《今、日本を覆っている不安やストレスの正体は何か? 新型コロナウイルス自体のみならず、行動やビジネスが制限されていることなどが挙げられるだろうが、精神科医の名越康文氏は、本質は別のところにあると指摘する。》(取材・構成:塚田有香 写真撮影:まるやゆういち)
※本稿は『THE21』2020年7月号より一部抜粋・編集したものです。
「STAY HOME」で罪悪感を抱く人たち
新型コロナウイルスの流行は、人々の心に様々な影響をもたらしている。未知の感染症に対する恐怖、仕事の先行きが見えない不安、外出自粛やリモートワークなどの環境変化によるストレス。はっきりとした自覚はなくても、どことなく落ち着かない気持ちで日々を過ごしている人も多いだろう。
パンデミックという危機的状況に直面した日本人の心の変化を、精神科医の名越康文氏はこう読み解く。
「『STAY HOME』が合言葉になって以降、外出している人たちをバッシングするなど、他者に対して加害的になる人が一部に出てきているのは確かです。ただ僕が見る限り、むしろ日本人の多くは、『自分が加害者になってはいけない』という意識のほうが強いんじゃないでしょうか。だから『自分が外出することで、感染を拡大させてはいけない』と考え、多くの人が家に閉じこもりました。
しかし、『STAY HOME』の目的は、人との接触を避けて感染拡大のリスクを減らすことであって、家にいることはあくまで手段でしかない。ところがいつしか手段が目的化し、『絶対に家にいなければならない』と皆が考えるようになった。そして、買い物などの必要な外出であっても、家から出ることに罪悪感を覚えるようになりました。
本来の目的から考えれば、3密を避けて感染のリスクを減らす行動を取れば、必要な外出はしても構わないはずです。なのに多くの人は、背負わなくてもいい余計な罪悪感にまでさいなまれている。それはストレスが過ぎる生き方だと思います」
私たちが罪悪感を抱きやすいのは、日本人に特有の気質も関係している。
「日本人には、無意識レベルでつい周囲に合わせてしまう過剰適応な人が多いと思います。『人に迷惑をかけてはいけない』と教育されてきたので、他人の要求に応えることを優先する。ここまでは世界に誇る美徳だと思うのですが、要求に応えられないことをなんでも自分が悪いと感じ取るようになると、これはまさに過剰適応です」
先日もある企業に入社したばかりの若い社員さんたちのお悩みを聞いたのですが、『自宅にいると、なんだか自分が毎日悪いことをしている気がする』と言っていました。社会貢献できていないことを悩んでいるのです」