが、宿泊・飲食業(同1.6%増)や卸売・小売(同2.1%増)、不動産・ビジネスサービス(同3.4%増)など多くの業種が鈍化した。
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(1)2020年5月13日、マレーシア中央銀行が2020年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は昨年半ばまで+4%台の底堅い成長が続いていたが、2020年1-3月期の成長率は前年比0.7%増となり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて大きく減速、2009年以来の低成長を記録した。
1-3月期の低成長の主因は外需の縮小だ。新型コロナの世界的な感染拡大を背景に、輸出部門は世界需要の減退とサプライチェーンの混乱の悪影響を受けると共に、世界各国が水際対策として実施する出入国規制によって外国人旅行者数が減少した結果、財・サービス輸出が前年比7.1%減と落ち込んだ。
また新型コロナウイルス封じ込めのため、マレーシア政府が3月18日に実施した活動制限令の影響で、内需も3月に入って急速に縮小している。活動制限令では移動制限や必須サービスを除く事業所の閉鎖などが実施され、経済活動が著しく抑制されることなった。2月まで5%以上の伸びが続いた流通業売上高は3月に前年比5.7%まで急減(図表3)、鉱工業生産指数も3月に前年比4.9%減のマイナスとなっている。
国内経済の下支えに向けては、マレーシア政府は3段階に分けて計2,600億リンギットの経済対策を発表、医療機器の調達や低所得者向けの一時給付金の支給、中小零細企業を含む事業向け支援などを打ち出した。またマレーシア中銀は今年に入って3回の利下げ(累計▲1.0%)を実施しており、政策金利を2%の約10年ぶりの低水準まで引き下げている。
活動制限令が実施されてからも新型コロナの感染者数が急増したことから、政府は4月からスーパーの営業時間短縮など制限措置の厳格化を図ったが、4月後半からは段階的な制限緩和を進めており、5月4日からは条件付き活動制限令に切り替え、経済活動の大半が再開されるようになっている(制限期間は6月9日まで延長)。なお、このように制限措置が緩和されるなかでも、新型コロナの新規感染者数は4月中旬頃から概ね50~100人程度で推移しており、感染拡大を管理可能な水準に食い止めることができている(図表4)。
先行きのマレーシア経済は、活動制限期間の長い4-6月期に成長率が大幅に悪化してマイナス成長を記録し、2020年7-9月期からは制限措置の緩和を受けて持ち直しに向かうだろう。しかし、パンデミックの拡大を食い止めるための感染対策は引き続き必要とされ、今後も内需と外需が大きく圧迫されることから本格的な景気回復には程遠く、ごく緩やかな景気回復に止まるだろう。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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