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インド経済は40年ぶりにマイナス成長となる公算大

第一生命経済研究所 主席エコノミスト / 西濵 徹
週刊金融財政事情 2020年7月27日号

 新型コロナウイルスの世界的大流行が2020年の世界経済の想定を一変させている。足元では感染拡大の中心地が新興国にシフトしており、医療インフラが脆弱な上、冬を迎えている南半球の感染拡大は事態収束を困難にすると懸念される。

 インドでは、感染確認がアジアの新興国の中では比較的遅く、その後も感染拡大ペースが緩やかであったため、当初は感染の封じ込めに成功しているかに見えた。しかし、3月以降は感染が拡大したため、モディ政権は急きょ全土を対象とする外出禁止令に踏み切る強硬策に動いた。モディ政権は、16年末に実施した高額紙幣廃止措置、翌17年に導入したGST(財・サービス税)など、唐突な政策で混乱を招いたが、外出禁止令も突如実施された結果、大都市から地方への大移動が起きて大混乱となった。結果的に地方に感染が拡大し、あらためて準備不足が露呈した格好である。

 ところが、モディ政権は4月末以降、一転して感染リスクが低い地域の外出制限の緩和に動いた。外出禁止令を受けて企業マインドは過去に見たことのない水準に落ち込み、景気に甚大な影響を及ぼしたためだ。6月以降は全土で外出禁止令を解除しているが、州政府レベルでは州をまたぐ移動が規制され、対応のちぐはぐ感は否めない。なお、外出禁止令が段階的に解除されたことで、4月に大きく落ち込んだ企業マインドは5月以降持ち直しているが、依然、好不況の分かれ目となる水準を下回り、回復にはほど遠い。今年1~3月の実質GDP成長率は前年比3.1%増と世界金融危機直後の09年1~3月(同0.2%増)以来の低成長となったが、足元では一段の下振れは避けられなくなっている。

 なお、モディ政権は財政出動に動いており、中央銀行も金融緩和や企業に対する返済猶予(モラトリアム)の延長などの資金繰り支援を通じた景気下支えを図っている。しかし、インドは慢性的に経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱えており、過度な歳出拡大は急激な財政悪化を招き、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を一層脆弱にするリスクをはらんでいる。また、ここ数年インドでは国有銀行を中心とする不良債権が流動性リスクを通じて経済成長の足かせとなる状況が続いてきたが、景気減速により不良債権が大きく膨張する懸念もある。抜本的な構造改革も進まず先行きの景気回復の重しとなることも懸念され、20年度のインド経済は4.4%減と、40年ぶりにマイナス成長に陥る公算が大きい。

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