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国債大量増発で懸念強まる需給の緩み

バンク・オブ・アメリカ チーフ金利ストラテジスト / 大﨑 秀一
週刊金融財政事情 2020年7月20号

 新型コロナウイルスに対応する政府の経済対策を受け、7月から日本国債の発行が大幅に増加している。これにより、日銀の国債買い入れがどう変化するのか注目された。黒田東彦日銀総裁は、「超長期金利の過度な低下は、保険や年金等の運用利回りを過度に低下させ、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」としつつも、「仮に政府が国債を増発しても長期金利が引き上がることのないように、自動的にいわば財政と金融の協調が行われる」「足元で一番重要なのは、イールドカーブ全体を低位で安定させること」などと発言していた。このため、日銀は国債増発に合わせ、7月から国債買い入れを増やすことが期待されていた。

 しかし、日銀の買い入れ増額幅は市場予想を下回った。日銀は5、6月と前もって国債買い入れを増やしていたため、7月の増額幅が限られたのかもしれない。しかし、発行額に対する日銀買い入れの割合は4月の水準を下回っている(図表)。日銀が7月の国債買い入れ予定を公表した直後は債券価格が下落したものの、その後の入札はしっかりとした結果となり、足元の市場は落ち着いた動きとなっている。

 とはいえ、補正予算に伴う国債増発規模が巨大であるため、需給が緩むことは十分想定される。7月以降、日銀による買い入れを除いたネット供給は大幅に増加する。4月時点と比較して10年以下のセクターで1カ月当たり6,700億円程度、10年超のセクターで5,000億円程度ネット供給が増えることになる。それが少なくても来年3月まで続く見込みだ。つまり、それだけの量を毎月コンスタントに吸収する新たな投資家需要が必要ということになる。

 日本証券業協会によると、過去1年間の生保勢による超長期債の買い越し額は、月平均ネットで4,600億円程度。超長期債の供給を吸収するためには、新たに生保業界に匹敵する需要が必要ということになる。さらに、ここ数年は日銀に次ぐ買い手となっていた海外勢の需要も足元で低下している。やはり、需給は緩みがちになりそうだ。

 確かに、10年債利回りが上昇しても、その誘導目標レンジとして日銀が示唆している±0.2%の範囲内に収まっていれば特に問題視されることはないのかもしれない。しかし、ボラティリティーが急上昇したり、円高が進んだりした場合は別であろう。金利が上昇するようなマクロ環境ではないものの、国債増発規模が巨大であるため、需給に対する懸念は強い。日銀が金利上昇に歯止めを掛けるために国債買い入れを増やしたり、今年3月のように臨時の国債買い入れオペを実施したりする可能性は低くないとみている。逆に日銀が買い入れ増額を躊躇すれば金利が急上昇するリスクがあろう。

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