ドル円,米ドル
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ドル円相場は9月末にかけ1ドル=107~112円と上昇傾向

大和アセットマネジメント チーフ為替ストラテジスト / 亀岡 裕次
週刊金融財政事情 2020年6月15日号

5月までのドル円相場は値動きに乏しかったが、為替を取り巻く環境が変化していないわけではなかった。「ドル」「円」「他の25通貨」の為替の動きを見ると、5月はドルが25通貨に対し下落したが、円も25通貨に対し下落(=クロス円が上昇)した結果、ドルと円の強弱にあまり差がなかった。「ドル安、円安、他通貨高」はリスクオンの相場パターンであり、株価や原油価格の上昇も市場のリスクオン傾向を示していた。欧米でロックダウン(都市封鎖)が解除され、経済活動が段階的に再開されるなか、景気回復期待がリスクオンのドル安と円安を招いたのだ。

 ただ、リスクオンでは通常、ドル安よりも円安が優勢となり、ドル円は上昇しやすい。例えば、米中通商合意への期待が高まった昨年9月から12月には、ドル安よりも円安が優勢となり、ドル円は上昇した。ところが、今年5月はリスクオンでもドル安と円安に大きな差がなく、ドル円の上昇が鈍かった。背景には、世界各国が新型コロナウイルスによる経済の落ち込みから完全に回復するまでには長い期間を要し、中央銀行の金融緩和政策が長期化するとの見方が強いことがある。そのため、リスクオンでも長期金利上昇が鈍く、日本との金利差拡大による円安圧力が抑えられた。昨年9月から12月に米10年国債利回りが1.4%台から1.9%台へと上昇したのに対し、今年5月は0.60~0.75%の狭いレンジにとどまっていた。

 米国に関する不安材料が、米金利低下とドル安に働いた面もあるだろう。新型ウイルスの出所を巡る攻防に加え、香港の国家安全法制定の動きも米中対立が深まる要因となった。米国の対中制裁に中国は対抗措置を取るとしており、市場は米中通商合意が白紙となるリスクも意識するようになった。また、米国の白人警官による黒人暴行死が全米各地での抗議デモを招き、一部都市での夜間外出禁止令につながった。こうしたことがドル安に作用し、リスクオンの円安でクロス円が上昇してもドル円は上昇しにくい一因となった。

 しかし、米中は互いに強硬姿勢ではあっても、制裁合戦による景気悪化を避けようとするだろうし、米中対立の激化によって景気が暗転してリスクオフに転じるとは考えにくい。世界的に経済活動再開が進む中で、新型ウイルスの感染第2波を抑えることができれば、景気回復を期待したリスクオンの動きが続きやすいはずだ。6月に入り、クロス円の上昇に追随するようにドル円にも上昇の動きが出てきた。米景気指標の底打ちとともに米長期金利が上昇し始めたからだ。今後はドル安よりも円安が優勢となりやすいだろうし、9月末にかけてドル円は107~112円程度のレンジ内で上昇傾向になると予想する。

きんざいOnline
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