新型コロナウイルスが日本のみならず、世界中で猛威を振るっている。緊急事態宣言に伴う外出自粛などの影響で需要が蒸発。外食や流通・小売業を中心に大きなダメージを受けているのは、読者の方々も実感していることだろう。そこでZUUonlineでは新型コロナに伴う銀行の融資姿勢に焦点を当て、3回に渡って特集「新型コロナで変貌する銀行」をお届けする。第1回は、中小企業を中心に資金繰り支援の現場と銀行の融資姿勢について見ていくことにしよう。

「全ての顧客を支えろ!」と大号令

新型コロナで変貌する銀行#1
(画像=【IWJ】Image Works Japan / pixta, ZUU online)

「今はとにかく耐える時期です。われわれも一生懸命支えますから一緒に耐えましょう」西日本に本店を構える地方銀行の幹部は、新型コロナに伴う緊急事態宣言発令後、取引先にそう伝えた。

外出の自粛によって人と物の動きが止まったことで、企業にとっては需要と供給が同時に“蒸発”するという異常事態に陥った。リーマンショックを始め、いくつもの危機を経験したこの幹部にとっても、「新型コロナウイルスは顧客への打撃が大きく、過去経験したことのないレベルのもの」だったと漏らす。

そうした状況下で銀行が貸さないという選択をすれば企業は倒産。そうなれば景気は低迷してさらに倒産が増え、判断を間違えば恐慌に突入してしまう──。そんな “負のスパイラル”が生じかねないとの危機感が金融界にまん延。メガバンクから地方銀行、そして信用金庫や信用組合に至るまで、あらゆる金融機関で融資や貸し出し条件の変更を迅速かつ積極的に受け入れ、「基本的に全ての顧客を支えろ!」との大号令がかかっていたのだ。

銀行は、これまで「晴れになったら傘を貸し、雨が降ったら取り上げる」と揶揄されてきた。経済が好景気で、企業の経営が好調な時にはどんどん融資を実行し、景気が後退して企業の経営が苦しくなると、一転して資金を引き揚げていくということを指した言葉だ。TBSの人気ドラマ『半沢直樹』でもそうしたシーンが頻繁に出てくるが、銀行のそうした姿勢が嫌われる要因にもなってきたことは否めない。

ところが、今回の新型コロナの場合は違った。緊急事態宣言が発出された後も、銀行は積極的に企業の相談に乗り、融資して企業の資金繰りを支えたのだ。

貸さない銀行が貸し始めた“事情”

銀行の積極的な支援が功を奏し、足元では企業倒産の連鎖は回避できている。渋谷で飲食店を営む経営者も「自分の周りで融資が受けられなかったという人は聞いたことがない」と驚くほどだ。

全国の銀行と信用金庫の貸出残高は、4月末時点で553兆4863億円と、20年ぶりに過去最高を更新。5月はそれをさらに上回る562兆5464億円となり、前年同月比の伸び率も過去最大を記録している。返済猶予を始めとする融資条件の変更に99.8%(5月末時点)と、ほとんど応じている状況。応じてないのは、「実際は資金に余裕があって、条件変更の必要がない」企業くらいだ。

こうした積極姿勢の背景にあるのは、なんといっても政府の後押しだ。

金融庁は、金融機能強化法に「新型コロナ特例」をもうけた。これは、これまで15年だった公的資金の返済期限を撤廃したほか、これまで求めていた収益性や効率性の目標や経営陣の経営責任も求めないとして、公的資金を注入しやすくしたもの。つまり、銀行に万が一のことがあっても金融庁が全面的に支えるとの意思表示をしたといえるのだ。

それだけではない。資金面でも、6月に成立した第2次補正予算で、企業の資金繰り支援に約12兆円を計上するなど、国を挙げてバックアップする姿勢を示している。ここまでされては銀行も協力せざるを得ないというわけだ。

それでなくても、過去、「いじめ抜かれた」(銀行幹部)金融庁には逆らいづらい。もちろん、「地域を支えなければ、負のスパイラルに陥りかねず、自分たちの経営に跳ね返ってきる」(同)との危機感もあるが、「今は政府の方針通りに融資しておいた方が得策」(同)との思いもあるのだ。