シミュレーションで環境変化への対応力も高まる

実際にラインを作る前に、コンピュータ上にデジタルファクトリーを作って、シミュレーションをすることも容易になりました。さらに、モジュール化することで、シミュレーション構築も迅速に行なうことができます。モジュールの3Dスキャンデータをコンピュータ上に配置してラインを作り、稼働させてみるのです。すると、モジュールを制御するためのソフトウェアも最適化できます。

従来は実際にラインを作ってから「カイゼン」を繰り返していましたが、シミュレーションならコストを大幅に抑えられます。シミュレーションでいくら事故が起こっても、損害も出ません。

シミュレーションだと、例えば今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような事態が起こって、ある国から部品が納入されないような状況が起こったときにどうなるかも、すぐに計算できます。Googleマップやカーナビが、当初予定していたルートから外れると、新たな最適なルートを再計算してくれるようなものです。

実際にラインを作ったあとも、デジタルファクトリーがリアルタイムデータをどんどん取り込んで、シミュレーションがより正確になっていきます。実際の工場とデジタルファクトリーが「デジタルツイン」になるわけです。

例えば、インドネシアに工場を作るとき、日本よりも労務費が安いので、自動化は日本の工場の7割でいいと考えれば、そのシミュレーションもすぐにできます。このように工場のコントロールを日本でしていれば、技術の海外流出を防ぐことにもなります。

経済産業省の中野剛志参事官もおっしゃっているように、今、製造業に求められているのは「ダイナミックケイパビリティ」、つまり、環境の変化への対応力です。新型コロナウイルスのような不測の事態でサプライチェーンが分断されることもあるわけです。そんなとき、複数の工場からモジュールを集めて、供給されない部品を製造するためのラインを作ることができるのも、モジュール化のメリットです。

少量多品種の生産にも対応しやすくなる

モジュール化とシミュレーションができると、少量多品種の生産もしやすくなります。

フォード生産方式のような1本のラインに沿って作業をするフローラインは、大量生産には向いていますが、少量多品種の生産には向いていません。例えば、大きな製品と小さな製品が同じラインに混在して流れると、それぞれ必要な作業が違うので、渋滞してしまうわけです。

そこで、製品ごとに必要な作業を行なうモジュールだけに、最適なルートを計算しながら、AGV(無人搬送車)で運ぶようにします。これをさらに進化させ、生産計画や生産設備の情報などと連携し、デジタルツインによる自立制御を実現したラインを「ロボット型デジタルジョブショップ」と呼んでいます。これだと、生産量を増やすときも、ライン全体を増設せず、ボトルネックとなるモジュールの数だけを増やすことで可能です。

FAプロダクツ,天野眞也
ロボット型デジタルジョブショップのイメージ(画像=THE21オンライン)

さらに、シミュレーションを行なうことで、組み立てやすい製品設計をして、コストを下げることもできるようになります。例えば、作業A→作業B→作業Cという順番でしなければならない設計になっていると、状況に応じてどの順番にでも変えられる場合に比べて、ラインに渋滞が起こりやすくなります。それがどのくらい非効率なのかをシミュレーションによって具体的な金額で示すと、設計者が工場のことをもっと考えるようになります。「ネジ締めの工程を減らすことで、これだけコストが減らせる」とわかれば、「ネジ締めは最小限にして、圧着や溶着にしよう」と考える。こうした「設計製造連携」が実現できます。

スマートファクトリーを世界へ広げる方法とは?

スマートファクトリーについてお話ししてきましたが、実際にどういうものなのかを体験していただくために、栃木県小山市に「スマラボ」という、ソリューション別のデモを体感していただけるショールームを設けています。今年8~9月には東京にも開設する予定です。

スマラボの運営は、Team Cross FAの幹事企業のうち、〔株〕オフィス エフエイ・コム、ロボコム〔株〕と〔株〕FAプロダクツが行なっています。

また、同じくTeam Cross FAの幹事会社であるロボコム・アンド・エフエイコム〔株〕が、現在、福島県南相馬市に「次世代デジタルファクトリー」を建設中です。ここではモジュールを実際に量産し、その様子を見ていただけるようにします。

モジュールの生産は、昨年、世界最大級の工業団地であるタイのアマタナコーン工業団地でも、Team Cross FAの幹事会社の一つ、日本サポートシステム〔株〕が始めています。

南相馬の次世代デジタルファクトリーには研修所も作り、ベトナムやミャンマー、タイで採用した150人の人材を集めます。スマートファクトリーを輸出するために必要な、輸出先の国の人材育成が目的です。

ロボコムが3年前に初めてミャンマーでエンジニアを募集したときには約300人が集まり、12人を採用しました。それが、SNSで拡散したり、1期生の大学のゼミの後輩に伝わったりして、昨年は約1300人も集まりました。国立大学を卒業した、とても優秀な人材ばかりを採用できています。

ベトナムでも3年前から採用を初め、最初の年は20~30人の応募から6人を採用。昨年は230人の応募がありました。しかも、「この中で一番頭の良い人は?」と聞くと、全員、手を挙げるんです。「頭が良いうえに、美男美女だと思う人は?」と聞いても7割くらいが手を挙げる(笑)。日本とは全然違います。

日本からたこ焼き器を持って行って、たこ焼きを食べてもらったのですが、1個目を食べたら2個目、3個目を食べると思いきや、焼き始めるんです。「うまく焼けるようになって、皆に食べさせてあげたい」と言って。驚きました。

もちろん、彼らには、サムスンなどの大企業からも声がかかっています。しかし、そこで働くことは母国の将来につながるとは限りません。たこ焼きを食べるのと同じで、たこ焼きを作れるようになるかはわからないのです。

ベトナムの工場のデザインはベトナム人が、ミャンマーの工場のデザインはミャンマー人がするべきで、その技術を日本に学びに来てほしい。たこ焼きを作れるようになってほしいわけです。南相馬に作っている研修所は、そのためのものです。

その人たちが、将来、私たちから巣立っていってもいいと思っています。最高のエンジニアになってもらえばいい。母国で起業するかもしれませんし、後継者がいない日本企業の事業承継をしてもらえれば、とてもありがたい。同じ釜の飯を食った仲間の1人が日本でモジュールを作り、母国に戻った別の1人がそれを購入して製品を作る、ということになれば嬉しいですね。

こうお話しすると、スマートファクトリーの技術もやっぱり海外流出するんじゃないかと思われるかもしれません。しかし、これからはハードよりもソフトが重要になります。極端に言えば、ハードは売らず、サブスクでもいい。大事なのはそれを制御するシステムです。そして、そのシステムはプラットフォーム化して、オープンイノベーションが起こる場にすればいい。GitHubやイーサリアムのようなイメージです。そのプラットフォームの運営を日本がすればいいのです。

スマートファクトリーの発想は、工場の建設やラインの製造を自社ですべて引き受けて利益を大きくしようという考え方からは、生まれてこないと思います。しかし、日本の製造業が復権する道はここにあると、確信しています。

天野眞也(FAプロダクツ会長)
(『THE21オンライン』2020年06月08日 公開)

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