生前整理は、人生の終わりに向けて自身の身の回りの持ち物や財産を整理することをいいます。

生前に自分自身の持ち物を整理しておけば、亡くなったときの遺族の負担が軽くなり、大切な財産や思い出の品を確実に引き継いでもらえるでしょう。

しかし、必要性はわかっていても、やることが多かったり急ぐ必要がなかったりといった理由で、なかなか始められない人もいるかもしれません。

この記事では、生前整理のやり方・始め方をご紹介します。生前整理をしたいと思っていてもやり方がわからずに始められなかった人は、ぜひこの記事を参考にしてください。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.生前整理とは

生前整理とは、自身の身の回りの持ち物や財産などを整理する活動のことで、人生の終わりを意識した「終活」の一部とも位置づけられています。

ほとんどの人は日常生活で人生の終わりを意識することはないため、生前整理や終活といってもピンとこないかもしれません。若い人であれば、まだまだ早いと思う人も多いでしょう。

しかし、毎日どこかで誰かが突然の事故で命を落としていることも事実です。数は少ないですが、若くして病気で亡くなってしまう場合もあります。

そのため、生前整理は元気なうちに、気がついたときに始めることをおすすめします。

2.生前整理をしておくことのメリット

生前整理をしておくと、次のようなメリットがあります。

  • 遺族の負担を軽くできる
  • 大切な財産を確実に引き継げる
  • 自分自身がすっきりする

家族を見送ったあと遺族が最も困ることは、故人の身の回りのものや財産の整理です。生前に自分自身が持っているものを整理しておけば、亡くなったときの遺族の負担は軽くなるでしょう。

遺品があまりにも多いと、大切な財産が家族に見つけてもらえず、他のものとまとめて捨てられてしまう恐れがあります。生前整理で大切な財産や思い出の品をはっきり分けておくと、家族に確実に引き継ぐことができます。

また、自分自身の気持ちが整理できてすっきりすることも生前整理のメリットです。万が一のときの不安が軽くなると、その後の生活も前向きになります。

3.今すぐできる生前整理のやり方

生前整理のメリットがわかったところで、早速生前整理に取りかかってみましょう。

生前整理は主に、「身の回りのものの整理」と「お金や財産にかかわるものの整理」に分類できます。どちらも、一つひとつ「いる」か「いらない」かを判断して、いらないものを手放すという点は共通しています。

3-1.身の回りのものの整理

身の回りのものの生前整理は、普段の片づけや大掃除とあまり変わらないかもしれません。しかし、生前整理には次のような特徴もあります。

  • 家族に受け継いでもらいたい大切なものを明確にする
  • デジタル機器の情報を整理する

デジタル機器の情報とは、パソコンやスマートフォン(スマホ)などに保存しているメールや写真などのデータのことです。銀行・証券のネット取引にかかわる情報も含まれます。

デジタル機器の情報の扱いは本人にしかわからないため、万が一のときに家族にどのようにしてほしいか、何らかの意思表示が必要です。

ここでは、身の回りのものの整理方法を、「形があるもの」と「デジタル機器の情報」に分けてお伝えします。

税理士が教える相続税の知識
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3-1-1.形があるものの整理
まずは、身の回りにある形があるものを整理しましょう。

自身がどれだけの物を持っているかを確認したうえで、身の回りのものを「必要なもの」と「必要でないもの」に分けていきます。

しかし、整理を始めてみても、どれが必要でどれが必要でないかの判断は難しく、結局何も捨てられないということも起こりがちです。場合によっては、「一年以上使っていないものは特に思い出があるものを除いて捨てる」といった、少し荒っぽい方法も必要になるかもしれません。

次にご紹介するように、いまでは片づけや断捨離(※)に関する書籍が多数出版されているので、それらも参考にして進めていくとよいでしょう(※:断捨離とは、不要なものを断ち、捨て、物への執着から離れる取り組みのことをいいます)。

  • 人生がときめく片づけの魔法 改訂版
  • 人生を変える断捨離

どうしても捨てることに抵抗がある人は、無理に捨てることにこだわらなくても構いません。ひとまず、身の回りのものを「必要なもの」と「必要でないもの」に分けるだけでも効果があります。

3-1-2.デジタル機器の情報の整理
形としてあるもの以外にも、パソコンやスマホなどデジタル機器の情報も整理しておきましょう。

パソコンやスマホはパスワードで保護されていることが多く、家族であっても中を見ることが難しい非常に機密性の高いものです。

万が一のときに遺族が機器のパスワードを解除できなければ、大切な情報や思い出の写真が永遠に見られなくなる可能性があります。一方、遺族が業者に依頼してパスワードが解除されると、見られたくない情報を見られてしまうかもしれません。

デジタル機器の情報の整理では、「機器から取り出してほしいデータ」と「家族に見られたくないデータ」を区分します。

機器から取り出してほしいデータについては、万が一のときにどうやって取り出せばよいかメモを残しておきましょう。市販のエンディングノートを利用してもよいでしょう。

見られたくないデータについては、個別にパスワードをかけるか、不要であれば消去するなどしましょう。

Twitter(ツイッター)、Facebook(フェイスブック)といったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や、個人ブログを利用している人は、万が一のときの退会方法を調べておきましょう。死亡後もそのままにしていると、悪意のある他人に乗っ取られる危険性があります。

ほかには、次のようなことをしておくとよいでしょう。

  • 連絡先のデータは紙に印刷しておく
  • 思い出の写真はプリントしておく
  • 不要なデータは消去しておく

3-1-3.不要品は売却することもできる
身の回りのものを整理した結果、必要でないものが大量に出るかもしれません。これらのものは、捨てるだけでなく売却するという選択肢もあります。

