ユーロ共同債券、通称「コロナ債(Corona Bond)」の発行を巡る議論が欧州連合(EU)加盟国間で過熱する中、Brexit(英国のEU離脱)で表面化した「共同体」のほつれ目が、EU崩壊の火種となる可能性が懸念されている。

共同体としての新型コロナ経済措置に対する各国の温度差や意見の対立、「債務ゼロ政策」の歴史にピリオドを打とうとしているドイツの変化など、コロナの影響は広い範囲に及んでいる。

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(画像=ktsimage/PIXTA/ZUU online)

経済的打撃が大きかった加盟国への救援策「コロナ債」

EUで検討されているコロナ債とは、欧州中央銀行(ECB)によるコロナ緊急債券購入計画に対し、全加盟国でユーロ共同債券を発行することで、パンデミックの打撃が大きかったEU諸国の経済再建資金にするという構想だ。「ユーロ債」と呼ばれることもある。

4月にEU加盟27カ国で合意に至った5400億ユーロ(約64兆6145億円)規模の新型コロナ経済対策とは別枠で、コロナの影響で経済が著しく悪化した一部の加盟国に助成金を回し、その債務を全EU加盟国が負うという仕組みだ。

スペイン、イタリア、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、アイルランド、ポルトガル、ギリシャ、スロベニアの9カ国が3月中旬に提案したもので、これまで数回にわたり協議が続けられている。

ECB、購入額6000億ユーロ増のさらなる緩和を発表

ECBが緊急購入を発表した3月当初、7500億ユーロ (約89兆7468億円)相当の債券購入が予定されていた。5月下旬、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が、「EUが70年の歴史の中で経験したことがない、決定的な瞬間に直面している」「この危機は単一の国だけで解決できるものではない」とコメント。

7500億ユーロのうち5000億ユーロ(約59兆8312億円)を最も大きな打撃を受けた加盟国への助成金、残りを低金利融資に充てる計画を発表した。また2021年~27年までの欧州の多年次財政枠組み(MFF)を、2014年~20年の約9600億ユーロから1兆1000億ユーロ(約114兆8759億から131兆6286億円)に増やす意向も明らかにした。実現すればこれまでよりもはるかに大きな規模で、資本市場から借り入れする必要性が生じる。

しかし6月4日に購入額を6000億ユーロ増の1兆3500億ユーロ(約147兆4880億円)に拡大する意向をECBが発表したため、助成金や融資の配分は大幅に変更すると予想される。緊急購入計画は少なくとも2021年6月末まで継続する。

コロナ債の前に立ちはだかる「倹約4大国」

コロナ債の発行が2020年5月末時点でも合意に至っていない理由は、「倹約4大国(frugal four)」との異名をとるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンが、頑として首を縦に振らないためだ。

元々、これらの国は経済的に安定した国であることに加え、保守的な財政政策を好む傾向が強い。イタリア、ギリシャ、ポルトガルなどレバレッジの高い(借り入れによって資金を調達している)国と共同で債務を負うという考えが、欧州ソブリン債務危機を彷彿させるのも無理はない。この債務危機では、2009年のギリシャの政権交代を機に同国の国債が暴落し、その影響はユーロ圏全体に広がった。

またコロナ債が承認された場合、イタリアは820億ユーロ(約9兆8118億円)、スペインは770億ユーロ(約9兆 2135億円)、フランスは390億ユーロ(約4兆6666億円)、ポーランドは370億ユーロ(約4兆4272億円)、ドイツは290億ユーロ(約3兆4700億円)の助成金を獲得するのに対し、例えばオランダは67億5000万ユーロ(約8076億 8203万円)と、経済的な打撃の大きさを考慮した配分とはいえ、金額にかなりの差が生じる。ただしこれらの数字は緩和拡大以前の配分であるため、今後変更となる可能性は極めて高い。

オランダのウォプケ・ヘクストラ財務相は、「オランダの納税者にとって不公平であるだけでなく、結果的にEU全体のリスクをかえって増大させるものであると強く確信している」と、断固として拒否し続けるスタンスだ。

「ソブリン債務危機」再び?

ヘクストラ財務相の発言が示すように、論点は「国の経済的信頼力」にある。イタリアやスペインといった債務不履行のリスクが高い国と共同で債務を負い、これらの国がさらなる窮地に陥った場合、共倒れになりかねない。

影響が一部の地域にとどまったソブリン債務危機と世界中が危機に瀕している今回のケースでは、必要となる対策やリスクの規模が異なるとコロナ債支持派は示唆しているが、逆に世界的な金融危機のリスクが広がっているからこそ、「自国の首を絞めかねない、余分な負担を増やしたくない」というのが反対派の意見である。

しかしこの考えはEUが本来目指す、「貿易や経済、社会の障壁を排除した包括的な共同体」という目標と相反するとの指摘もある。EU債の発行には全加盟国の同意が必要であるため、倹約4大国が拒絶し続ける限り実現には至らない。

「このまま理想主義と現実主義の対立が続けば、いずれ亀裂が決定的なものになる」との懸念が高まっている。