ユーロ圏経済
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欧州経済の回復は鈍く、ドイツ長期金利は底ばい推移

T&Dアセットマネジメント 執行役員 チーフ・ストラテジスト / 温泉 裕一
週刊金融財政事情 2020年6月8日号

 ユーロ圏経済が大きな打撃を受けている。新型コロナウイルス感染拡大防止策として多くの国で導入されたロックダウン(都市封鎖)などの行動制限により、今年3月の小売売上高は前月比11.2%減、鉱工業生産は同11.3%減と、いずれも統計開始以来最大の減少。1~3月期GDPも前期比3.8%減と、前期比で過去最大の落ち込みとなった。

 4月以降はロックダウンの効果で新規感染者数も減少傾向となり、各国でロックダウンの解除が開始された。ただし、感染再拡大のリスクを警戒し、解除は依然として段階的・限定的なものだ。このため各種経済統計はいずれも反発力が弱く、回復ペースが緩慢さを示唆しており、4~6月期のGDPの下落幅は、1~3月期よりもさらに悪化する見込みである。ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)も、当面の間は景気悪化や原油安が重しとなり、先行き一時的にマイナスになる公算が大きい。

 こうしたなか、欧州中央銀行(ECB)は4月理事会で、域内景気のV字回復の可能性が低いことから、7,500億ユーロのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の今後の規模拡充と構成内容の調整を実施することが確認された。投資不適格級の資産を購入対象とするかどうかに注目が集まっている。

 一方で、引き続き、欧州連合(EU)の財政政策における足並みの乱れが懸念材料となっている。EUは欧州債務危機の際に設立された欧州安定メカニズム(ESM)などを活用した個人、企業、国家のための三つの安全網(計5,400億ユーロ)構築と、新型コロナ危機後の回復を支える復興基金設立までは決定した。ただ、5月27日にEUが発表した復興基金詳細案(計7,500億ユーロ)は、市場からの調達資金を各国へ供与する独仏共同提案と、貸付にとどめるべきとするオランダなど反対国の折衷案であり、6月18日のEU首脳会議で結論に至るかは依然、不透明である。

 ユーロ圏債券市場では、当面、ドイツ国債利回りの低位安定を見込んでいる。理由の一つは、経済活動の制限緩和後の景気回復は脆弱で、国債発行増による需給への影響もECBによる買い入れでおおむね制御可能であることだ。もう一つは、ユーロ圏債金利へ一定の影響力を持つ米国債では3月下旬以降、米連邦準備制度理事会(FRB)が実質的にイールドカーブコントロール政策を採用しているかのように、各年限の金利水準が非常に狭いレンジでの推移を見せていることだ。ただし、南欧国債については、6月のEU首脳会議でEU復興基金案を巡る協議難航が予想されることから、引き続き不安定で、各国の意見対立に左右される相場展開が続くとみられる。

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