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日本株急騰も、なお来期以降のPERに5%以上の上昇余地

智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト / 大川 智宏
週刊金融財政事情 2020年6月22日号

 新型コロナウイルスの収束期待の高まりに合わせ、株式市場が猛烈な勢いで反転を見せている。足元は買われ過ぎの反動で調整ムードも漂うが、経済統計は「史上最悪」の見出しが躍る中で、この株価水準は驚異的だ。その原動力は、世界の中央銀行の流動性供給による無秩序なリスク資産の押し上げである可能性が高い。

 とはいえ、業績が悪化し、多くの企業が今期予想すら公表できない環境下で、資金が株式市場に流入し続けるのは違和感を覚える。実際に、日本のTOPIXの今期予想PER(株価収益率)は、コロナ前を大幅に上回る水準にまで回復している。コロナ前のピーク、つまり景気見通しが強く株価が高騰を続けていた時期を超えるほどに、株式に対してプレミアムが乗っている状態だ。具体的には、コロナ前のPERのピークが2020年1月20日の15.5倍に対し、足元が16.5倍なので、6%程度も上回る。確かに、利益の減少に株価の下落が追い付かない恐慌などの局面では、一時的に強くPERが上昇することはある。しかし、5月後半からの相場は減益進行下の「急騰」であり、そのケースとはいえない。

 では、投資家は一体何に期待をして株を買っているのか。重要なのは、「来期以降の業績予想を見ること」である。感染収束の正確なタイミングは誰にも分からない。しかし、仮に感染拡大の第2波到来という最悪のシナリオになっても、ワクチン開発が進むなか、現在から1年、2年と長期にわたって混乱が続くとは考えにくい。今期の予想に比して来期以降の予想の信頼性は高くなる。

 この観点に基づいて、1会計期先(FY1)、2期先(FY2)、3期先(FY3)のコンセンサス予想EPS(1株当たり利益)を使用してTOPIXのPERを計算して比較すると、日本株をまだ買えるかもしれない、というポテンシャルを見いだすことができる(図表)。

 FY1のPERは、前述のようにすでにコロナ前のピークを超えているが、FY2、FY3の予想PERは、それぞれの期のピーク比でどちらも5.5%程度のディスカウントである。もちろん、この数字の前提は「コロナ禍が収束し、経済が元どおりになる」ことだ。その前提が崩れ、他のリスクの出現で経済のV字回復の条件が変われば予想が機能しない可能性はある。

 しかし、前向きに業績予想に対するプレミアムをピークとの比較で見れば、5月後半から異常なスピードで反転上昇を達成した今からでも、まだ5%以上の上昇余地が残存すると考えることもできる。来期の予想が固まり始める中間決算発表や、米大統領選の行われる11月あたりがこの前提の妥当性を占う山場となりそうだ。

きんざいOnline
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