シンカー:日本の長期金利の推計式を使えば、イールドカーブコントロール(YCC)とフォワードガイダンス(FG)が無かった場合、その二つと日銀の国債買入れオペの力が無かった場合、長期金利がどのように推移していたか、そして足元のフェアバリューを推計することができる。YCCが導入された2016年9月の直前、長期金利のフェアバリューは0.1%程度であったとみられる。現在、YCCとFGが無い場合、日銀の国債買入れオペが減少してきたため、米国の長期金利が大幅に低下していても、日本の長期金利のフェアバリューは0.5%程度へ上昇しているようだ。そもそも2013年4月の異次元の量的金融緩和(QE)後の日銀の国債買入れオペの力がなければ、長期金利はその他の純粋なファンダメンタルズに基づいた推移をしていたはずである。日本の長期金利のフェアバリューは、異次元の量的金融緩和以前の1%程度からは低下してきたが、現在でもまだ0.5%程度の高さにあるとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日本の長期金利(国債10年金利)は、日銀の短期政策金利(%)、日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP%)、米国債10年金利(%)、そして景気動向の代理変数である企業貯蓄貯蓄率(上昇=悪化、低下=改善)で景気循環要因を除去した景気動向に左右されない財政収支の部分である構造的財政収支(GDP%、財政収支全体=A + B企業貯蓄率+構造的財政収支)でうまく推計できる(ゼロ金利政策導入後の1999年からのデータ、4四半期移動平均)。

更に、イールドカーブコントロール(YCC)とフォワードガイダンス(FG)が長期金利を強く抑制しているため、YCCの開始からが1、FGの開始からが2、追加金融緩和後が1.25(既に緩和が行われたため、FGの力が弱くなったと仮定)とする金融政策変数をおく。

長期金利=0.51+0.61日銀短期政策金利+0.11米国債10年金利-0.041(構造的財政収支+日銀当座預金残高変化)-0.37金融政策変数+0.19 アップダミー(誤差が標準誤差以上は1)-0.17 ダウンダミー(誤差が-標準誤差以下は1)、R2=0.99

この推計式を使えば、YCCとFGが無かった場合、その二つと日銀の国債買入れオペの力(日銀当座預金残高の変化)が無かった場合、日本の長期金利がどのように推移していたか、そして足元のフェアバリューを推計することができる。

YCCとFGが無かった場合、日銀の国債買入れオペが減少してきたため、長期金利には上昇圧力がかかっていたはずである。

YCCが導入された2016年9月の直前に、1年で日銀当座預金残高は70兆円台のペース増加していたため、長期金利のフェアバリューは0.1%程度であったとみられる。

現在、国債買入れオペが減少し、1年で日銀当座預金残高は15兆円程度しか増加していないため、米国の長期金利が大幅に低下していても、日本の長期金利のフェアバリューは0.5%程度へ上昇しているようだ。

そもそも2013年4月の異次元の量的金融緩和(QE)後の日銀の国債買入れオペの力がなければ、日本の長期金利はその他の純粋なファンダメンタルズに基づいた推移をしていたはずである。

日本の長期金利のフェアバリューは、異次元の量的金融緩和以前の1%程度からは低下してきたが、現在でもまだ0.5%程度の高さにあるとみられる。

現在の0%程度の推移と比較する0.5%程度の長期金利の押し下げによるYCCとFG、そしてQEの景気刺激効果は、短期金利の1%(=0.5% / 0.46)程度の押し下げによるものと同等であると考えられる。

図1)YCCとFGがなかった場合の長期金利のフェアバリュー

YCCとFGがなかった場合の長期金利のフェアバリュー
(画像=ブルームバーグ、SG)

図2)YCCとFG、そして量的金融緩和がなかった場合の長期金利のフェアバリュー

YCCとFG、そして量的金融緩和がなかった場合の長期金利のフェアバリュー
(画像=ブルームバーグ、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司