単行本やCDなどは、古書店やリサイクルショップで買い取ってもらうことができます。店頭に持ち込むほか、宅配でも買取サービスを行っている場合があります。なお、雑誌の買取は行っていないこともあるので、事前にホームページなどで確認しましょう。

貴金属やブランド品など価値のあるもの、美術品など専門性の高いものは専門店で鑑定してもらうことをおすすめします。価値があることを知らないで捨ててしまうのはもったいないことです。

また、フリマアプリやネットオークションなど、個人どうしで売買できるシステムを使って自分で売却してみるのもよいでしょう。思いがけない高値がつくこともありますが、取引で起こったトラブルの責任は自分で負わなければなりません。

売却しないで捨てることになった場合でも、捨て方には注意が必要です。自治体の定めるルールに従って分別しましょう。

3-2.お金や財産にかかわるものの整理

お金や財産にかかわるものの整理では、いるものといらないものに分けるだけでなく、万が一のときに必要なものはすぐ出せるようにしておくことも重要です。

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3-2-1.必要なものはすぐ出せるようにする
万が一のときの葬儀費用や家族の当面の生活費として、生命保険に入っている人も多いでしょう。保険金をもらうときは、保険証券があると手続きがスムーズです。

また、自宅など不動産を相続する場合は、不動産の権利証(登記識別情報)が必要になります。

これらの大切な書類や預金通帳など、万が一のときに必要になるものは、どこか一か所にまとめておくことをおすすめします。ただし、印鑑も一緒に保管すると盗難のリスクがあるため、別々に保管したうえで家族に保管場所を伝えておくとよいでしょう。

3-2-2.いらない口座・カードは解約する
使いみちに応じて銀行口座を複数持っている人は多いでしょう。就職や転勤など人生の節目で口座を新たに作るケースもあります。証券口座も含めて金融機関の口座がたくさんあると、遺族は預けているお金を引き出すのに手間がかかってしまいます。

クレジットカードについても同じことがいえます。店頭で勧誘されて、気がつけばカードの枚数が増えていたということも少なくないでしょう。

お金に関する生前整理では、手持ちの口座やクレジットカードを確認して、利用していないものや今後必要ないものがあれば解約するようにしましょう。

金融機関の口座が必要なものだけに絞られれば、金融機関名や口座番号などを記載した一覧表(財産目録)を作成します。

ネット銀行やネット証券には通帳がないため、存在がわかりづらくなります。大切な財産が宙に浮く危険性もあるので、もれなく明記するようにしましょう。

なお、財産目録をパソコンで入力して作った場合は、必ず印刷しておきましょう。パソコンがパスワードで保護されていれば、せっかくの情報も家族に見てもらえません。

4.生前整理で注意しておきたいこと

生前整理をするときはいくつか注意しておきたいことがあります。ここでは、不要品の引き取りを業者に依頼するときの注意点と、暗証番号・パスワードの取り扱いについてお伝えします。

4-1.不要品引取業者の選び方

前の章では不要品を売却できることをお伝えしましたが、不要品の数が多い場合や時間をかけたくない場合は、業者に一括で引き取ってもらうこともできます。

ただし、不要品引取業者も千差万別で、高価なものがあっても安値で買いたたいたり、不当に高額な報酬を要求したりといった悪質なケースもあるようです。

できるだけ複数の業者から見積もりを取るなどして、比較検討することをおすすめします。

4-2.暗証番号・パスワードの管理には注意

暗証番号やパスワードは生前に他人に知られては困るため、慎重に取り扱う必要があります。

暗証番号・パスワードを安全に残しておくためには、メモを封筒に入れて封をするなどしておきましょう。市販のエンディングノートには、コインなどで削るスクラッチシールで情報を隠せるものもあります。

  • 一番わかりやすい エンディングノート

4-2-1.パソコンのログインパスワード・スマホのロック解除方法
パソコンやスマートフォン(スマホ)に保存しているデータを家族に見つけてもらいたい場合は、パスワードやロック解除方法を書き残しておきましょう。パスワードやロックを解除する専門業者もありますが、必ずしも解除できるとは限りません。

4-2-2.銀行・証券の暗証番号・パスワード
キャッシュカードの暗証番号や銀行・証券のネット取引のパスワードは、生前に自分が取引するときには必要ですが、死亡後の解約には必要ありません。安全のためには、むしろ書き残しておかない方がよいかもしれません。

ただし、入院したときなど家族に預金を引き出してもらいたい場合や、自分が忘れた場合に備えるためであれば書き残しておいてもよいでしょう。

5.遺言作成・相続税対策へステップアップ

生前整理ができれば、終活の次のステップである遺言作成や相続税対策も考えてみましょう。

遺言書は、遺産を誰にどれだけ渡すかといった事項を定める法的な書面です。遺言書があれば、相続人は遺言書で指定されたとおりに遺産を分け合うことになり、遺産相続をめぐるトラブルを防ぐ効果があります。

また、財産が一定額(3,000万円+600万円×相続人の数)以上あれば、相続人は相続税を申告・納税しなければなりません。相続税は高額になることもありますが、不動産投資や生命保険への加入といった生前の対策で税額を抑えることができます。

遺言書の作成や相続税対策は、書籍などを参考にして自分ですることもできますが、専門家に依頼することをおすすめします。遺言書の作成は弁護士・司法書士または行政書士に、相続税対策は相続税専門の税理士に相談しましょう。

6.まとめ

生前整理は、万が一のときの家族の負担を軽くするだけでなく、自分自身の気持ちを整理する効果もあります。

いまでは、パソコンやスマートフォンなどデジタル機器に大切な情報が入っていることも多いでしょう。身の回りの形があるものだけでなく、デジタル機器にある情報も整理しておきましょう。

きっかけがなければなかなか始められないものですが、生前整理は元気なうちに、気がついたときに始めることをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識