実質成長率は2020年度▲5.4%、2021年度3.6%

●2020年4-6月期はリーマン・ショックを超えるマイナス成長に

2020年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/19に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2020年度が▲5.4%、2021年度が3.6%と予想する。2020年1-3月期の成長率が上方修正されたことにより、2019年度から2020年度への発射台(ゲタ)が1次速報時点の▲1.6%から▲1.3%へ上方修正されたことを受けて、2020年度の見通しを0.1%上方修正したが、先行きの景気の見方は5月時点と変わってない。

2020年4-6月期の実質GDPは前期比▲6.7%(前期比年率▲24.4%)と、リーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を超えるマイナス成長となるだろう。外出自粛の影響で民間消費が前期比▲7.8%と現行のGDP統計(1994年~)で最大の落ち込みとなるほか、企業収益の急激な悪化を受けて設備投資も同▲6.3%の大幅減少となることが予想される。

また、海外経済の急速な悪化や海外からの入国制限を受けて、財貨・サービスの輸出が前期比▲26.0%の大幅減少となる一方、国内需要の落ち込み、海外工場の操業停止、海外旅行の消失を受けて、財貨・サービス輸入も前期比▲17.2%と大幅に減少するだろう。輸出の減少幅が輸入の減少幅を上回ることにより、外需寄与度は前期比▲1.4%と成長率の押し下げ要因となるが、国内需要(同▲5.4%)に比べれば下押し幅は小さいだろう。

緊急事態宣言の解除によって経済活動は6月以降、持ち直しに向かい、実質GDPは2020年7-9月期が前期比年率8.0%、10-12月期が同8.6%と高成長が続くと予想するが、4-6月期の大幅な落ち込みを取り戻すまでには至らない。需要項目別には、民間消費は外出自粛によって手控えられていたサービス関連を中心として7-9月期に増加に転じるが、工事の進捗ベースで計上される住宅投資、設備投資が増加に転じるのは10-12月期までずれ込むだろう。また、国内の経済活動が再開されたとしても、世界的に出入国制限が緩和、解除されるのはしばらく先となる可能性が高い。このため、輸出入はサービスを中心として回復ペースが緩慢なものとなることが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

●新しい生活様式が経済活動を抑制

今後の経済活動の回復ペースは、急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまりそうだ。

まず、新型コロナウィルス感染症専門家会議が提言した「新しい生活様式」は移動の自粛、多人数での会食の回避など、経済活動に一定の制限を設けるものである。これを実践することは恒常的に外食、旅行などのサービス支出を抑制する要因となる。

また、自粛要請、緊急事態宣言の期間が短ければ、解除後に経済がV字回復することも期待できたが、経済活動の収縮が一定期間継続したことで、今回の景気悪化が不可逆的なものとなる可能性が高くなった。すなわち、倒産、失業者の大幅増加が不可避となったことで経済基盤が損なわれ、経済活動の制限がなくなったとしても需要が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。雇用者所得の減少、企業収益の悪化は長期にわたって個人消費、設備投資の下押し要因となるだろう。

さらに、人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、新型コロナウィルスの第2波が襲来した場合は言うまでもなく、通常のインフルエンザ流行時にも外出自粛などの動きが強まるリスクがある。現時点(6/8)で新型コロナウィルス感染症による死者は1000人未満だが、毎年インフルエンザで数千人、肺炎で十万人の人が亡くなる。仮に、通常のインフルエンザ流行時に今回のように毎日の感染者数、死者数が報道されるようなことがあれば、人々が過剰反応する可能性も否定できない。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

もちろん、コロナ後の新しい生活様式によってこれまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しいだろう。2021年度末(2022年1-3月期)の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて3%近く低い水準にとどまると予想している。

リーマン・ショックの際には、実質GDPが元の水準に戻るまでに5年以上かかったが、今回も経済復元までに同程度の時間を要する可能性がある。当然のことながら、第2波の襲来などによって緊急事態宣言が再び発令されれば、その時期はさらに後ずれすることになる。

●物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2017年1月から3年以上にわたり上昇を続けてきたが、原油価格の急落に伴うエネルギー価格の下落幅拡大、国内旅行、海外旅行の急減に伴う宿泊料、外国パック旅行の下落などから、2020年4月には前年比▲0.2%と3年4ヵ月ぶりのマイナスとなった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行きのコアCPI上昇率は原油価格の動向に大きく左右されるが、予測期間を通じてGDPギャップがマイナス圏で推移し需給面からの下押し圧力が続くこと、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから、基調的な物価は当面弱い状態が続くだろう。

コアCPI上昇率は2019年度の前年比0.6%(0.4%)の後、2020年度が同▲0.5%(▲0.6%)、2021年度が同0.5%と予想する(括弧内は、消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除くベース)。


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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任

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