シンカー:政府は現在第2次補正予算の作成を急いでおり、27日にも閣議決定される見通しになっている。だが、新型コロナウイルスで経済活動がストップしたことによる税収減を十分に反映していないとみられ、今後さらに第3次補正予算に向けた議論が始まる可能性もあるだろう。超長期の発行が増えることでスティープ化への警戒感は続くとみられるが、日銀は無制限買い入れにコミットメントすることでポリシーミックスの強化を意識させている。さらに、マイルドなスティープニングは利回りを求める動きにつながり、過度な金利上昇は避けられるだろう。もし今後、財政拡大とインフレ上昇などへの警戒感が高まることがあれば、保有国債の価格低下をヘッジするためのスワップの払い圧力が強まり、スワップスプレッドのマイナス幅が縮小するといった影響も考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

税収減から第3次補正予算の可能性も

4月末に27.5兆円に上る2020年度第1次補正予算が成立したが、政府は現在第2次補正予算の作成を急いでおり、27日にも閣議決定される見通しになっている。現金給付第2弾といった案は見送られる可能性が高いが、家賃支援策といった内容が盛り込まれるようだ。弊社は、家計と企業の更なる支援とウィルス問題終息後のV字回復促進を目的として、年末までに複数の追加経済対策(合計GDP比2%程度)を実施するとみてきた。ただ、現在審議中のの補正予算では新型コロナウイルスの影響による税収減を十分に反映していないとみられるため、第2次補正予算が取りまとめられても、さらに第3次補正予算に向けた議論が始まる可能性は高いとみられる。第1次補正予算とそれに伴う国債の増発は、主に短中期ゾーンが中心だった。しかし、いずれは超長期ゾーンの国債発行に移っていくという警戒感と、グローバルな国債増発圧力によりカーブは緩やかなスティープニングにむかっている。27日の閣議決定とともに発表されるとみられる追加の発行計画が明らかになるまで、警戒感は続く可能性があるだろう。

日銀の国債と国庫短期証券保有残高

日銀の国債と国庫短期証券保有残高
(画像=日銀、SG)

国庫短期証券の増発はいずれ長いゾーンの国債発行に

すでに国庫短期証券は5月に入ってから大幅な増発傾向が続いているが、今のところ深刻な需給の悪化は起こっていないようだ。また、政府が国庫短期証券を発行して市中から資金を調達することにより、マネタリーベースが減少する点について、日銀はフレキシブルに買入れを増額することができる。日銀がかつて保有していた56兆円程度(2016年9月時点)の国庫短期証券と比較すると、現在の保有水準はかなり低いとみられ、買い入れ増額余地は多く残されているとみられる。政府は財政拡大に対応するために、国庫短期証券を多用して資金調達を行っているが、最終的にはより長いゾーンの国債発行に振り替えられていくだろう。これまで、前倒債を利用して国債の増発を抑えてきたが、さらなる増発を避けることは難しくなっている。一方で、多少のスティープニング圧力の中でも、日銀は無制限買い入れにコミットメントすることでポリシーミックスの強化を意識させており、安心感があるようだ。さらに、マイルドなスティープニングは利回りを求める動きにつながるとみられ、過度な金利上昇は避けられるだろう。

国債増発、日銀による無制限買い入れとスワップスプレッド

超長期のスワップスプレッドの動向を見てみると、30年は3月に入ってから-28bpから-15bp程度のレンジを推移している。一時は混乱の中、キャッシュ化の動きで国債が大きくアンダーパフォームし、スワップスプレッドのマイナス幅が拡大した。危機的状況は落ち着いてきたが、グローバルに国債増発が意識されている中、固定受けニーズが引き続き強いことからスワップスプレッドがマイナスの状況は継続しているようだ。今後、財政拡大とインフレ上昇などへの警戒感が高まれば、保有国債の価格低下をヘッジするために払いの圧力が強まり、マイナス幅が縮小する可能性もあるだろう。さらに、日本国債の増発が意識される中でも、過度な金利上昇圧力は抑制されており、日銀による国債の無制限買い入れによる金利低下圧力もスワップスプレッドのマイナス幅低下につながるかもしれない。ただ、LCH-JSCCスプレッドが示しているように、海外投資家の固定受けニーズが強い中で短期的にはあまり動きは期待できない可能性もあるが、スワップスプレッドが大幅なマイナスであることから収益(国債ロングと固定払い=国債利回り-レポ+Libor-スワップ)を得るチャンスにもなるだろう。

スワップスプレッド

スワップスプレッド
(画像=Bloomberg, SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司