シンカー:イールドカーブコントロールとフォワードガイダンスの下、長期金利がどのように決定されるのかようやくわかった。構造的財政収支、米国10年国債金利、日銀短期政策金利、そして日銀の資金供給量が主な決定要因であるようだ。単純な財政赤字ではなく、民間の貯蓄動向対比の構造的財政収支が長期金利の動向にとって重要である。どんなに財政赤字が大きくても、民間の過剰貯蓄が大きく、構造的財政赤字が大きくなけば、長期金利が高騰することはないと考えられる。そして、イールドカーブコントロールとフォワードガイダンスが追加的に長期金利を下押す金融政策変数も必要であった。日銀短期政策金利が-0.1%、米国債10年金利が0.7%、構造的財政収支が0.6%、日銀当座預金残高変化が2.8%(年で15兆円程度のペース)、金融政策変数が1.25とすると、日本の長期金利の推計値は0.0%程度となる。イールドカーブコントロールとフォワードガイダンスの下、日本の長期金利は0.4%程度、追加的に押し下げられていたようだ。その押し下げ圧力が日銀の国債買入れオペの負担を軽減していたと考えられる。その押し下げ圧力がなかった場合、55兆円程度の追加的な国債買入れオペが必要になり、合計で年70兆円程度となっていたとみられる。金融政策変数は日銀のコミットメントに対するマーケットの信頼によるため、その信頼を維持してイールドカーブをしっかりコントロールするために、日銀が上限のなしの国債買入れを表明しているのは理解できる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日本の長期金利(国債10年金利)のマクロのファンダメンタルズ要因としては、構造的財政収支と米国債10年金利の二つの柱がある。

構造的財政収支(GDP%)は、景気動向の代理変数である企業貯蓄貯蓄率(上昇=悪化、低下=改善)で景気循環要因を除去した景気動向に左右されない財政収支の部分である(財政収支全体=A + B企業貯蓄率+構造的財政収支)。

景気循環要因の財政収支はデレバレッジやリストラなどによる企業の過剰貯蓄がファイナンスする力となるため、長期金利の動向に大きな影響を与えないと考える。

単純な財政赤字ではなく、民間の貯蓄動向対比の構造的財政収支が長期金利の動向にとって重要である。

どんなに財政赤字が大きくても、民間の過剰貯蓄が大きく、構造的財政赤字が大きくなければ、長期金利が高騰することはないと考えられる。

異常なプラスの企業貯蓄率が示す過剰貯蓄として総需要を破壊する力がデフレ圧力となる中、財政政策が相対的に緊縮的であったため、構造的財政収支は既に黒字化している。

米国債10年金利はグローバルな金利水準の代理変数である。

長期金利の金融政策要因としては、イールドカーブのアンカーである日銀の短期政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、国債買い入れオペなど)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP%)の二つの柱がある。

更に、イールドカーブコントロールとフォワードガイダンスが長期金利を強く抑制しているため、イールドカーブコントロールが1、フォワードガイダンスが2、2020年3月の追加金融緩和後が1.25(既に緩和が行われたため、フォワードガイダンスの力が弱くなったと仮定)とする金融政策変数をおく。

これらの要因を使うと、日本の長期金利がうまく推計できる(ゼロ金利政策導入後の1999年からのデータ、4四半期移動平均)。

長期金利=0.51+0.61日銀短期政策金利+0.11米国債10年金利-0.041(構造的財政収支+日銀当座預金残高変化)-0.37金融政策変数+0.19 アップダミー(誤差が標準誤差以上は1)-0.17 ダウンダミー(誤差が-標準誤差以下は1)、R2=0.99

日銀短期政策金利が-0.1%、米国債10年金利が0.7%、構造的財政収支が0.6%、日銀当座預金残高変化が2.8%(年で15兆円程度のペース)、金融政策変数が1.25とすると、日本の長期金利の推計値は0.0%程度となる。

イールドカーブコントロールとフォワードガイダンスの下、日本の長期金利は0.7%程度(=2金融政策変数の係数)、追加金融緩和後で0.4%程度(=1.25金融政策変数の係数)、押し下げられていたようだ。

その押し下げ圧力が日銀の国債買入れオペの負担を軽減していたと考えられる。

現在、その押し下げ圧力がなかった場合、55兆円程度(GDP比9.8%、=0.4/0.041)の追加的な国債買入れオペが必要になり、合計で年70兆円程度の買入が必要とみられる。

金融政策変数は日銀のコミットメントに対するマーケットの信頼によるため、その信頼を維持してイールドカーブをしっかりコントロールするために、日銀が上限のなしの国債買入れを表明しているのは理解できる。

図)企業貯蓄率と財政収支

企業貯蓄率と財政収支
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)財政収支の分解

財政収支の分解
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)長期金利の推計

長期金利の推計
(画像=ブルームバーグ、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司