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米原油供給減も在庫解消までは1バレル=30ドル台後半で推移

伊藤忠総研 マクロ経済センター 主任研究員 / 古瀨 礼子
週刊金融財政事情 2020年6月22日号

 新型コロナウイルスの感染拡大による原油需要減に加え、OPEC(石油輸出国機構)加盟国およびOPEC非加盟のロシアなど主要産油国(OPECプラス)の協調減産決裂による供給増懸念は、3月上旬以降の原油価格急落を招いた。原油価格が2週間足らずで1バレル=20ドルも下落したことを受けて、OPECプラスは4月12日、世界需要の約1割に当たる日量970万バレルの大規模な協調減産を5月から実施することで合意した。しかし、それでも需要減少が勝り、原油価格は回復しなかった。

 米国は2017年以降、OPECプラスが協調減産で原油価格を維持したため、原油の増産を続けることができた。増産を牽引してきたのはシェールオイルであるが、その採算ラインが、効率化と技術革新により、既存の坑井(こうせい)では平均で原油価格1バレル=25ドル程度、掘削を必要とする新規坑井では1バレル=45ドル程度になったことも、増産が続いた背景となった。

 ところが、3月中旬以降の1バレル=25ドルを下回る原油価格を受けて、米原油生産は減少に転じている(図表)。6月初めまでの3カ月間で約15%に当たる日量200万バレル減少、足元の生産は日量1,110万バレルとなり、石油坑井掘削装置の稼働数も、約7割減の204基となっている。米エネルギー情報局(EIA)は、原油価格が変動した場合、生産への影響はその約6カ月後に出ると見ていたが、需要回復に伴う原油価格の上昇が見通せないなか、予想より早く減少に転じている。さらに、石油大手を含めたシェール事業者は相次いで20年の設備投資計画を2~3割削減することを発表している。

 こうした状況を受けて、EIAは世界の供給過剰が解消される時期の予想を今年8月から6月へと2カ月前倒しした。今後も避けられない米生産減は、需要が急速に減少した原油相場を支えている。

 一方、世界の需要は、ウイルス感染が一部の国でピークアウトするなか、移動規制の緩和や経済活動の再開を受けて、4月を底に増加に転じている。米国で需要の約45%を占めるガソリン需要は、3月の3週間で日量510万バレルまで48%減少した後、6月初めまでの9週間で790万バレルまで56%増加した。5月に底を打ったとみられる国もあり、主要国・地域の需要は6月までにはそろって増加し始めるとEIAはみている。以上の需給動向を踏まえて先行きを展望すると、WTI原油先物価格は、ウイルス感染がこのまま終息に向かうとすれば、OPECプラスおよび米国の供給減に下支えされる一方、積み上がった原油在庫がほぼ解消されるまでは上値も抑えられ、向こう数カ月は1バレル=30ドル台後半で推移すると思われる。

きんざいOnline
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