シンカー:財政赤字だけをみるミクロ・会計的な財政運営は大きな問題で、民間の資金需要の弱さを考慮してネットの資金需要を適度な水準に保つマクロ的な視野をもった財政運営にすぐにでも改めるべき。新しい財政政策の基本的な考え方となる十箇条である。
① 企業が資金を使わず需要を破壊する力がかかってしまっているのであれば、政府が資金を使って、経済を回さなければいけない。その目安は、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要。
② 景気が悪ければ、どんな立派な成長戦略を推進しても、企業の弱気な行動を変化させることはできず、まずは財政拡大で経済を膨らませる必要がある。
③ 企業の貯蓄対比で財政拡大が弱すぎ、ネットの資金需要が消滅してしまっていて、経済が回って賃金とマネーが拡大する力(リフレ・サイクル)が弱いことが、なかなかデフレを完全脱却できない原因。
④ ネットの資金需要が存在しないと、日銀が供給した流動性が市中に流れる力が弱く、日銀の量的金融緩和の効果は小さい。
⑤ GDP対比3-5%程度の適度なネットの資金需要を恒久的に確保するのに十分な財政拡大が必要。
⑥ GDP対比3-5%程度のネットの資金需要は大きくなく、金利の高騰を招かないで財政拡大が可能。
⑦ デフレ完全脱却の必要条件として、企業貯蓄率が正常なマイナスとなるまで財政拡大を継続する時間軸が必要。
⑧ 企業貯蓄率が正常なマイナスに戻れば、過剰貯蓄として需要を破壊する力が消滅し、企業の期待成長率・期待インフレ率の上昇、マーケットの期待RoEの上昇をともない、デフレ完全脱却となる。
⑨ 強い企業行動による景気拡大を背景とする税収増加、そして景気過熱を防ぐための財政政策の引き締めなどで、ネットの資金需要の構成が財政赤字から企業の資金需要に移り変わることで、財政再建が可能に。
⑩ 企業の投資活動とイノベーションで生産性が大きく押し上げられれば、人口減少でも成長を続けることがで可能に。
図:緊縮財政でリフレサイクルがまだ弱い
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司