「5+5」円の切手で寄付を集めた64年五輪
(総務省「小売物価統計調査」ほか)
三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト / 宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2020年6月1日号
総務省が作成している小売物価統計調査で、前回の東京オリンピックが開催された1964年と2019年の郵便料を比べてみると、封書は64年に10円であったのに対し、19年は83円。はがきは64年に5円であったのに対し、19年は62円になった。それぞれ8.3倍、12.4倍である(図表)。4.4倍に上昇した消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)に比べると、郵便料の上昇率は大きい。これは、全国隅々まで郵便物を一律の料金で届けるため、人件費の伸び率などが郵便料に反映されるためだと考えられる。
なお、19年の小売物価統計調査において封書83円、はがき62円となっているのは、データ上の値が年平均値となっているためである。実際の郵便料は、19年10月の消費税率引き上げにあわせ、封書は82円から84円に、はがきは62円から63円になった。
世相を映すのが記念切手だ。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の寄付金付き切手は、19年3月12日に発売された。82円切手10種類が1シートになっていて、1枚当たり10円が寄付金として上乗せされる。寄付金は大会の準備や運営に役立てられる。中断している聖火リレーの特殊切手(84円)も、20年3月10日に発売されている。
一方、64年大会の寄付金付き記念切手は、オリンピックの経費を補う募金を国民から集める目的で発行されたようで、そのための工夫が見られる。発行されたのは、オリンピック競技種目が描かれた5円切手20種類。1枚につき、切手の額面と同じ5円が寄付金で、「5+5」と表示されている。封書よりも安いはがき用の額面が採用された上に、寄付金の割合が大きいことが指摘できる。さらに、大会の3年前である61年から64年までの長期間にわたり、6次に分けて発行された。1次から4次は3種目ごと、5次から6次は4種目ごとの発行だった。生活が豊かになった現在では、切手集めを趣味で行う人や、記念として保管しておきたい人が購入することが多いため、いろいろな図柄が1シートに入ったものが好まれるが、種目を分散することで、一人でも多く「5+5」円切手を買ってもらいたいという意図が垣間見える。
64年大会の記念切手は、「聖火台」が額面5円、「国立競技場」が10円、「日本武道館」が30円、「国立代々木競技場」が40円、「駒沢体育館」が50円の5種類だ。開会式当日の10月10日には、これらを1シートにまとめたものが発売された。このほか64年に発行された記念切手には、「首都高速道路開通記念」「国際通貨基金・国際復興開発銀行東京総会記念」「東海道新幹線開通記念」といった時代の躍動感があるものが多い。これらの切手の額面は10円であった。
(提供:きんざいOnlineより)