売上・利益計画: 20年度収益計画は下方修正、大幅な減益計画に

2019年度収益(実績・全規模全産業)は、売上高が前年比1.4%減(前回は0.7%減)、経常利益は9.6%減(前回は7.6%減)とともに前回からやや下方修正された。

ただし、経常利益は例年、当初に保守的な計画が出された後に上方修正が続き、実績が反映される(翌年度)6月調査でも3月調査から明確に上方修正される傾向が強い(図表8)。今回は既述の通り下方修正されていることから、前年度終盤に始まった新型コロナ拡大に伴う事業環境の悪化が前年度利益に悪影響を与えたことがうかがわれる。

なお、19年度想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は108.73円で前回(108.67円)から殆ど横ばいとなった。前回調査の段階でほぼ実績レート(年度平均108.74円)見合いになっていたため、今回は微修正に留まった。

また、焦点の20年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比3.9%減(前回は0.1%増)、経常利益が同19.8%減(前回は2.5%減)となった。売上高は減収に転じ、経常利益はマイナス幅が大幅に拡大することとなった。

例年、6月調査での経常利益計画の伸び率は比較対象となる前年度実績が上方修正されることもあって下方修正される傾向が強い。ただし、今回は既述のとおり、前年度実績が下方修正になったにもかかわらず、経常利益の伸び率は例年よりも大幅に下方修正されている(図表8)。実際、20年度の経常利益(金額)を前回と今回で比較した修正率は19.5%減と大幅な減少となっている。このことは、新型コロナ拡大に伴う景気の急激な悪化を受けて、企業の間で利益計画の引き下げが相次いだことを反映している。

なお、20年度の想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は107.87円(上期107.88円、下期107.86円)と前回(107.98 円)から若干円高方向に修正されたが、足下の実勢と大差ない水準での推移が見込まれている。

上記のとおり、2020年度計画は減収かつ大幅な減益が見込まれている。ただし、今後の国内外における新型コロナウィルスの感染拡大動向や経済への影響は極めて不透明であるため、企業としても収益計画が立てづらい状況にある。従って、例年であれば、9月調査以降、経常利益計画は上方修正に向かう傾向が強いが、今年度については不確実性が高い。国内外における新型コロナの感染動向次第では今後も下方修正が入るリスクがある。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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設備投資・雇用:人手不足感は悪い形で緩和、設備投資計画は異例の下方修正

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で前回から9ポイント上昇の8となった。同D.I.がプラス圏(「過剰」との回答が優勢)になったのは16年6月調査以来のこととなる。

また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は前回から22ポイント上昇の▲6となった。不足度合いを示すマイナス幅は2013年9月調査以来の小幅となり、人手不足感が大きく緩和している。従来課題となってきた人手不足感が緩和しているのは、新型コロナ拡大に伴う製品・サービス需要の激減や休業によって労働需要が減少した結果であり、いわば悪い形での人手不足感の緩和だ。従来は、国としても企業としても、生産性の向上や労働参加の拡大等による望ましい形での人手不足感緩和を目指していた。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)も前回から17.2ポイント上昇の▲0.8ポイントとなった。D.I.の水準はほぼゼロ(均衡レベル)に上昇している。

先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が2ポイントの低下、雇用判断D.I.が3ポイントの低下となった。経済活動の再開に伴う需要回復を見込んだ動きとみられる。この結果、「短観加重平均D.I.」も▲3.5ポイントとやや低下する見込みだ(図表9,10)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

2019年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比0.6%減(前回調査時点では同2.7%増)へと下方修正された(図表11)。例年6月調査(実績)では、中小企業で計画が具体化したことによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体として小幅に下方修正されることが多く、今回も同様のパターンになった。前年度の段階では、設備投資に対する新型コロナ拡大への影響は限定的であったとみられる。

一方、焦点となる2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比0.8%減(前回調査時点では同0.4%減)とわずかに下方修正された。例年、6月調査では計画の具体化に伴って上方修正される傾向が極めて強い。しかし、今回はこの時期としては「異例の下方修正」になった。省力化投資や都市の再開発関連投資、5G関連投資などが引き続き設備投資計画の下支えになっていると推測されるが、新型コロナの感染拡大に伴う収益・キャッシュフローの大幅な減少や、事業環境の強い先行き不透明感を受けて、企業の一部で設備投資の撤回や先送りの動きが台頭しているとみられる。

また、今後についても、新型コロナの感染やそれに伴う景気動向次第では、さらに下方修正される可能性がある。

なお、19年度設備投資計画(全規模全産業で前年比0.6%減)は市場予想(QUICK 集計1.0%増、当社予想は0.7%増)をやや下回る結果であった。一方、20年度設備投資計画(全規模全産業で前年比0.8%減)は市場予想(QUICK 集計3.0%減、当社予想も3.0%減)をやや上回る結果であった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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企業金融:企業の資金繰りは明確に悪化

企業の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」)は大企業が10、中小企業が▲1とそれぞれ前回比で8ポイント、9ポイント低下した。D.I.の水準は大企業が2010年3月調査、中小企業が2013年9月調査以来の低水準にあたる。

D.I.の水準はリーマンショック後の最悪期(2009年3月調査:大企業▲4、中小企業▲23)と比べて高いものの、前回調査からの低下幅(大企業で8ポイント、中小企業で9ポイント)はそれぞれリーマンショック後の最大値(大企業で11ポイント、中小企業で8ポイント)並みであり、前回調査以降、新型コロナ拡大に伴う売上の急減や休業等で企業の資金繰りが大幅に悪化したことが示されている。

政府・日銀は新型コロナ拡大を受けて、「持続化給付金」や「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」など各種資金繰り支援策を打ち出し、企業の資金繰りに一定程度寄与したとみられるが、資金繰りの悪化を食い止めるまでには至っていない。

なお、企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)は、大企業が前回から6ポイント低下の16、中小企業が1ポイント上昇の19となった(図表14,15)。D.I.の水準自体は依然高く、銀行貸出の伸び率も4月以降に急拡大しているものの、大企業では「銀行の貸出スタンスが厳格化した」との受け止めがやや強まっている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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