中国経済,景気指標
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今年の中国GDP成長率は0.2%が限度か

日本総合研究所 主任研究員 / 関 辰一
週刊金融財政事情 2020年6月29日号

 中国では、経済活動が想定以上のペースで回復している。政府が2月に経済活動の再開を指示すると、全国各地で操業再開率の引き上げ競争が激化し、5月の工業生産は2カ月連続で前年の水準を上回った。需要側では、自動車販売が購入規制緩和や補助金によって急回復し、インフラ投資の前倒しで建機の稼働率も新型コロナウイルス感染症が流行する前までの状況へ回復した。また、コロナ前に受注した分の出荷により、輸出も持ち直しの動きが見られた。2020年1~3月期に前年同期比6.8%減へ大幅低下した実質GDP成長率は、20年4~6月期に同1.0%増とプラスに転じる見込みである(図表)。

 工業生産の急回復によって、政府が重要視する雇用・所得環境も急ピッチで改善している。国家統計局の「19年農民工観測調査報告」によると、昨年末時点で出稼ぎ労働者は1億7,425万人。2月末時点では1億2,251万人という同局の発表を勘案すると、コロナ禍により約5,000万人の出稼ぎ労働者が実質的に失業したと考えられる。2月の失業率の公式統計は6.1%だが、コロナ禍で失業した出稼ぎ労働者およびコロナ前から失業していた農村部人口を計上すると、潜在的な失業率は20%に及ぶという見方は否定できない。一方、国家統計局によると、農村部に戻らざるを得なかった出稼ぎ労働者の7割は再び都市部の職場に復帰したとされ、その時点で潜在的な失業率は急低下したとみられる。可処分所得は1~3月期に前年同期比0.8%増と増勢が大きく鈍化したものの、職場復帰の動きを主因に足元では持ち直しに転じている可能性が高い。

 ただし、以下の3点を踏まえると、中国経済がこのペースを維持してV字回復に至る可能性は低いと判断できる。

 第1は、外需の停滞である。製造業の輸出向け新規受注PMI(購買担当者景気指数)は足元で大幅に低下した。また、原材料や部品を中心に5月の輸入が2カ月連続で2桁のマイナスとなった。世界経済の回復の遅れにより、輸出は再び大幅減少に転じる見通しである。

 第2は、在庫調整圧力である。製造業の生産増に需要が追い付かず、在庫も急増している。国家統計局によると、4月の工業在庫は前年同月比10.6%増と、同3.9%増の工業生産を大きく上回って増加した。今後、在庫削減の動きが顕在化すると見込まれる。

 第3は、活動制限の継続である。足元では集団感染が発生した北京市や黒竜江省ハルビン市などで、外出制限や操業制限などの活動制限を強化した。こうしたなか、ソーシャルディスタンスを守り、出入国や省をまたがった移動への規制を続けざるを得ない。

 以上より、年後半の成長ペースはコロナ前に届かず、20年は0.2%の成長にとどまると予想する。

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