ユーロ圏の景気後退リスクと政策対応
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2021年末でもGDPはコロナ危機前の水準に達せず

みずほ総合研究所 欧米調査部 上席主任エコノミスト / 吉田 健一郎
週刊金融財政事情 2020年6月1日号

約2カ月の国家封鎖措置を経て、欧州諸国は徐々に社会と経済の再開にかじを切ろうとしている。5月4日にはイタリア、5月11日はフランス、5月25日にはスペインのマドリードやバルセロナといった主要都市で封鎖措置の緩和が行われた。

 「ポストコロナ」の欧州経済を占う上で、約2カ月の経済活動停止がもたらした経済的な打撃の深度を測ることが第一歩となる。産業別には、運輸、ホテル・外食、旅行、教育、芸術・文化、スポーツ・娯楽といったサービス業が封鎖措置の最も深刻な影響を受けた。封鎖措置による稼働率の低下度合いは正確には分からないが、例えば、欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏の小売り・輸送・ホテル・外食サービスといった産業の付加価値額が封鎖措置により60%失われたといった推計を発表している。

 製造業も封鎖措置の影響を大きく受けた。ECBが発表しているユーロ圏の新車登録台数は、3月の前月比57.7%減に続き、4月も同44.9%減の急激な落ち込みとなった。国別には、ドイツ(同31.0%減)の落ち込みは比較的軽微であったが、イタリア(同82.6%減)、スペイン(同87.3%減)などで顕著に販売が落ち込んだ。封鎖措置による休業や部品供給の遅れなどにより、多くのメーカーが欧州において事実上の操業停止に追い込まれた。

 「ポストコロナ」の需要回復ペースは鈍いものとなろう。確かに、企業活動休止や移動制限措置の段階的な解除に伴い、5月後半から夏場にかけては需要の反動増が予想される。しかし、感染再拡大のリスクが残る中で、消費者や企業行動の慎重姿勢は当面継続するとみるのが自然だ。

 コロナショックに対処すべく、ユーロ圏主要4カ国(ドイツ・フランス・イタリア・スペイン)は、GDP比約7%の財政措置、事業規模では同約25%の経済対策を3~5月に打ち出した。リーマンショック期を上回る規模といえる。しかし、経済対策の主目的は倒産と失業の阻止にあり、大幅な景気押し上げは期待できない。封鎖措置が敷かれている中では需要創出の乗数効果は乏しいからだ。

 欧州委員会は2020年5月の経済見通しにおいて、20年、21年のユーロ圏のGDP成長率を各7.7%減、6.3%増と予想した。図表のとおり、20年4~6月期には前期比12.2%減という大幅な減少が予想され、その後の反動増はあっても、21年末の時点でのGDP水準はコロナ危機前(19年末)まで回復していないというシナリオを描く。ユーロ圏では、一次的な反動の後は緩慢な回復が続く見込みである。

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