東日本大震災とは異なるコロナ禍での「自粛」
第一生命経済研究所 経済調査部 副主任エコノミスト / 星野 卓也
週刊金融財政事情 2020年7月6日号
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛によって、国内の個人消費には逆風が吹いた。総務省の「家計調査」によれば、4月の実質消費支出(2人以上世帯)は前年同月比▲11.1%と大幅に減少した。
日本では、過去にも「自粛」が消費を大きく下押しした時期がある。2011年3月、東日本大震災の時だ。未曽有の大災害の中で、震災の被害を直接受けていない地域を含め、国内全体に自粛ムードが広がり、イベントの開催中止や旅行のキャンセルが相次いだ。
自粛が広がっていた20年4月と11年3月について、品目別の消費動向を比較したのが図表だ。いずれにおいても、国内パック旅行や遊園地、外食や婚礼関係費などで大幅な減少が見られ、自粛の影響を色濃く受けている。反対に、両者で消費が増えた品目として、トイレットペーパー、マスクなどの保健用消耗品、ミネラルウォーターが挙げられる。生活防衛・防災意識の高まりは、二つの自粛期の共通点である。
他方、コロナと東日本大震災の違いも見えてくる。震災時には減少したがコロナ禍では増加した品目を図表に挙げた。まず、20年4月には、自転車の購入費やレンタカー・カーシェアに対する支出が増えた。人混みとなる公共交通機関を避ける動きだ。また、家電製品やゲームソフトのほか、インターネットの接続料も伸びた。自宅にいる時間を楽しもうとする人や、テレワークを行うために設備を整えた人が増えたことが影響している。酒の売れ行きは、震災期には減少したが、今回は軒並み増加した。外食できない分、自宅での飲酒が増加したためであろう。
震災時の自粛ムードの背景には、「楽しむことに対する罪悪感や後ろめたさ」があった。しかし、「経済活動が滞れば、かえって被災地の復興を妨げることになる」との声が広がり、自粛ムードが解消していった経緯がある。今回、コロナ禍で生活に制約がかかる中でも、「自宅で楽しもう」「新しいライフスタイルに適応していこう」とする前向きな消費が数多く見られている。ここには、自粛一辺倒となった東日本大震災の経験が少なからず生きている。当面はコロナとの共生が続くと予想される中で、今後も新しいタイプの消費が生まれてくるだろう。
(提供:きんざいOnlineより)