日本が輸出すべきは「モノ」ではなく、それを作る工場
とはいえ、日本メーカーの多くは、東南アジアなどの労務費が安い国に工場を持っています。一般的には、そのほうが価格競争力の高い製品を作ることができるからです。ベンツのようなブランド戦略に強いメーカーならいいのですが、日本メーカーの多くはコモディティ化する製品を製造しています。
海外に工場を移すことは、技術の流出にもつながります。さらに、中国や韓国がそうであったように、工場を移転した先の国でも労務費は高くなっていきます。そうなると、技術でも、価格でも、日本のメーカーは競争力を失うことになります。
だからこそ、レクサスのようにブランド力の強い製品を作ることも重要で、それに挑戦している企業は素晴らしいと思います。しかし、それができる企業は限られているでしょう。
そこで私は、製造したモノではなく、「モノを製造する工場」を輸出するべきだと考えています。AIやIoTなど、最先端のテクノロジーを活用して自動化・最適化した工場を作るノウハウを日本で作り上げ、海外へ輸出するのです。
今、身の周りを見ていただくと、目に入るもので、工場で作られていないものは何一つとしてないと思います。あらゆるモノには、それを製造する工場があるわけです。ですから、工場自動化産業の裾野は非常に広い。自動車以上の輸出産業になると見ています。
繰り返すと、私は、日本の製造業復活のため、モノを海外で作るのを止めて、日本で作るべきだと言っているのではありません。モノは海外で作ってもいいのですが、モノを作るための工場を作る技術は、きちんと日本が押さえておくべきだということです。
言ってみれば、AKB48や乃木坂46のようなアイドルにはならなくてもいいけれども、それをプロデュースする秋元康さんになろう、ということです。
非言語のノウハウを言語化し、モジュール化する
これは、今、まさに起こっている第4次産業革命を、日本は世界に先駆けて制さなければならないということです。
20世紀後半にコンピュータの発達によって起こった第3次産業革命は、情報やコミュニケーションの世界に大きな変化をもたらしました。私が社会人になった頃は電子メールがなく、社内でも別の事業所との文章や書類のやり取りには封筒を使っていました。社内便を配送業者が運んで、届くのに1~2日かかっていたのです。今では信じられないでしょう。
けれども、第3次産業革命は、工場にはあまり影響を与えませんでした。1960年代を舞台にした映画『フォードvsフェラーリ』(2019)にフォードの工場が少し出てきていたのですが、コンベアのラインに沿って人が並んで作業をしている様子は、今とほとんど同じでした。もちろん、今のほうが洗練されてはいますが。
一方、第4次産業革命は、工場の姿を大きく変えてきます。コンピュータの高性能化によって、ロボティクスによる製造現場の自動化や、AI・IoTを使ったリアルタイムデータの収集・分析によって工場全体の最適化を常に繰り返すことが可能になったのです。工場の自律化とも言えます。
当社などが幹事企業を務めるコンソーシアム「Team Cross FA」が手がけている「スマートファクトリー」は、まさにこのような、自律化された工場です。ただ、それに留まらず、それぞれに機能を持ったモジュールの組み合わせで構成されていることが特徴です。
従来の工場のラインは、それぞれの工場にカスタムして作られていました。そのため、A社とB社がそれぞれ独自にラインを作っているのに、結果的に同じようなものになっているケースが数多くあります。ラインは各社のノウハウが詰まっているとして公開されず、互いに気がついていないのですが……。
また、これまで、生産現場のノウハウはあまり言語化されてきませんでした。BOP(部品表)すら完璧なメーカーは少なく、部品の組み付け方がきちんとすべてドキュメント化されているメーカーはないと言ってもいいでしょう。自動車だと数万点にもおよぶ部品を、非言語のコミュニケーションを取りながら組み付けているのです。これは、阿吽の呼吸ができる日本人が得意とするところだと思います。
工場をスマートファクトリー化する際には、それまで非言語だったノウハウを言語化します。そして、「ネジを締める」「モノを運ぶ」などの要素に分けて、それぞれの要素の機能を持つモジュールを組み合わせることで、ラインを作るのです。
自動車メーカーは、同じエンジンやミッション、車台などを使いながら、その組み合わせで様々な車種を作っていますが、同様に、モジュールを組み合わせて様々なラインを作るわけです。システムキッチンやユニットバスを使って注文住宅を建てるイメージと言ったほうがわかりやすいでしょうか。今のところ、200機能のモジュールがあればラインの5割、400機能のモジュールがあれば8~9割を作れると見ています。
モジュール化することで、ラインを作るのにかかるコストを下げることができ、製品の価格も下げられます。つまり、価格競争力の高い製品を作れるわけです。
それぞれのモジュールを製造するメーカーにとっても、効率的に納入先を増やせるというメリットがあります。