「もし仮に1000万円の投資資金があるとしたら、どんな運用が良いと思います?」5月14日の ZUU online 主催のウェビナーで、そんな質問を頂いた。確かに投資資金1000万円という規模はプライベートバンカーが張り付いて運用アドバイスをする超富裕層のそれと比べると、ゼロの数が最低でもひとつ以上は違う。ただ心配しないでも大丈夫。プライベートバンカーが張り付いて、手取り足取り面倒は見てはくれないかも知れないが、彼らが提案する運用とほぼ同等のことは出来る。

時々誤解されている人の話を聞いたりもするが、プライベートバンクだけが超富裕層に提供する「絶対儲かる」特殊な構造の金融商品などありはしない。ただ1人のお客様から頂戴出来る手数料が高ければ専従者をつけることも出来るし、テーラーメイドで投資信託を組成することも出来る。その公募形式ではない、勧誘人数(募集人数ではない)が最大49人までに限定された商品が存在することが誤解の元となっているのかも知れない。だが、投資理論の基本原則「リスクとリターンはトレードオフ」というものまで曲げることは不可能だ。だから投資家自身にしっかりとした正しい知識があれば、もしくは適切なアドバイザー役が居るならば、寧ろ逆に高い手数料など金融機関に払う必要など無い。

これぞ日本を代表する企業であり経営者

投資信託,選び方
(画像=Tanasin / pixta, ZUU online)

ところで、先日トヨタ自動車が2020年3月期の決算発表を行った。その決算説明会で豊田章男社長が語った内容は、株式投資をする者にとって「なぜ、その株を買うのか?」という、とても基本的な投資判断の琴線に触れるものだった。大事な部分を引用させて頂くと、曰く『私たちが「石にかじりついて」守り続けてきたものは、(国内生産)「300万台」という台数ではありません。守り続けてきたものは、世の中が困った時に必要なものをつくることができる、そんな技術と技能を習得した人財です。こうした人財が働き、育つことができる場所を、この日本という国で守り続けてきたと自負しております。コロナ危機に直面した今でも、この信念に、一点のくもりも、ゆらぎもございません』というのが前段。

後段は『雇用を犠牲にして、国内でのモノづくりを犠牲にして、いろいろなことを「やめること」によって、個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されることが往々にしてあるような気がしてなりません。(しかし)「それは違う」と私は思います。企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しい時でも、いや、苦しい時こそ、歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあります。そういう企業を応援できる社会が、今こそ、必要だと思います。ぜひ、モノづくりで、日本を、日本経済を支えてきた企業を応援していただきますようお願い申し上げます。』というものだ。

筆者の投資哲学のひとつは「株主とは企業のオーナーになること。そしてその企業と同じ夢を見ること」である。だからこれを聞いた時、思わず膝を叩いて喜んだ。時々何かを勘違いして「応援する」という同じ言葉を使う経営者や投資家がいるが、これはトヨタの社長が言うからこそ身震いするほど痺れる話になる。たとえば1990年代の超円高局面でも、トヨタは他社が海外生産にシフトしていく中「三河の雇用を守る」と言って、国内に固執した。あれから四半世紀が過ぎたが、結果として同社は日本で最大の時価総額を誇る企業となった。つまり有言実行し、夢を果たした実績が過去にもあるということだ。上辺だけの綺麗ごとであったり、商業トークだったりではない。

筆者も投信投資顧問会社の経営トップとして、3年を掛けずに会社を黒字化した経験があるが、トップライン(売上)が伸び悩む中でボトムライン(利益)を伸ばす手っ取り早い方法はコストカットだ。その最たるものが人員カット、リストラだが、筆者はこの考え方が最も嫌いだ。ウォール街にも「利益を出すことがトップの役目。リストラも重要な施策の一つ」と能書きを言うアナリストが多いが、それを経営とは呼ばないと筆者は考える。トップラインの伸びがあって、初めてそれを利益と呼べ、そうなる道筋を作ることが優秀な経営だと考える。短期的に捻り出した利益は決して長続きしない。

国際分散投資はスポーツカーではなく実用車