海外移住や財産を国外に持ち出すことで、贈与税の課税から逃れる節税方法が注目されています。

しかし、国税庁は租税回避を防ぐために法律を数年単位で改正しており、財産を海外に持ち出すだけでは贈与税は非課税にはなりません。

また、海外資産の税務調査は国税組織の調査重点項目の一つに定められているので、海外送金で預金の贈与をした場合、税務署の調査対象になりやすいです。

税理士が教える相続税の知識
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1.贈与税は年齢・国籍に関係なく財産をもらった人が申告する税金

贈与税は、財産をもらった人(受贈者)が申告する税金です。

国内財産の贈与を受けた場合には、受贈者の年齢や国籍に関わらず贈与税の対象となります。

また、海外の財産の贈与を受けた場合においても、受贈者が日本に住んでいれば贈与税の対象となりますので、海外に財産を持ち出しても節税効果はありません。

2.居住している外国人が海外送金した場合でも日本の贈与税の対象

贈与税の納税義務者は、贈与者と受贈者の住んでいる国や国籍で取り扱いが異なります。

また、納税義務者の種類は、全世界の贈与財産が贈与税の対象になる人(無制限納税義務者)と、日本の贈与財産のみが贈与税の対象になる人(制限納税義務者)に分かれます。

税理士が教える相続税の知識
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2-1.全世界の贈与財産が申告対象となる居住無制限納税義務者

居住無制限納税義務者とは、全世界の贈与財産が贈与税の対象となる人です。

<居住無制限納税義務者の対象となる受贈者>

  • 日本に定住している人
  • 一時居住者である人のうち、贈与者が一時居住者または非居住者以外の人
    ※「一時居住者」とは、贈与時点前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の人

受贈者が日本に定住している場合には、国籍問わず居住無制限納税義務者に該当します。

居住無制限納税義務者は、国内外の贈与財産はすべて贈与税の対象となりますので、国外に財産を持ち出しての贈与税回避の方法はありません。

2-2.国内外の贈与財産の申告が必要となる非居住無制限納税義務者

日本に住んでいない受贈者でも、非居住無制限納税義務者に該当した場合には、国内外すべての贈与財産が贈与税の対象です。

非居住無制限納税義務者の判定は、日本国籍の有無によって異なります。

<非居住無制限納税義務者の対象となる受贈者>

  • 日本国籍を有する人で、①または②に該当する場合
    ①贈与時点の開始前10年以内に日本国内に住所があった人
    ②贈与時点の開始前10年以内に日本国内に住所がない人で、贈与者が一時居住者または非居住者以外の人
  • 日本国籍を有しない人のうち、贈与者が一時居住者又は非居住外国人以外の場合

2-3.海外の贈与財産は贈与税の対象外になる制限納税義務者

制限納税義務者とは、贈与財産のうち日本の財産のみが課税対象となる人をいいます。

そのため、海外に財産を持ち出して贈与税の租税回避をする場合には、制限納税義務者の要件を満たす必要があります。

<制限納税義務者の対象となる受贈者>

  • 居住制限納税義務者
    贈与時点で受贈者の住所が日本にあり、「居住無制限納税義務者」に該当しない人
  • 非居住制限納税義務者
    贈与時点で受贈者の住所が日本になく、「非居住無制限納税義務者」に該当しない人

3.贈与税の課税時期と贈与財産の種類について

制限納税義務者に該当する場合には、日本に所在する財産のみが贈与税の対象です。

しかし、贈与財産の所在地の判定は財産の種類ごとに異なり、事務所が日本にある場合には国内財産として贈与税の対象となる可能性もあります。

3-1.贈与財産の所在地の判定は種類ごとに異なる

贈与財産の所在の判定は、贈与税の課税時点においての所在地で判断します。

贈与税の課税時期は財産を受け取った時点ですので、贈与時点においての財産の所在地での判定を行います。

<贈与財産の種類ごとの所在地の判定基準>

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3-2.生活費として海外送金をする場合には贈与税は非課税

財産を無償で渡す場合には贈与に該当しますが、扶養している子や孫への生活費や教育費の贈与については、贈与税は非課税です。

生活費とは、一般的な日常生活をするために必要な費用をいい、病気の治療費や養育費などが該当します。

教育費とは、扶養家族の教育で一般的に必要と認められる学費や教材費、それらに準ずる費用が該当します。

なお、贈与税の非課税の判定は、名目ではなく実質で判断します。

そのため、教育費や養育費の名目で預金を海外送金していても、実際に生活費や養育費として使用されていなければ贈与税は課税されます。

4.税務署が海外送金の贈与を把握する手法

国税組織が海外資産の情報を集める手段は4種類あります。

税理士が教える相続税の知識
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4-1.海外資産の保有状況を申告する義務がある国外財産調書

日本の居住者で国外資産の合計が5,000万円を超える人は、毎年3月15日までに税務署に対して国外財産調書を提出しなければなりません。

国外財産調書には、国外財産の種類や価額、その他必要な事項を記載する必要があり、期限内に提出しなかった場合の罰則規定も存在します。

また、国外財産調書を提出しないで税務調査の指摘を受けた場合には、過少申告加算税の税率が5%上乗せされ、税負担が重くなります。

一方で、国外財産調書を提出した人が税務調査により指摘を受けた場合、国外財産調書の財産に関する指摘部分については、過少申告加算税の税率が5%減税されます。

4-2.100万円を超える海外送金の情報は金融機関が情報提供をする

海外へ100万円を超える預金送金をする場合、金融機関は国外送金等調書を提出しなければなりません。

国外送金等調書には、送受金者の住所・氏名、受取金融機関名などを記載するため、税務署は調書の情報によって海外に保有する銀行口座などを把握できます。

4-3.100万円以下の海外送金は銀行調査により情報を掴む

1回の海外への送受金の金額が100万円以下であれば、金融機関から国外送金等調書が提出されることはありません。

しかし、税務署は税務調査により銀行を調査することができますので、送金した銀行口座を調べれば海外送金の事績を確認できます。

また、銀行調査では通帳だけでなく銀行が保有している契約書などの書類も確認しますので、100万円以下の国外送金であっても税務署にバレない保証はありません。

4-4.日本はアメリカなど租税条約を結んでいる国と情報交換をしている

自国にある財産を海外に持ち出して租税回避する方法は、節税対策として世界的に利用されています。

そのため、租税条約を結んでいる国との間で積極的に情報交換や情報提供が行われています。

日本はアメリカをはじめ、多くの国と租税条約を結んでおり、他国との情報交換の内容は3種類あります。

  • 要請に基づく情報交換
  • 自発的情報交換
  • 自動的情報交換
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5.税務署は贈与税と相続税を一緒に税務調査する

贈与税の申告がない場合、申告期限を過ぎてから税務署は調査をします。

ただ、贈与税の場合には、相続税申告書の提出のタイミングで一緒に調査をすることがあります。

相続税の調査では亡くなった人(贈与者)の生前のお金の使い道や出金状況も確認することとなり、その際に贈与事実を把握することがあるため贈与税の調査も同時に行っています。

また、課税判定については、贈与や相続が発生した時点の法律で判断します。

国外財産への課税制度は毎年のように変更されていますので、海外財産について相談する場合には贈与税・相続税を専門にしている税理士にお尋ねください。(提供:税理士が教える相続税の知識