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「札仙広福」の人口移動から見た不動産需要の今後

都市未来総合研究所 主席研究員  / 下向井 邦博
週刊金融財政事情 2020年7月13日号

 札幌市や仙台市、広島市、福岡市(以下、地方4市)は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏に続く中心都市であり、人口や商業・住宅等の都市機能が集積する。近年、地価公示や都道府県地価調査で地方4市の地価の平均上昇率が3大都市圏を上回り、不動産投資の対象としても、地域分散や、東京都心等に比べて高い投資利回りを求める観点などから注目される。

 都市の活力にとって人口増加は大きな要素と考えられる。図表に示すように、地方4市はそれぞれ2020~35年に人口のピークを迎えると推計されている(15年国勢調査人口基準)。近年の都市の人口増加は自然増より社会増の影響が大きいことから、地方4市において10~19年の10年間の住民基本台帳人口移動報告の転入超過(日本人のみ、以下同じ)の年間平均を取ると、札幌市は8,569人、仙台市は3,379人、広島市は1,045人、福岡市は8,383人であった。札幌市と福岡市の近年の転入超過は、1万人前後で拮抗して推移している。人口のピークが20年と予測される仙台市は、東日本大震災後に一時的に転入超過が拡大しており、直近5年間の平均では1,567人になる。同じく20年がピークの広島市は数百~千人前後の転入超過が続いてきたが、昨年は319人の転出超過に転じた。

 地方4市の転入・転出の状況を年齢構成別に見ると、4市で特徴が異なる。札幌市における転入者のうち65歳以上の老年人口の割合は19年で9.9%であり、他の3市の5~6%台に比べて高い。高齢化や郊外の過疎化が進み、医療福祉施設や交通インフラが整備された利便性の高い札幌市へ移住する高齢者が多いためと考えられる。広島市は15歳未満の年少人口の転入者の割合が他3市に比べ2%ポイントほど高く、子育て世帯の転入者の割合が比較的高いとみられるが、転出者も多く、年少人口は転出超過である。昨年は15歳以上64歳以下の生産年齢人口も転出超過に転じ、老年人口のみが転入超過となった。

 この2市に比べ、仙台市と福岡市は生産年齢人口の転入者の割合が2~3%ポイントほど高い。ただし、仙台市では、生産年齢人口の転入超過が15~24歳の就学・就職を迎えた層だけに偏り、かつ減少傾向にある一方、福岡市は幅広い年代が転入超過で特に20代の層が分厚く、かつ増加が続いている。老年人口は両市共に転入超過であるが、その転入超過全体に占める割合は仙台市が約4割と高い一方、福岡市は1割に満たない。

 以上のような人口移動の状況が続くとすれば、福岡市は居住系および事務所や店舗等の商業系の不動産への需要が比較的高い水準で持続し、残り3市は高齢化や人口減等の人口・世帯構造の変化に対応すべく小世帯向け住宅や高齢者向け住宅、医療福祉系施設等への需要が高まると推察される。

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