新型コロナウイルスが日本のみならず、世界中で猛威を振るっている。緊急事態宣言に伴う外出自粛などの影響で需要が蒸発。外食や流通・小売業を中心に大きなダメージを受けているのは、読者の方々も実感していることだろう。そこでZUU onlineでは新型コロナに伴う銀行の融資姿勢に焦点を当て、3回に渡って特集「新型コロナで変貌する銀行」をお届けする。最終回の今回、新型コロナで自らの損即が危ぶまれる地銀の苦境について見ていくことにする。

ふくおかFGの与信費用が10倍以上に

新型コロナで変貌する銀行#3
(画像=ナオ / pixta, ZUU online)

銀行の2019年度決算が相次いで発表された5月半ば、地方銀行業界で注目を集めた決算があった。その銀行はふくおかフィナンシャルグループ(FG)。福岡、熊本、親和、十八の4行を傘下にかかえる大手地銀グループだ。

とはいえ注目を集めたのは利益ではない。不良債権の処理にかかる費用や、貸し倒れの発生に備えた引当金のことで、「与信費用」と呼ばれるものが「驚くべき水準だ」(地銀幹部)と話題を呼んだのだ。ふくおかFGは2019年度決算で、傘下4行合わせて614億円もの与信費用を計上。これは、18年度の与信費用51億円の10倍以上にも上る金額だ。

他の大手地銀と比較しても、その大きさは際立っている。横浜銀行を傘下に持つコンコルディアFGの与信費用は245億円。ふくおかFGの貸出残高が約16兆円、コンコルディアFGが約13兆円であることを考慮しても、ふくおかFGの与信費用がいかに大きいかが分かる。

これだけ大きな与信費用計上に踏み切ったのは、将来のリスクを大きく見積もっているからだ。614億円のうち、418億円は「フォワードルッキング引当」と呼ばれるもの。景気の良かった直近の低い倒産実績を元に引き当てるのではなく、将来、景気後退が起きた際にどの程度倒産が発生するかを折り込んだ「予防的」な引当のことだ。つまりふくおかFGは、これから倒産がまだまだ増えると見ているのだ。

確かに現時点では、国ぐるみの“異次元融資”によって、インパクトのわりに倒産件数は多くない。だがそれは、あくまでも現時点での話。金融関係者の間では、そう遠くない将来、ふくおかFGの想定が現実のものになる可能性もあると見られているからこそ、ふくおかFGの与信費用に関心が集まったのだ。

たとえ今、足元の資金繰り問題を乗り越えられたとしても、需要が元に戻るわけではなく、時間の経過と共に体力のない企業は弱っていく。そんなときに第2波、第3波に襲われれば、力尽きる企業は少なくない。

さらにいえば、コロナ以前から構造的な問題を抱え、本来は市場から退場すべきだった “ゾンビ企業”たちが、甘い審査による融資や条件変更によって生きながらえている。国や銀行による支援があるうちはいいが、それにも限界があり、途絶えたときには企業がばたばたと倒れていくだろう。

そうなれば、まさに「不良債権地獄」の到来だ。確かに経済をストップさせてしまいかねないほどのインパクトがあったため、緊急対応は必要だった。だが、その結果として、銀行は不良債権という大きな“時限爆弾”を抱えてしまったのだ。

3〜5年後に時限爆弾が弾ける可能性も

では、不良債権という名の時限爆弾はいつ弾けるのか。

大手地銀の営業担当者は、「3年後から5年後に不良債権化するリスクを感じながら融資をしている」と危機感を募らせる。「融資先は、飲食業や小売業が中心。客足はコロナ前の水準に戻らず、もって3年程度」(同)というのだ。

もう一つ理由がある。資金繰り支援の中心となっている日本政策金融公庫や民間金融機関による実質無利子融資の中身を見てみると、実質無利子となる期間は3年、元金返済の猶予据え置き期間は最大5年に設定されている。企業はこの期間内に事業を立て直し、返済できる体制を整えられなければ倒産の憂き目に合ってしまう、そのときに爆弾が弾けるのではないかというわけだ。

こうした状況に、ふくおかFG同様、危機感を強める地銀は少なくない。ただ、「引き当てを積み過ぎると赤字に陥ってしまうためできない。本音ベースではもっと積んでおきたい」と大手地銀幹部は語る。中には、将来リスクに備えるどころか、足元の影響に対する引き当てすら十分に積めていない地銀もある。

ある地銀の財務担当者は、「将来に備えた与信費用の計上を検討していたが、営業担当者から『自分たちは倒産させないように支えているのに、なぜそんなことをするのか』と反対されてできなかった」と明かす。こうした現状を鑑みると、19年度決算で各地銀が積んでいる与信費用では十分ではなく、不良債権の増大次第では自己資本を毀損してしまう銀行が相次ぐ可能性も否定できない。

自己資本比率8%以下が15行も

では、そうした際にどういう銀行が危ないのだろうか。

ある第2地銀の幹部は「危険な銀行を見分ける方法は自己資本比率と経費率。この2つの指標が全て」と言い切る。というのも銀行、中でも地銀は少子高齢化に伴うマーケットの縮小に加え、マイナス金利政策によって、構造的に稼げなくなっている。そうした中では「自己資本を強固にしながら、経費を削るしか生きていく方法がない」(幹部)からだ。

そういう視点で見ていくと、既に危険水域に突入している地銀も少なくない。

銀行には、経営の安定性を重視する観点から自己資本比率規制が定められており、海外拠点のない「国内基準行」は4%以上、海外拠点を持つ「国際基準行」は8%以上が求められている。地銀の大半は海外拠点を持たない国内基準行だが、リーマンショック以降、健全性の目安として8%以上を求められることが多い。そこで、8%を基準に19年度決算を見てみると、地銀102行中15行が8%を割り込んでいる。さらに、半分以上の66行が前期よりも比率を低下させている。

こうした中、さすがに当の地銀も危機感を持ち、経営統合するなど再編に動き始めた。例えば7.20%で最下位の筑邦銀行(福岡)や7.35%でワースト2位の島根銀行、そして7.89%で13位の福島銀行は、SBIホールディングスの出資を受け、彼らが打ち出す「第4のメガバンク構想」の中で経営再建を進めている。

 また、いずれも三重県にある5位の三重銀行と15位の第三銀行は、21年5月にも合併して「三十三銀行」になる方針を打ち出しているほか、6位のみなと銀行(兵庫)と9位の関西みらい銀行(大阪)は関西みらいFG傘下に、9位の徳島大正銀行はトモニホールディングス傘下に、そして11位の東日本銀行(東京)はコンコルディアFG傘下に入るなど、周辺地銀との再編を進めている。

一方、経費率を見ていこう。山口銀行や福岡銀行、千葉銀行といった大手地銀は軒並み50%台と健全な状態だ。しかし驚くべきことに、みちのく銀行は105.2%、島根銀行は104.3%、長崎銀行は101.2%と、経費が粗利を超えて経費率が100%を超えている異常な地銀が3行もあるのだ。そこまでいかなくても80%台の地銀も多く、コスト高になっていることが見て取れる。

経費率が100%を超えているところはいずれも再編に乗り出し、経費削減策を打ち出すが、「再編をしても費用先行となって簡単にコストは削れない。果たして存在価値があるのだろうか」(地銀幹部)といった声は根強い。

前述したように、不良債権爆弾は3〜5年で弾けそうとの見方が地銀界には根強い。となると、残された時間はあとわずか。その間に抜本的な改革に乗り出さなければ、銀行自身が存亡の危機に陥り、引いては地方経済への影響も軽微では済まなくなるだろう。