欧州経済見通し
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経済活動の「水準」は戻らず今年は厳しい落ち込みに

三井住友銀行 チーフ・マーケット・エコノミスト / 森谷 亨
週刊金融財政事情 2020年7月20号

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの国で、ロックダウンと経済活動再開の最初のサイクルが一巡し、活動再開を反映した6月分のマクロ経済指標が各国で利用可能だ。

 米国で顕著に改善している指標の代表格は、ISM指数だ。ロックダウン本格化を受けて4月に製造業41.5、非製造業41.8と急落した後、活動再開を受けて6月には製造業52.6、非製造業57.1と、コロナ前を上回るほどのところまで反発している。

 ただ、この種の指標は、「前月から改善したか、悪化したか」のみを聞いて集計するもので、「方向感」を見ることに特化している。経済活動が「水準」として、どれだけ落ち込み、そのうちどれほどを取り戻したのかは判断できない。「水準」を示す代表的な例としては、労働力の稼働「水準」を示す失業率が挙げられる。失業率はロックダウン前の2月の3.5%が4月に14.6%まで上がった後、6月には11.1%と、コロナ前の状況を取り戻せていないことが分かる。

 確かに、「方向感」が好転しないよりはいい。ただ今後は、経済の活動水準がどれだけ速やかに回復するかがポイントとなる。というのも、経済活動がトレンド・レベルを下回る状態が長期間続くと、失業者のスキル喪失などの「負の履歴効果」によってトレンド自体が下方に引っ張られてしまう可能性があるからだ。リーマンショック後には、それが実際に起こった。

 「負の履歴効果」を払拭できる可能性は極めて厳しい。新型コロナについては、相応の強度でロックダウンが行われれば感染拡大を抑え込むことは可能だが、緩めれば再加速するだけの基本再生産数(1人の感染者が発症期間中に何人に感染させるかを示す数)を持っているということが分かってきている。ワクチン・治療薬が開発されるまでの間は、経済を全開にすることは難しい。

 実際、CBO(米議会予算局)による米国の成長率の見通しは、2020年5.9%減、21年4.8%増となっており、この見通しどおりに推移すると、トレンドである潜在GDPと実際のGDPの差であるGDPギャップは、20年第2四半期にマイナス11.6%まで急拡大した後、21年第4四半期時点でもマイナス4.6%までしか縮小しない(図表)。IMFの成長率見通しに至っては、20年8.0%減、21年4.5%増とさらに悲観的だ。

 このような停滞が続く場合、いずれかの時点で、一段の需要押し上げを狙った追加の財政出動が要請される可能性がある。ただし、それが所期の効果を発揮するかどうかは、感染状況次第であろう。

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(提供:きんざいOnlineより)