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自然災害を大幅に上回る新型コロナの経済損失

(米国議会予算局「名目GDP予想」)

第一生命経済研究所 主任エコノミスト / 桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2020年7月27日号

 米国での自然災害による経済損失額は、地球温暖化・自然破壊などに伴う自然災害の増加やその規模の拡大によって、増加傾向にある。米海洋大気庁(NOAA)によると、2017年には、米国史上最悪となる2,650億ドルの被害額が、三つの大型ハリケーン(被害額が史上2番目の1,250億ドルのハービー、同3番目の900億ドルのマリア、同5番目の500億ドルのイルマ)の襲来でもたらされたほか、被害額が10億ドルを超える洪水・寒波・火災などの自然災害が合計16件発生したことで、自然災害による経済損失は過去最大の3,060億ドルとなった。それまでは、三つの巨大なハリケーン(カトリーナ、ウィルマ、リタ)が襲来した05年の2,150億ドルが最大だった。

 ただし、このような自然災害が発生したときでも、米国の名目GDP成長率は05年が6.7%、17年が4.3%と高い水準を維持しており、景気後退に陥ることはなかった。これまでの自然災害は、全米ではなく一部の地域で発生したため、規模の大きい米国経済は損失を吸収できたからだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大も当初、中国・アジア地域にとどまっていた。そのため、米国経済への影響は、サプライチェーンの毀損や中国向け輸出の減少に限られ、自然災害と同様に一時的なものとみられていた。しかし、感染拡大はパンデミックとなり、米国全土に広がった。治療薬やワクチンがないため、感染拡大を抑え、ICUや病床などの不足を回避するために、ロックダウン(都市封鎖)や外出制限のほか、密閉空間・密集場所・密接場面の「3密」を避けて社会的距離を保つ政策が実施され、米国経済はマイナス成長に陥った。経済損失額は、自然災害の数十倍に及ぶ可能性が高い。

 新型コロナを巡っては、感染力の高さや発症前の感染拡大などの特徴が報告されているが、拙速なロックダウンの解除や行動制限の緩和、マスクの不着用、「3密」回避の不徹底などによって、感染拡大ペースが再び加速している。7月19日時点で米国の累計感染者数は約371万人、死者数は約14.0万人と、いずれも世界最多となっている。

 米国議会予算局(CBO)の推計による新型コロナの感染拡大前と拡大後の名目GDP予想を比較すると、20年の成長率は4.2%から▲5.1%に大幅に下方修正され、同年だけで約2兆ドルの経済損失になる。さらに、企業倒産や失業者の増加による経済基盤の毀損、「ウィズコロナ」に対応するためのコストの増加などの影響を考慮すると、10年間で合計17.4兆ドルの経済損失が生じると試算されている(図表)。

 当然、この予想には自然災害の影響は含まれていない。コロナ禍で自然災害への対応が遅れたり、避難先でウイルスの感染が拡大したりすれば、経済損失額は一段と拡大する恐れがある。

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